「Radeon RX 6900 XT」のざっくり性能比較・評価です。「GeForce RTX 3090」よりは大幅に安い超高価ハイエンドGPUの実力をざっくり見ていきます。
本記事の情報は記事執筆時点(2020年12月10日)のものです。ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。
仕様
まずは、主要な仕様だけざっくりと載せています。
簡易比較表
GPU | シェーダー ユニット数 |
メモリタイプ メモリ容量 |
メモリ転送速度 メモリ帯域幅 |
レイトレ用 コア数 |
ダイサイズ | TDP | 参考価格 (北米) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
RTX 3090 | 10496 | GDDR6X 24GB |
19.5Gbps 936GB/s |
82基 | 約628㎟ | 350W | 1,499ドル |
RX 6900 XT | 5120 | GDDR6 16GB |
16Gbps 512GB/s |
80基 | 約519㎟ | 300W | 999ドル |
RTX 3080 | 8704 | GDDR6X 10GB |
19Gbps 760GB/s |
68基 | 約628㎟ | 320W | 699ドル |
RX 6800 XT | 4608 | GDDR6 16GB |
16Gbps 512GB/s |
72基 | 約519㎟ | 300W | 649ドル |
RX 6800 | 3840 | GDDR6 16GB |
16Gbps 512GB/s |
60基 | 約519㎟ | 250W | 579ドル |
RTX 3070 | 5888 | GDDR6 8GB |
14Gbps 448GB/s |
46基 | 約392㎟ | 220W | 499ドル |
RTX 3060 Ti | 4864 | GDDR6 8GB |
14Gbps 448GB/s |
38基 | 392㎟ | 200W | 399ドル |
「Radeon RX 6900 XT」の北米参考価格は999ドルです。対抗と思しき「RTX 3090」よりも500ドルも安くなっています。TDPは「RTX 3090」よりも50Wも少ない300Wとなっており、下位の「RTX 3080」と比べても20W少ないです。非常に効率的なGPUであることも伺えます。
仕様的には「RX 6800 XT」からシェーダーユニットとレイトレーシング用コアが約1割増えたくらいのものとなっています。よって「RX 6800 XT」が少し強化されたという感じです。その他の仕様はメモリやクロックを含めほぼ同じになっています。
ただし、価格の上昇は350ドル(約54%)と非常に大きく、少しだけの強化(チップ仕様からすると約1割)がされただけにしては値上げ幅が大きすぎる様に見えます。そのため、単純なコスパ目的では微妙に見えます。ただ、最上位のハイエンドGPUは大体そうなので、焦点はワットパフォーマンスというところになるかと思います。
ゲーミング性能
ゲーミング性能は、言葉の通りゲームをする際のパフォーマンスの性能です。実際にゲームを動作させた際の平均FPS数を見ていきます。今回は9種類のゲームでのデータを基に見ていきます。設定は基本的に最高品質です。使用されたCPUは「Core i9-9900K」となっています。その他のスペックなどの詳細は、お手数ですが記事上部の参考リンクを参照お願いします。
また、「Radeon RX 6000シリーズ」については「Ryzen 5000シリーズ」と併用する事でパフォーマンスが向上する「Smart Access Memory(表のSAM)」という機能があります。表では、「Ryzen 5 5900X」で「Smart Access Memory」を有効にした上で、メモリーをDDR4-3800という一般的なものより高速な仕様にした場合のスコアも参考に載せています。
1080p(最高品質)
FHD(1920×1080)です。最低限の解像度という感じですが、2020年現在では最も主流な解像度です。ハイエンドGPUを使用していても、FPSやTPSでは出来るだけ高いFPS数を維持するためこの設定にするのが主流だと思います。
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
RX 6900 XT SAM+DDR4-3800 |
203.8
|
RTX 3090 |
198.3
|
RX 6900 XT |
