Appleが「M2」チップを発表【雑感】

Appleが2022年6月6日、Macのために独自に設計した「M2」チップを発表しました。「M2」は「M1」の次世代モデルにあたるAppleシリコンの第2世代目のモデルになります。また、「M2」チップを搭載したMacBook AirとMacBook Proについても発表され、発売は来月(2022年7月)予定であることも発表されました。

少し遅くなりましたが、発表内容についてざっくりと見ていきたいと思います。

注意

本記事の内容は記事執筆時点(2022年6月9日)のものになります。ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。


簡易比較表

まずは「M1」と「M2」の仕様の簡易比較表を載せています。

M1M2
CPU8コア
高性能コア:4コア
高効率コア:4コア
8コア
高性能コア:4コア
高効率コア:4コア
GPU最大 8コア最大 10コア
メモリLPDDR4X-4267
LPDDR5-6400?
メモリ容量最大 16GB最大 24GB
メモリ帯域幅68.2GB/s?100GB/s
Neural Engine16コア16コア
プロセスルール5nm5nm
トランジスタ数160億200億

メモリ:帯域幅が約1.5倍になり、最大24GBに

まず全体に関わる面として、メモリ帯域幅が前世代から約1.5倍も増加したことがあります。前世代「M1」の68.2GB/s(一応推測)から100GB/sへと大幅に増加しています。詳細なメモリ仕様は明らかにされていませんが、この帯域幅に増加はメモリがDDR4からDDR5になったためだと言われています。

このメモリ帯域幅の向上により、仮にCPUやGPUが「M1」と同じ仕様のものだったとしても、性能向上が得られるはずです。非常に大きなメリットです。特に動画編集などメモリを多く占有する作業では恩恵が大きいと思います。

それと、メモリが前世代では8GBと16GBモデルのみだったのが、「M2」では24GBも追加されています。また一応触れておくと、Appleシリコンではメモリはチップに統合される形となっているため、購入後の増設は基本不可能となっています。そのため、購入時に十分な容量を始めから備えておくことが必要です。

CPU:前世代比18%の向上(コア構成は同じ)

CPU面についてです。「M2」のコア数および構成は、「M1」と全く同じです。コア数は8で、高性能コアが4と高効率コアが4という内訳になっています。ただし、キャッシュメモリは高性能コアの共有キャッシュが4MB増量しており、わずかな変化が見られます。

Appleは「M2」のマルチスレッド性能は「M1」より18%向上していると主張しています。同じコア数と構成にしては大きな向上だと思います。

ですが、コア数と構成は変わらないですし、使用感的には大きくは変わらないとも思います。もちろん用途によっては恩恵を大きく得る事もあると思いますが、元がそれなりに高性能で軽作業には十分すぎる性能なので、実感できるほど活用できる人は少なそうな気がします。

また、18%という向上率ですが、これは当然キャッシュメモリの増加やメモリ帯域幅の大幅な拡張も含んでのものですから、「M2」の各コアのシングルスレッド性能やIPCが向上しているとするならやや低い気がする数字です。要するに、今回の性能向上は高性能コアのキャッシュメモリの増加と、メモリ帯域幅の増加による点がほとんどで、コア自体の性能向上はわずかな気がします。

現時点でも素晴らしい性能を持っていると思うので不満がある訳ではありませんが、M1発表時ほどの驚きは無いのが正直な感想です。5nmというAMDやIntelよりも微細化されているプロセスを既に使用しているため、これ以上の大幅な向上は一筋縄ではいかないのかなという印象です。

GPU:前世代比35%の向上(コア数が8→10に)

GPU面についてです。最大コア数が10になり、前世代の8から2個増えました。Appleはグラフィック性能は前世代比で35%向上していると主張しています。かなり大きな性能向上です。省電力な統合GPUとしては非常に高性能だったGPUが更に強化されました。

