「RTX 4060 Ti 8GB」と「RTX 4070」の二つの比較記事です。PC総額で20万円までくらいの予算の場合によく悩まれると思われる二つの選択肢かなと思います。海外レビューを参考に性能をざっくりと確認していきます。
本記事の情報は記事執筆時点(2024年4月24日)のものです。ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。
はじめに
本記事ではデスクトップ版のGPU「GeForce RTX 4060 Ti 8GB」と「GeForce RTX 4070」の二つを比較していきます。
どちらも非常に人気のあるミドルレンジ~ミドルハイクラスのGPUであり、BTOパソコンなどでも特に人気のGPUだと思います。
当然上位の「RTX 4070」の方が大幅に高性能ではあるものの、記事執筆時点では約2.5万円も高価であるため、「RTX 4060 Ti」で事足りるならそちらで済ませたいという人も多いため、よく悩まれる選択肢となっていると思います。
本記事では「RTX 4070に+2.5万円を出す意味があるのか」という部分を出来るだけ念頭におきつつ、見ていきたいと思います。
また、基本的には「RTX 4060 Ti 8GB」をメインとして見ていきますが、16GBモデルもあるので、そちらも参考程度に見ていきたいと思います。
仕様
まずは主要な仕様を表に載せています。
簡易比較表
RTX 4060 Ti | RTX 4070 | |
---|---|---|
参考価格 2024年4月24日時点 | ¥58,800~(8GB) ¥68,800~(16GB) MSRP:399/499ドル | ¥83,800~ MSRP:599→549ドル |
プロセスルール | TSMC 5nm? | TSMC 5nm? |
ダイサイズ | 約190㎟ | 約295㎟ |
SP数 | 4352 | 5888 |
RT用コア | 34 | 46 |
Tensorコア | 136 | 184 |
ベースクロック | 2310 MHz | 1920 MHz |
ブーストクロック | 2535 MHz | 2475 MHz |
メモリタイプ | GDDR6 | GDDR6X |
メモリ容量 | 8GB/16GB | 12GB |
メモリバス幅 | 128bit | 192bit |
メモリ速度 | 18Gbps | 21Gbps |
メモリ帯域幅 | 288 GB/s | 504 GB/s |
TDP/TGP | 160W/165W | 200W |
L2キャッシュ | 32MB | 36MB |
※価格は2024年4月24日時点での市場最安値価格です(価格.comやAmazon参考)。
細かい性能は後で見ていきますが、その前にカタログスペックから判ることについて、少しだけ触れておこうと思います。
価格は約2.5万円も「RTX 4070」が高い
冒頭でも触れましたが、「RTX 4060 Ti 8GB」と比べると「RTX 4070」は単体価格で約2.5万円(約1.425倍)も高価な上位GPUです(2024年4月時点)。大きな差です。
そのため、「RTX 4070」の方があらゆる面で高性能なのは言うまでもないですが、「RTX 4060 Ti 8GB」でも十分妥協できる性能があるのであれば、2.5万円分の追加予算は無駄になるとも言えます。そのため、その追加予算に値するだけの価値があるのか、ということに注目してみていきます。
各コア数は「RTX 4070」の方が約35%多く、VRAM性能差も大きい
CUDAコアやRTコアなどのコア数については、「RTX 4070」が約35.3%ずつ多くなっています。GPUクロックは「RTX 4060 Ti」の方が若干高いですが、コア数以外の仕様も「RTX 4070」が上なので、基本的に30%以上は「RTX 4070」の方が高速なGPUです。大きい性能差です。
また、コア数だけでなく、VRAMの差にも注目です。「RTX 4070」が12GBなのに対し、「RTX 4060 Ti 8GB」は8GBですから、1.5倍の差があります。また、帯域幅も 504GB/s と 288GB/s なので、約1.75倍の差があります。コア数以上にVRAM性能差は大きいです。
このVRAM性能差が正直一番の懸念点です。「RTX 4060 Ti 8GB」は現状6万円弱の安くはないGPUですが、それで8GB(288GB/s)というのは、価格を考えればあまりに弱い仕様です。
昨今では、画像生成AIやメタバースプラットフォームの流行により、特にVRAM容量に関しては重要度が非常に高まっている印象なので、こちらも気になるところです。
といった感じで、下記から実際の各性能について見ていきたいと思います。
ゲーミング性能
ゲーミング性能は、言葉の通りゲームをする際のパフォーマンスの性能です。実際にゲームを動作させた際の平均FPS数を見ていきます。今回は25種類のゲームでのデータを基に見ていきます。設定は基本的に最高品質です。
まずは、レイトレーシングやアップスケリーング等は無効の状態での性能、いわゆるラスタライズ性能を見ていきます。
CPUは「Core i9-14900K」で、OSはWindows 11が使用されています。その他のスペックなどの詳細は、お手数ですが記事上部の参考リンクを参照お願いします。
1080p(1920×1080)
フルHD(1920×1080)です。最低限の解像度という感じですが、2024年現在では最も主流な解像度です。ハイエンドGPUを使用していても、特にFPSやTPSでは出来るだけ高いFPSを維持するためにこの設定にするのが主流だと思います。ただし、RTX 4090など最新世代のハイエンドGPUでは低負荷感も大きくなっていたりもします。