191.9
|
RTX 3080 |
188.4
|
RX 6800 XT |
182.1
|
RX 6800 |
165.2
|
RTX 2080 Ti |
160.0
|
RTX 3070 |
159.6
|
RTX 3060 Ti |
145.0
|
RTX 2080 SUPER |
141.5
|
RTX 2070 SUPER |
126.4
|
RX 5700 XT |
119.7
|
RTX 2060 SUPER |
109.4
|
RX 5700 |
108.0
|
1080pでは十分すぎるパフォーマンス
1080pでは平均200fpsクラスの非常に高い性能です。重いゲームが中心の最高設定でこの結果なので、実環境では基本的に平均240fpsを超えてくるものと思われます。十分すぎるパフォーマンスです。このクラスのGPUではもう1080p環境は余裕ですね。
「RTX 3090」に約3.3%とわずかに遅れますが、500ドルの価格差を考えれば明らかに「RX 6900 XT」の方が有利ですし、どちらも十分すぎるパフォーマンスなので単純に安くて消費電力の少ない「RX 6900 XT」の方が有利です。Smart Access Memory有効かつ高速メモリー使用時には未使用時よりもfpsが約6.2%向上し、「RTX 3090」をも少し上回ります。
また、「RX 6800 XT」と比較すると約5.4%上回りますが、約1.5倍の価格上昇の割には性能向上率は微妙です。やはり高すぎる価格のせいでコスパは悪いという点は、「RTX 3090」と同様です。特に1080pでは「RTX 3080」や「RX 6800 XT」以下のGPUでも十分なパフォーマンスを得ることができるので、約1000ドルの費用を出す意味は小さいと思います。
1440p(最高品質)
WQHD(2560×1440)です。1080pでは性能を少し持て余してしまう場合に利用する解像度です。現在の主流解像度は1080pですが、GPU性能が全体的に大幅に向上してきているため、徐々にこの1440pが主流解像度に切り替わっていく気がします。
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
RTX 3090 |
167.5
|
RX 6900 XT SAM+DDR4-3800 |
166.1
|
RX 6900 XT |
159.4
|
RTX 3080 |
155.1
|
RX 6800 XT |
150.1
|
RX 6800 |
133.7
|
RTX 3070 |
125.0
|
RTX 2080 Ti |
124.1
|
RTX 3060 Ti |
110.6
|
RTX 2080 SUPER |
107.2
|
RTX 2070 SUPER |
94.4
|
RX 5700 XT |
88.2
|
RTX 2060 SUPER |
80.0
|
RX 5700 |
78.6
|
1440pでも平均144fpsを超える十分なパフォーマンス
1440pでは160fps程度を記録しました。重いゲームが中心でかつ最高設定でこの結果なら、実環境では基本的に平均200fps以上は出ると思います。低設定や軽めのゲームなら240fpsも狙えると思います。1440pでも十分なパフォーマンスです。
「RTX 3090」には約4.8%とわずかに遅れます。1080pよりも差が少し広がりましたが、やはり500ドルの価格差を考えれば明らかに「RX 6900 XT」の方が有利です。「RX 6800 XT」に対しては約6.2%上回ります。約1.5倍の価格差ほどの優位性は当然ながら得られないです。
Smart Access Memory有効かつ高速メモリー使用時にはfpsが約4.2%向上します。それでもまだ「RTX 3090」にわずかに届きませんが、同等のパフォーマンスと言って良いレベルだと思います。ただし、1080pではSmart Access Memory有効時には「RTX 3090」以上のfpsが出ていたので、「RX 6800 XT」と同様に、メモリ帯域幅が劣っている影響がやや出ている様に感じました。
4K(最高品質)
「超高解像度の代名詞」ともいえる解像度の4K(3840×2160)です。非常に繊細で綺麗な映像になりますが、その負荷の大きさから高いFPSを出す事が難しいためTPSやFPSなどの対人競技ゲームで利用されることはまずないです。グラフィックの綺麗さや臨場感が重要なゲームを中心に需要のある解像度です。
