「Apple M1」ざっくり評価【性能比較】

2020年後半発売のMacBookに初搭載されたApple独自開発の新SoC(CPU)Appleシリコンの「Apple M1」のざっくり評価です。現在の一般的なノートPC向けCPUとは異なる「ARM」アーキテクチャ採用ということもあり、現状の他PCと一律の基準で性能や実用性の評価を測るのが難しいですが、とりあえず要点だけざっくりと見ていきたいと思います。

注意

本記事の内容は記事執筆時点(2020年12月17日)のものであり、ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。

Apple M1って?

Apple M1は、Mac向けとしては初となるApple製のSoC(System-On-Chip)です。記事執筆時点では、2020年後半モデルのMacBook Air、MacBook Pro 13、Mac miniに搭載されています。Apple Mシリーズとして今後もMacBook等で続いていくものと思われ、Apple M1はその初代となる訳ですね。

従来CPUと大きく異なる点

詳しい仕様や性能は後で見ていきますが、「Apple M1」は従来のMacBookで採用されていたIntel製CPUと根本的に異なる点が少しあるので、そこだけ先に触れておきたいと思います。

「Apple M1」従来のCPUと異なる点
  • ARMアーキテクチャ
    「Apple M1」はARMという命令セットアーキテクチャ採用のSoC(CPU)です。一般的なWindowsや従来のMac OSはx64というものとなっているため、それとは異なることになります。
  • RAM(メインメモリ)も統合
    Apple M1はチップ上にRAMが統合されています。従来のノートPC向けのCPUでは、RAMはSoCとは別に搭載するのが一般的でした。

ARMアーキテクチャのSoC

「Apple M1」はARMという命令セットアーキテクチャ採用のSoC(CPU)です。このARMというアーキテクチャは、現在はスマートフォン用のSoCとして主に利用されており、省電力性に優れることが特徴です。一般的なWindowsや従来のMac OSはx64というものとなっているため、それとは異なることになります。

更新の早い主要ソフトはApple M1(ARM)に既に対応しているものも多いですが、更新がやや遅かったり、単純に古いソフトなどはまだApple M1(ARM)に対応していないものも現状では多くあります。そのような、正式に対応していないソフト(x86対応)を使用するにはRosetta 2という変換技術を介することになります。ただし、その際には本来よりも多くのパフォーマンスが要求される(要するにパフォーマンスが低下する)他、不具合などが起きる可能性も本来より高い傾向があるため注意が必要です。

メインメモリまでも統合されたSoC

Apple M1はSoCにRAM(メインメモリ)までもが統合されています。従来のノートPC用のCPUでは、メインメモリは別に搭載することが基本でした。

Appleは、メモリも統合することにより各プロセッサとのアクセス速度が従来よりも高速化されるためパフォーマンスが向上すると主張しています。

仕様

主要スペック

Apple M1の主要な仕様です。


CPU Apple M1
プロセス 5nm TSMC製
命令セット ARM
コア/スレッド 8/8
(電力効率コア4、パフォーマンスコア4)
動作クロック(最大) 3.2GHz
L1キャッシュ 2MB
L2キャッシュ 16MB
GPUコア数 8コア
※MacBook Air下位モデルは7コア


CPUのコア数は8で、4つが電力効率に優れたコア4つが処理性能に優れたコアとなっています。このように、コア特性を電力効率に優れたコアと処理能力に優れたコアの2つに分けるのは、現在の主流のスマホやタブレット用CPUでよく見られる仕様です。Apple M1はノートPCに採用されるSoCながら、CPUのコア構成はスマホ用SoCに近い仕様となっています。

また、統合されたRAMのおかげで、従来のCPU(SoC)よりもRAMに高速にアクセスできるとされているため、CPUだけでなく統合GPUの性能も高まるとされています。

GPUのコア数は8です。Appleは、発表時点では他のどのiGPU(CPUの内蔵GPU)よりも高速と主張しています。注意点として、MacBook Airの安価モデルでは7コアとなっていることがあります(コア自体は8コア搭載しているが、最大7つまでしか稼働しない)

CPU性能(ネイティブ)

CPU性能を測る主要なベンチマークスコアを見ていきたいと思います。「Apple M1」はARMアーキテクチャのCPUのため、従来のCPU(x64)と基本的に動作環境が異なりますが、それぞれネイティブ環境で動作した際のCPU性能を見ていきたいと思います。2020年12月時点ではまだ全ての従来のMac OS対応ソフトがARMには正式に対応している訳ではないですが、これからMacBookはARMアーキテクチャのAppleシリコンに移行していくものと思われますから、対応ソフトはどんどん増えてくると思います。また、ARMアーキテクチャとなったので、iOS向けのアプリに関してはネイティブ環境で動作することが出来ます。