ただし、MacBook AirではGPU8コアモデルもあるため注意してください。8コアモデルでは上述の35%ほどは向上しないと思われます。

また、35%という向上率だけ見ると凄いようにも見えますが、コア数だけで25%増加しているのに加え、メモリの帯域幅の増加もありますから、それ込みで35%と考えると、GPUのコア自体は大きく進化している訳ではないことがわかります。というか、恐らくは基本的に同じものと言われており、向上があったとしてもわずかです。性能自体は素晴らしく、各動画や画像も高画質化が進んでいる今では十分恩恵を感じることができるとは思いますが、GPU自体が進化している訳ではない点は一応留意です。

あと、35%の向上を考慮しても凄く高性能になる訳ではない点にも注意です。M2のGPUは、統合GPUとしては破格の性能なのは間違いなく、ある程度は重い動画編集やゲームにも使えるレベルではありますが、「M1」の性能がなんとか重い処理にも使えるってレベルだったはずなので、やはりミドルレンジ以上の単体GPUには敵わないはずです。

4Kクラスの高画質動画や、Macで考慮する必要があるかはわかりませんが、重いゲームを快適に遊びたいという場合にはやや厳しい結果になると思います。グラフィック性能は、M1 ProやM1 Maxの方が遥かに高性能です。

価格:高くなった上、日本では円安の影響で更に高価に

ここまでは性能について触れてきましたが、もしかしたら一番きついかもしれないのが価格です。MacBook Airを見ると、元値がそもそも前世代よりも高くなった(最安値モデルで200ドル値上げ)上、日本では円安の影響もあり、最安値価格が大幅に値上がりしてしまいました。

日本での「M2」搭載のMacBook Airの価格は、公式を見ると「8GB、256GB SSD」の最安値モデルが164,800円となっています。「M1」搭載モデルは134,800円からとなっているので、3万円も高価です。

ですが、この「M1」Airの134,800円という価格は、値上げされた後の価格(恐らく円安の影響)であり元々は115,280円からでした。そこから考えると、約5万円も値上がりしていることになります。割合でいえば約43%も値上がりしていることになります。

コスパを考えてみると、「M1」と「M2」の性能向上は「CPUで18%、GPUで35%」と言われていますが、いずれも約43%の値上がり分よりも小さいので、処理性能コスパは値上げ前の「M1」機の方が上だったりします。チップ以外にも違いはあるので一概には言えませんが、処理性能重視ならやや悪化しています。

記事執筆時点(2022年6月9日)では、一部店舗では値上げ前の価格で販売されているので、出来るだけ安くMacBook Airを手に入れたい方は急いで購入するのもありかもしれないと思いました。

ちなみに、MacBook Airだけでなく他のM1モデルも公式HP上では大きく値上がりしているので、Proなども出来るだけお得に手に入れたいという場合には値上げが反映される前に購入を検討しておくと良いかもしれません。

電力効率:相変わらずめっちゃ良い

電力効率は「M1」の頃と同じく非常に良さそうです。

「M2」のCPUはマルチスレッド性能が「M1」よりも18%高いということを先に触れましたが、これは同じ電力での性能と示されています。「M1」の電力性能もIntelの最新CPUなどと比べると遥かに良いので、それを上回る電力効率というのは驚異的です。

Core i7-1260Pとの比較では、大体Core i7側が38WあたりのときがM2の最大性能となっていて、そのときのM2の消費電力が15Wと示されているので、同じ処理性能をわずか約4割の性能で出せることになります。圧倒的な差です。電力効率でいえばRyzenの方が良いと思うので、出来ればそちらと比較してほしかったとは思いますが、恐らくは少なくともRyzen 5000シリーズに対しても大きく優位だと思います。

モバイルデバイスにとっての電力効率は用途によっては処理性能よりも重要ですから、これはかなり大きなメリットです。

雑感:思ったより設計は変わらなさそう。性能より値上げが厳しい

「M2」の総評です。Appleの発表ではM1Intel CPUとの性能差の比較がメインでしたが、M1からハードウェア仕様として変わったことをざっくりまとめると、下記のような感じだと思います。

  • 5nmプロセスが改良され再設計されている
  • メモリ帯域幅が1.5倍に(DDR4からDDR5への更新)
  • GPUコアが2個増えた(8→10)
  • CPUの高性能コアの共有キャッシュメモリがわずかに増加(12MB→16MB)