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
RTX 3090 |
108.2
|
RX 6900 XT SAM+DDR4-3800 |
102.0
|
RX 6900 XT |
100.7
|
RTX 3080 |
97.4
|
RX 6800 XT |
93.2
|
RX 6800 |
81.4
|
RTX 3070 |
74.2
|
RTX 2080 Ti |
73.8
|
RTX 3060 Ti |
65.2
|
RTX 2080 SUPER |
62.2
|
RTX 2070 SUPER |
53.8
|
RX 5700 XT |
49.7
|
RTX 2060 SUPER |
45.1
|
RX 5700 |
44.4
|
4Kでも100fps以上
最高設定の4Kでも100fps以上です。非常に高いパフォーマンスです。重いゲームが中心かつ設定を下げることも考慮すると、fpsはもっと高くなると思われますし、モニターのリフレッシュレートが144~165Hz以下の場合なら、対人対戦ゲームでも実用レベルだと思います。
ただし、「RTX 3090」と比較すると約7%遅れており、1440pよりも更に差が広がっています。やはりメモリ帯域幅の影響が大きい気がします。価格差を考えればコスパは圧倒的に勝りますが、このクラスの環境だとデバイスの費用を度外視する人も多いので何とも言えないです。
それに、コスパという観点なら「RTX 3090」と「RX 6900 XT」は高すぎる価格のせいでコスパは悪い点が致命的であり、価格の安い下位クラスGPUの方に圧倒的に優位性があります。たとえば「RX 6900 XT」は、300ドル安い「RTX 3080」と比較しても数fpsというわずかしか優位性が得られていません。
また、4KではSmart Access Memory有効かつ高速メモリー使用時でもfpsが約1.3%しか向上しませんでした。
レイトレーシング性能
レイトレーシング利用時のパフォーマンスを見ていきます。10種類のゲームでの平均FPSです。最高設定です。
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
RTX 3090 |
94.7
|
RTX 3080 |
85.9
|
RX 6900 XT |
71.8
|
RTX 3070 |
68.2
|
RTX 2080 Ti |
68.0
|
RX 6800 XT |
67.0
|
RTX 3060 Ti |
60.6
|
RTX 2080 SUPER |
58.5
|
RX 6800 |
57.7
|
RTX 2070 SUPER |
50.6
|
RTX 2060 SUPER |
43.6
|
「RTX 3080」に大幅に劣るレイトレーシング性能
レイトレーシング性能は300ドル安い「RTX 3080」にも大幅に劣っています。半額未満の「RTX 3070」と同等のパフォーマンスです。
「RX 6800 XT」などを見てもわかりますが、現時点(2020年12月)での「RX 6000」シリーズはレイトレーシングへの最適化が「RTX 30シリーズ」に大幅に劣ります。レイトレーシング用コアを80基も備えているのに46基しか備えない「RTX 3070」と大差ない、というのは結構な差です。
また、NVIDIA製のGPUではDLSSを使用することができます。DLSSはざっくり言うとAIによるパフォーマンス向上機能です。レイトレーシングのような高負荷な環境では特にパフォーマンスを大幅に改善させる事が出来るため有用です。ただし、AMD製GPUではDLSSは使用できません。負荷が非常に大きいレイトレーシングではDLSSは非常に有用なので、これが使えないAMD製GPUは致命的です。
AMD製GPUにもFidelityFXというDLSSへの対抗機能と思われるものがありますが、少なくとも現時点(2020年12月)ではDLSSよりも開発は遅れており最適化にはまだ時間が掛かるような感じです。
そのため、「RX 6900 XT」という超ハイエンドGPUをもってしても、少なくとも現状は「RX 6000シリーズ」でレイトレーシングを高いfpsで利用することは不可能に近いです。
電力関連
消費電力
ゲームプレイ時(高負荷時)の平均消費電力を見ていきます。低い方が良い数値となります。測定に使用されたゲームは「Metro Exodus」で、解像度は「RTX 3060 Ti」以上のGPUは「2560×1440」で、その他は「1920×1080」です。
GPU名称 | 消費電力(W) |