ファンレスの「MacBook Air」と冷却ファンのある「MacBook Pro」および「Mac mini」では処理性能にも差が出ると思われるので、スコアも分けようかと思ったのですが、少なくとも継続して高負荷で稼働させ続けない限りは、最大性能差はあまり無いみようで、ベンチマークスコアの差もほとんど無かったので、特に分けずに平均値を載せています。


シングルスレッド性能

シングルスレッド性能は、1コアでの処理性能を表します。シングルスレッド性能が高いと、軽い処理に掛かる時間が短くなる(サクサク動く)他、全コア稼働時にも当然影響がありますので、ほぼ全ての処理に対して有利に働きます。

今回は、Cinebench R23というベンチマークソフトで測定された数値で見ていきます。Apple M1にも正式に対応しているベンチマークテストです。

Cinebench R23 Single
CPU名称
スコア
Apple M1
1514
Core i7-1165G7
1303
Ryzen 7 4700U
1217

ネイティブ環境なら、現状トップクラスのシングルスレッド性能

ネイティブ環境でのシングルスレッド性能は、「Core i7-1165G7」を約16%も上回るほど高性能です。「Core i7-1165G7」は、現状のWindowsノートPC向けのCPUとしてはトップクラスのシングルスレッド性能を持ちますが、そのスコアを約16%も上回るというのは驚異的です。「Ryzen 7 4700U」には約24%と、更に大きい差をつけています。非常にレスポンスが良く、サクサクとした動作が期待できるはずです。

Apple M1のコアあたりの性能は、発表時点で現状の他のどのCPUよりも優れていると主張していましたが、それは過言ではない性能を見せ付けています。


マルチスレッド性能

マルチスレッド性能は、CPUの全コア稼働時の処理性能を表します。マルチスレッド性能が高いと、動画のソフトウェアエンコード(CPUエンコード)やレンダリングなど、膨大な量の処理に掛かる時間が短くなる他、複数タスクでのパフォーマンスが向上するなどのメリットがあります。

今回は、Cinebench R23というベンチマークソフトで測定された数値で見ていきます。Apple M1にも正式に対応しているベンチマークテストです。

Cinebench R23 Multi
CPU名称
スコア
Ryzen 7 4700U
7719
Apple M1
7484
Core i7-1165G7
4805

ネイティブ環境では、Ryzen 7 4700Uに近いマルチスレッド性能

ネイティブ環境でのマルチスレッド性能は、同じ8コア8スレッドの「Ryzen 7 4700U」に近いパフォーマンスでした。非常に高いパフォーマンスです。ただ、シングルスレッド性能では約24%もの差を付けていた割には、低いスコアという印象もあります。全コア稼働となると、省電力性重視の電力効率コアがやや足枷となってしまっているのかもしれません。

素晴らしいマルチスレッド性能を持つのは確かですが、5nmプロセスというAMDの7nmやIntelの10nmと比べて最も優位な土台を持っている割には、やや物足りないとも言える性能となりました。省電力性能の高さがあるので、そこは評価すべきですが、「最大性能の高さ」という点においてはRyzenの方が若干有利という印象です。

Ryzen 4000シリーズでも「Ryzen 7 4800U」という更に上位のモデルがあり(採用PCがほとんどないけど)、それには大幅に負ける事になりますし、次世代のZen3アーキテクチャ搭載のRyzenも登場が近いとされている点もあります。

「Core i7-1165G7」はかなり沈んでしまっていますが、4コアなので仕方がありません。ただ、スレッド数は8で同じなので、軽い処理メインなら使用感はほぼ変わらないと思います。

CPU性能(エミュレーション)

次に、ARMに対応していない従来のインテルCPU用アプリ(x64)をRosetta 2を介して使用する際のCPUパフォーマンスを見ていきます。主要アプリはARMにも正式対応するアプリはどんどん増えてくるとは思われるものの、現状ではRosetta 2を利用してソフトを使用することも多いと思います。

Rosetta 2を介する必要があるため、本来より多くのパフォーマンスが要求されます(要するにパフォーマンスが若干低下する)。また、アプリ側からは想定されていない起動方法となるため、当然最適化は行われず、トラブル等も従来より発生確率が高くなっていることが予想されます。


シングルスレッド性能

シングルスレッド性能は、1コアでの処理性能を表します。シングルスレッド性能が高いと、軽い処理に掛かる時間が短くなる(サクサク動く)他、全コア稼働時にも当然影響がありますので、ほぼ全ての処理に対して有利に働きます。

今回は、Cinebench R15というベンチマークソフトで測定された数値で見ていきます。Apple M1(ARM)には正式に対応していないので、Rosetta2を介したエミュレーションでの計測となります。