「M2」の「M1」からの処理性能の向上率を振り返ると、CPUが18%、GPUが35%です。この向上率自体は悪くないものだと思いますが、メモリ帯域幅の大幅な増加(約1.5倍)が横たわっている上に、CPUのキャッシュ量の増加やGPUのコア数の増加なども考慮すると、コア自体の性能はさほど変わらない可能性が高いことが予想できます。よって、完全に新しいものというよりは再設計されたものと捉える方が近いのかなという印象です。

まぁ、実用上は設計の話とかは正直どうでもよくて、向上しているから良いじゃんって話ではありますが…。技術的には多分そんな感じかなと思います。

何にせよ、特にGPUに関しては大きめに性能が向上していますから、これがMacBook AirクラスのモバイルPCでファンレス省電力で使えるとなると非常に魅力的です。…なのですが、値上げが痛すぎます。

恐らくは円安の影響により、既存のM1搭載のほとんどが値上げされてしまいました。M2 Airは、値上げ前のM1 Airの11.5千円よりも約5万円も高価な16.5万円という価格です(最安値モデル)。どちらも構成としては同クラスにあたるメモリ8GB、SSD 256GBでの比較でこの差です。それで11.5万円と16.5万円はさすがに差が大きすぎます。

円安という日本特有の問題なので仕方ありませんが、「Appleシリコン搭載のMacBook Airは高性能なWindowsクリエイターノートやゲーミングノートよりも安い」というのは結構大きい要素だったと思うので、それが失われてしまったのがとにかく痛いと思います。

これまでは、Macに抵抗が無くてクリエイター用途なら、MacBook Airはコスパ的にも価格的にも優れた選択肢だったと思いますが、さすがに16万円台からとなると怪しいです。

電力効率に良さによるバッテリー駆動時間の長さはかなり魅力的ではありますし、Airに関しては薄型軽量なのも魅力的ですが、強化されたとはいえGPU性能自体はミドルレンジのグラボ未満です。グラフィック性能を重視しないなら、値上げ前のM1の方が圧倒的にお得ですし、16万円出すくらいなら、今でもWindowsでRTX 3050~RTX 3060搭載機くらいなら選択肢がたくさんあって圧倒的にグラフィック性能が高いです。Windowsの多数のPCゲームにもネイティブで対応できるということを考えると、魅力はかなり薄れてしまったのが率直な印象です。

それに、これから搭載製品が増えてくるであろうRyzen 7000シリーズの上位モデルの内蔵GPU「Radeon 680M」がかなり期待できそうな点も逆風かもしれません。グラフィック性能は「GTX 1650 Max-Q」より少し下くらいのようで、MacとWindowsでは主要APIや設計が大きく違うので単純比較はできませんが、使用感的にはM1やM2に近そうな印象です。これからAMDやIntel製のCPUも大幅に値上がりする可能性も無くはないと思いますが、少なくとも現時点では安いものなら間違いなく16万円よりは大幅に安価に購入できると思うので、Apple M2 Airよりも正直魅力的かなって思います。

前の価格設定ならかなり良い勝負になりそうで、「ようやくAppleシリコンに電力効率や統合GPUで勝負できそうなCPUが出るぞ」って思った矢先の今回の値上げです。期待の裏返しなので悪い意味で捉えないで欲しいですが、正直ちょっと残念でした。

といった感じで本記事は以上になります。チップ自体は電力効率も含め非常に素晴らしいものだと思いますが、とにかく値上げが厳しい。いくら電力効率良くて薄型軽量でも、同価格の単体GPU搭載のゲーミングPCとかクリエイターノートの方が明らかに性能コスパ良いし、グラフィック性能無視してモバイル性重視ならSurfaceとか他の安い2 in 1タブレット製品でいいし…って感じてしまいます。

自分は経済については詳しくないので何とも言えませんが、少なくとも消費者から見た日本の半導体市場的にはめちゃくちゃ痛手なので、なんとか円高へ転じて欲しいなと願う自分でした。

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