---|---|
RTX 3090 |
361.3
|
RX 6900 XT OC |
358.2
|
RTX 3080 |
332.8
|
RX 6900 XT |
307.9
|
RX 6800 XT |
302.5
|
RTX 2080 Ti |
259.3
|
RTX 2080 SUPER |
245.5
|
RX 6800 |
233.1
|
RTX 3070 |
218.1
|
RX 5700 XT |
214.4
|
RTX 2070 SUPER |
212.6
|
RTX 3060 Ti |
205.8
|
RTX 2060 SUPER |
177.3
|
RX 5700 |
163.0
|
「RTX 3080」よりも少ない消費電力
「RX 6900 XT」のゲームプレイ時の平均消費電力は約308Wでした。「RTX 3080」よりも約25Wも省電力です。「RX 6800 XT」と比較すると約1.8%とわずかに上昇しましたが、差は非常に小さいです。性能向上率はおおよそ5~8%だったので、ワットパフォーマンスは上回ります。非常に効率的なGPUです。
「RTX 3090」と同様に高すぎる本体価格のせいで純粋なコスパは悪いですが、ワットパフォーマンスは非常に優秀で「RTX 3090」を含む他のGPUを圧倒しています。
まとめ
Radeon RX 6900 XT
- 1080p、1440pで余裕のパフォーマンス
- 優れた4Kゲーミング性能(平均100fpsを超える)
- RTX 3090より大幅に安くてコスパも上回る
- 非常に優れたワットパフォーマンス
- Ryzen 5000シリーズと併用で性能アップ(Smart Access Memory)
- 実用レベルのレイトレーシング性能(ただしまだ対戦ゲームでは厳しい)
- 非常に高価(北米参考価格999ドル)
- 消費電力が非常に多い(TDP300W)
- レイトレーシング性能がRTX 30シリーズに大幅に劣る
- DLSSが利用できない
- 「RX 6800 XT」より大幅に高いのに、性能と電力効率の向上率は小さい
基本「RX 6800 XT」の方が良い
冒頭でも述べましたが、「RX 6900 XT」と「RX 6800 XT」の仕様の主な違いはメインのシェーダーユニットとレイトレ用コアが約1割増えているくらいです。他はほとんどが同じ仕様です。実際のパフォーマンスの差もおおよそ5%~8%と大きくはありません。それにも関わらず価格は350ドルも高く(約54%上昇)なっており、コスパは大きく悪化しています。
「RX 6800 XT」より性能とワットパフォーマンスは少し向上しているために「優位性がない」という訳ではないですが、少なくとも個人利用では明らかに価格差ほどの優位性ではありません。「経済的に余裕があるので少しでも性能が高い方が良い」という場合や「少しでも電力効率が高い方が良い」という場合でなければ「RX 6800 XT」の方が良いです。
「RTX 3090」は圧倒(レイトレーシング以外)
「RX 6900 XT」は「RTX 3090」と匹敵する性能を持ちつつも、価格は500ドルも安く、消費電力も大幅に少ないです。コスパとワットパフォーマンスで「RTX 3090」を圧倒しています。
ただし、レイトレーシング性能は大幅に劣ってしまっている上に、DLSSも利用できません(後述)。ただしその事を考慮しても、「RTX 3090」との比較なら500ドルという価格差があまりに大きすぎるので、そのコスパと現状の実用性を踏まえた総評としては「RTX 3090」は上回っていると思います。
レイトレーシング性能は低い
従来の描画方法であるラスタライズでは「RTX 30シリーズ」に対してコスパやワットパフォーマンスで有利に立っていますが、残念ながらレイトレーシング性能に関しては明らかに劣っています。DLSSも含め、次世代技術への最適化という面においてはやや遅れている感は否めません。とはいえ、レイトレーシングは最適化によって性能が改善する可能性はありますし、AMDにもDLSSの類似機能は一応あるので、それの実用化が進めば差は小さくなる可能性もあります。
とはいえ、現状では「RX 6900 XT」をもってしても「RTX 3080」にすらレイトレーシング性能は大幅に負けてしまっています。レイトレーシング性能を利用したいなら、価格が高い分「RX 6900 XT」は最新世代GPUとしてはコスパ的には最も悪いGPU…となるかもしれないですね。
といった感じで、本記事は以上になります。ご覧いただきありがとうございます。