Cinebench R15 Single
CPU名称
スコア
Core i7-1165G7
219
Apple M1
208
Ryzen 7 4700U
180

エミュレーションでも他の最新CPUにも劣らない高性能さ

「Core i7-1165G7」と比較すると約5%遅れるものの、エミュレーション上でもApple M1のシングルスレッド性能は高いです。上述のネイティブ環境でのシングルスレッド性能では約16%も上回っていたので、やはりエミュレーションによるパフォーマンスの大幅な低下は見られますが、それでも他の最新CPUにも引けを取りません。元の性能が非常に高いことがわかります。


マルチスレッド性能

マルチスレッド性能は、CPUの全コア稼働時の処理性能を表します。マルチスレッド性能が高いと、動画のソフトウェアエンコード(CPUエンコード)やレンダリングなど、膨大な量の処理に掛かる時間が短くなる他、複数タスクでのパフォーマンスが向上するなどのメリットがあります。

今回は、Cinebench R15というベンチマークソフトで測定された数値で見ていきます。Apple M1(ARM)には正式に対応していないので、Rosetta2を介したエミュレーションでの計測となります。

Cinebench R15 Multi
CPU名称
スコア
Ryzen 7 4700U
1094
Apple M1
1020
Core i7-1165G7
810

マルチスレッド性能はエミュレーション上でも大きな影響を受けず

Rosetta 2でのエミュレーションでのマルチスレッド性能は「Ryzen 7 4700U」に約6.8%遅れる程度でした。やはり上述のネイティブ環境での3.2%差よりもパフォーマンスの低下は見られるものの、その差は意外と小さかったです。エミュレーションだとシングルスレッド性能では大きな低下が見られましたが、マルチスレッド性能は思ったほど低下しなかったという印象です。

内蔵GPU性能

内蔵GPUの性能を見ていきます。Apple M1は8コアのGPUを搭載していますが、MacBook Airの下位モデルでは最大7コアでの動作となるためパフォーマンスが少し低下する点には注意です。しかし、7コア動作であっても、iPadや従来のMacBook(Intelの内蔵GPU)の性能は遥かに上回るほど高性能です。また、ARMになったおかげで、従来はネイティブ起動は出来なかったiOS対応アプリなどをネイティブ環境で実行することができ、非常に高速です。

ただしMacは、現在の主要PCゲームで一般的なAPI「DirectX」にネイティブでは対応していないこともあり、PCゲームに関しては活かせる場面は現状少ない点は注意です。Macが元々ゲーマー向けのデバイスではないですし、現状Macを所持している方はPCゲームへの期待もしていないとは思いますが、初Macとして購入を検討している方でPCゲームもやりたいと思っている方は注意が必要です。一部対応しているPCゲームもありはしますが、基本的にWindows版を単に移植しただけのような形に過ぎないため、最適化は行われていない上、Windows版よりも多くのパフォーマンスが要求されてしまいます。


GFX Bench

GFX Benchは、OpenGL系APIを用いたグラフィックベンチマークテストです。Macでは「Metal」で動作します。

GFXBench 5.0 Aztec Ruins High Tier Offscreen(2560×1440)
CPU名称
fps
Apple M1 8コアGPU
(Apple M1)
78.2
Apple M1 7コアGPU
(Apple M1)
72.4
Iris Xe graphics 96EU
(Core i7-1165G7)
43.7
Radeon RX Vega 7
(Ryzen 7 4700U 等)
28.8
Iris Plus Graphics G7
(Core i5-1030NG7 -MacBook Air)
9.3

IntelとAMDの内蔵GPUを凌駕

2020年12月時点ではWindows向けのCPUとしては最高性能の内蔵GPUであると思われるXe Graphics G7をも大きく上回る性能です。現時点では内蔵GPUとしては圧倒的トップの性能で、ミドルレンジ下位の外部グラフィックスに匹敵するレベルとなっています。外部グラフィックスを搭載すると消費電力や重量の増加を避けませんが、それらのデメリットのない内蔵GPUでこれだけの性能を持っているのは非常に魅力的です。

7コア版は、8コア版よりも約7.4%遅れる形になっています。コア数の差は13.5%なので、思ったほどパフォーマンス差は出ていない様にも見えます。7コア版のAirはファンレス仕様のため、継続使用により性能が低下する可能性はあるものの、CPU性能でもAirとその他の機種で性能差はわずかだったので、高負荷かつ長時間で頻繁に稼働する訳でなければ、Airでも問題なさそうだなという印象でした。

電力関連

消費電力

ざっくりとしたCPUの消費電力を見ていきます。「Cinebench R15(前述のベンチマークソフト)」を実行した際の総消費電力を見ていきます。Apple M1はRosetta 2を介したエミュレーション動作になります。全コア稼働時の消費電力です。数値が低いほど良いです。また、下記のスコアはMacBook Airのものとなりますので、ProやMac miniだとやや消費電力が上昇する可能性があるため注意してください。