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
RTX 4070 | 139.0 |
RTX 4060 Ti 16GB | 107.9 |
RTX 4060 Ti 8GB | 107.0 |
フルHDでは約30%「RTX 4070」がリードするも、「RTX 4060 Ti」でも十分快適
1080p(フルHD)のラスタライズ性能は「RTX 4070」が約30%上回っています。結構大きな差ですが、価格差を考えれば、むしろこのくらいは差がないと厳しいというレベルではあります。
そして、差こそ大きいものの、「RTX 4060 Ti 8GB」でも平均107fpsを記録しています。大部分のタイトルで100fps以上に到達することができていますし、検証タイトルは重量級タイトル中心かつ最高設定なので、これだけ出ていれば十分な性能と言えます。
また、「RTX 4060 Ti 8GB」と「RTX 4070」で迷う人は、無駄な予算を掛けずにコスパを最大化したいという人が基本だと思います。その場合にはモニターは恐らくフルHDで144Hz~165Hzが多いと思います。「RTX 4070」は重量級タイトルが中心で平均139fpsですから、重くないゲームでは165fpsを超えることも珍しくないので、その分の性能は無駄になるとも言えます。
少なくともフルHDのラスタライズ環境においては『RTX 4060 Ti 8GB でもほとんどのケースで十分な性能がある』というのは一つポイントかなと思います。
1440p(2560×1440)
WQHD(2560×1440)です。4Kは重すぎるけど、1080pよりはキレイな映像で楽しみたいという場合や、1080pでは少し性能を持て余してしまう場合に利用する解像度です。現在の主流解像度はフルHD(1080p)ですが、GPU性能が全体的に大幅に向上してきているため、徐々にこの1440pが主流解像度に切り替わっていく気がします。
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
RTX 4070 | 103.5 |
RTX 4060 Ti 16GB | 78.0 |
RTX 4060 Ti 8GB | 77.1 |
1440pでも「RTX 4060 Ti 8GB」で動作は普通に出来るが、「RTX 4070」との快適度の差はやや大きくなる
「RTX 4060 Ti 8GB」と比べると、1440pでは「RTX 4070」が約34.2%上回っており、フルHDから少し差が広がっています。VRAMの帯域幅の差が少し出ているのかなという印象です。
「RTX 4060 Ti 8GB」の平均fpsは77.1となっています。重量級タイトルが中心でこの結果なので、動作自体には苦労している印象はありません。ただし、平均107fpsだったフルHDとの快適度の差は大きくなっています。VRAM性能差のせいか、「RTX 4070」よりも性能低下率も若干大きくなっています。
まとめると、1440pにおいても、プレイが普通にできるレベルで動くなら問題ないという人は「RTX 4060 Ti 8GB」でも基本問題ありませんが、ある程度の滑らかな映像を維持したいなら、「RTX 4070」の方が大分有利と言える結果になっていると思います。
ただし、現在ではDLSSやFSRなどのアップスケーリングがあり、それを利用すれば「RTX 4060 Ti」でも100fps超えを十分達成できるレベルの性能は維持できていると思うので、やや厳しめだけど対応は十分可能という感じかなと思います。
4K(3840×2160)
「超高解像度の代名詞」ともいえる4K(3840×2160)です。非常に繊細で綺麗な映像になりますが、その負荷の大きさから高いFPSを出す事が難しいため、TPSやFPSなどの対人競技ゲームで利用されることはまずないです。処理性能の要求が高いだけでなく、高リフレッシュレートの4Kモニターが非常に高価ということもあり、2024年現在では競技性の高いゲームではあまり利用されません。フレームレートよりもグラフィックのキレイさや臨場感が重要なゲームを中心に需要のある解像度です。
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
RTX 4070 | 58.6 |
RTX 4060 Ti 16GB | 43.2 |
RTX 4060 Ti 8GB | 41.1 |
4Kでも「RTX 4060 Ti」は動くけど、重いゲームでは快適とは言えない
4Kでは「RTX 4060 Ti 8GB」は平均41.1fpsとなっており、fpsはかなり落ち込みます。「RTX 4070」の優位性も42.6%と大きくなっており、VRAM性能差も大きめに影響していると思います。
4Kでも「RTX 4060 Ti 8GB」は軽めのゲームなら使えると言えそうなレベルにはあると思いますが、全体的にはやはりちょっと厳しめという印象です。
このレベルまでfpsが落ちていると、重いゲームではアップスケーリングを使っても滑らかと言えるレベルまでいくかは微妙ところでもあるので、4Kにおいてはさすがに「RTX 4070」が格段に有利と言えると思います。
レイトレーシング性能
レイトレーシング性能
レイトレーシング性能を見ていきます。レイトレーシングはメインコアと別のレイトレーシング用のコアも使用するため、上述のラスタライズ性能とやや差が出る可能性があります。今回は10種類のゲームでのデータを基に見ていきます。