Cinebench R15 Multi
CPU名称
消費電力(W)
Apple M1
27.2
Ryzen 7 4700U
37.0
Core i7-1165G7
42.3

アイドル時平均
CPU名称
消費電力(W)
Apple M1
6.4
Core i7-1165G7
6.5
Ryzen 7 4700U
6.6

非常に省電力

Apple M1の省電力性能は非常に優れています。アイドル時こそほとんど差はないものの、高負荷時の消費電力が明らかに少ないです。5nmプロセスによる恩恵でしょうか。現状の主要な他の通常のTDPが15WのCPUより明らかに消費電力は少ないです。

上記の数値はMacBook Airのものであるため、MacBook Pro等だとやや増える可能性もあるものの、Air版でも処理性能はPro等と比べても大きな性能差はない訳なので、ワットパフォーマンスではAir版でも勝ります。

まとめ

Apple M1の要点ざっくりまとめです。

まとめ
  • 従来のインテルCPUと違うARMアーキテクチャ
    Apple M1は、従来のIntel CPUを含む現在の主要なノートPC向けのCPU(x64)と異なる「ARM」というアーキテクチャ採用のSoC(CPU)になります。それによりソフトの相性問題が出てきますが、どんどん正式対応ソフトは増えていますし、これからMacBookのメインはこのApple M1のようなARMのものに移行すると思われますから、遅かれ早かれほとんどの主要ソフトは正式対応してくれると思います。とはいえ、現状では全てのソフトが対応している訳ではなく、x64のみに対応ソフトはRosetta 2という変換技術を用いて動作させる必要があります。その場合には本来よりパフォーマンスが低下する他、不具合が発生する可能性も高くなるので注意は必要です。今買ってすぐにメイン機として使用したいという場合にはやや不都合が生じる可能性もあります。
  • 優れたCPU性能
    5nmプロセスで製造されたApple M1のCPU性能は非常に優れています。IntelやAMDの最新CPUと同等以上の処理性能です。Rosetta 2を介したエミュレーション動作時には少しパフォーマンスが低下するものの、それでも全く引けを取らないレベルの性能となっています。従来のMacBook(Intel)は、処理性能の割には価格が高いという印象も正直ありましたが、Apple M1ではそんなことはありません。また、その処理性能もさることながら、特に優れているのは消費電力の少なさです。ARMアーキテクチャと5nmプロセスによる恩恵か、現状のx64系の他の主要CPUより明らかにワットパフォーマンスが良く、省電力性は非常に素晴らしいです。
  • 優れたGPU性能
    Apple M1はGPU性能も非常に優れています。「Core i7-1165G7」搭載のXe Graphicsを大幅に上回る性能です。従来のMacBook(Intel)の内蔵GPUを遥かに凌駕し、2020年前半発売のMacBook Pro 16のRadeon Pro 5300M(外部グラフィックス)に迫る性能です。ただし残念ながら、PCゲームに関しては、多くがWindows向けとして作られているため、Macではその性能を最大限活かすことは期待できません(Apple M1に限らず)。一部の動作が可能なゲームでも、Macに対しての最適化は行われていないことが多いため、そのパフォーマンスはWindows機よりも低くなっているのが基本です。代わりに、iOSのゲームアプリはネイティブ環境で動作させることができるため非常に快適です。また、GPUのコア数は8ですが、MacBook Airの下位モデルでは7コアとなる点は注意が必要です。とはいえ、7コアでもその性能は十分高いです。

総評

Apple M1は、非常に省電力ながら高い処理性能を誇る優秀なSoCです。5nmプロセスとRAM統合によるおかげか、現状のIntelやAMDのCPUよりも明らかに優れています。

内蔵GPUの性能も非常に優れており、処理性能は内蔵GPUでは突出しています。動画・画像編集、Metalによる描画処理などでは内蔵GPUとは思えないほどのパフォーマンスを発揮するはずです。しかし残念ながら、MacはPCゲームに関しては相性問題で活かすことは厳しい点は注意です。現在のPCゲームの多くはWindows向けに作られているためです(DirectXにネイティブ対応していないため)。

従来のx64と違うARMアーキテクチャということで、ソフトの相性や最適化不足の問題は多少あるため、いきなりゴリゴリのメイン機として扱うには現状はまだ不安は残るものの、これからソフトの正式対応や最適化もどんどん進んでいくと思います。新CPUで相性問題は避けられない問題ですし、処理性能や省電力性に関しては本当に素晴らしいため、新CPUとしてはかなり良い出来だと思います。



という感じで、ざっくりとしたものにはなりましたが、記事は以上になります。

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