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
RTX 4070 | 91.9 |
RTX 4060 Ti 16GB | 71.1 |
RTX 4060 Ti 8GB | 67.4 |
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
RTX 4070 | 66.7 |
RTX 4060 Ti 16GB | 50.1 |
RTX 4060 Ti 8GB | 40.9 |
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
RTX 4070 | 30.2 |
RTX 4060 Ti 16GB | 27.3 |
RTX 4060 Ti 8GB | 17.6 |
「RTX 4060 Ti 8GB」のレイトレーシングはフルHD以外は厳しめ
レイトレーシングではVRAMを大量に使用する上に、不足するとfpsがガクッと落ちます。そのため、8GBだと全体的に厳しめになりますし、一見大丈夫に見えても、局所的にfpsが低下する事象も結構起きたりするのも厳しいポイントです。
「RTX 4060 Ti 8GB」を見ると、1080pの時点でも「RTX 4070」の方が約36.4%も上回っており、既にラスタライズの1440p以上の差が付いています。ただ、フルHDではまだ平均fpsは67.4あって、なんとか60fps以上をキープしています。使える水準ではあるとは思うので、動けば良い程度なら悪くはないかもしれません。
ただし、1440p以降ではVRAMが 8GBでは明らかに不足している印象が強くなります。1440pでは「RTX 4070」の優位性は63.1%まで広がり、4Kでは更に少し広がります。さすがに実用的に使うには厳しい性能となってきています。
一応フルHDなら使えないことはないものの、基本的にはレイトレーシングなら「RTX 4070」の方が圧倒的に有利で、快適度の差もかなりのものになるので、価格差以上の価値を十分に感じられる部分かなと思います。
電力関連
消費電力
ゲームプレイ時(高負荷時)の平均消費電力を見ていきます。低い方が良い数値となります。解像度は「2560×1440」、設定は最高品質(ウルトラ)で、レイトレーシング(DXR)での測定も混在しています。
GPU名称 | 消費電力 |
---|---|
RTX 4060 Ti 8GB | 147W |
RTX 4060 Ti 16GB | 154W |
RTX 4070 | 190W |
「RTX 4060 Ti」の方が40W程度少ないけど、優位性はそこまでないかも
消費電力はほぼTGP通りの差となっており、「RTX 4070」が190Wで40W程度多いです。
差としては小さくありませんが、「RTX 4070」でもデュアルファン仕様のグラボが多数存在していることと、「RTX 4060 Ti」でもシングルファンにするには厳しい消費電力のためデュアルファンが基本ということを考えると、そこまで大きな差でもないのかなと思います。
静音性は「RTX 4060 Ti」が少し上回ることが期待できますが、どちらも消費電力は比較的少なくて優秀な扱い易いGPUだと思います。
ワットパフォーマンス
ワットパフォーマンス(電力効率)を見ていきます。
GPU名称 | 1Wあたりのfps |
---|---|
RTX 4070 | 0.533 |
RTX 4060 Ti 8GB | 0.520 |
RTX 4060 Ti 16GB | 0.488 |
GPU名称 | 1Wあたりのfps |
---|---|
RTX 4070 | 0.263 |
RTX 4060 Ti 8GB | 0.261 |
RTX 4060 Ti 16GB | 0.248 |
ワットパフォーマンスはほぼ同等
ワットパフォーマンスは両者ほぼ同等です。どちらも効率的なGPUです。「RTX 4060 Ti 16GB」だけがちょっと低い位置にあります。
コストパフォーマンス
上述のfpsを基にGPUの1フレームあたりの価格を算出し、コストパフォーマンスを比較しています。数値が低い方が良い点に注意です。各GPUの価格は、記事執筆時点のおおよその市場最安値価格です。ラスタライズとレイトレーシング時の両方を見ていきます。
元のゲーミング性能の解像度は1440pを用いています。4Kなどではやや結果が異なる可能性がある点に注意です。
1フレームあたりの価格(ラスタライズ)
まずはラスタライズ性能のコスパです。上述の1440pゲーム時の性能と現在の市場価格を基に、1フレームあたりの価格を算出し、コスパとして比較しています。
GPU名称 | 1フレームあたりの価格 | 価格 |
---|---|---|
RTX 4060 Ti 8GB | ¥763 | ¥58,800 |
RTX 4070 | ¥810 | ¥83,800 |
RTX 4060 Ti 16GB | ¥882 | ¥68,800 |
ラスタライズ性能コスパは「RTX 4060 Ti 8GB」がわずかに有利
ラスタライズにおける1fあたりの本体価格(コスパ)は、「RTX 4060 Ti 8GB」が約6%有利です。価格の安さのメリットが出ています。
差としては小さいですが、元々の強みである価格面のメリットを補強してくれる要素なので、嬉しいポイントです。
「RTX 4060 Ti 16GB」については一段悪い位置にあり、前述のワットパフォーマンスでも少し低い位置にありましたから、効率を考えれば基本的には良くない選択肢となります。VRAMが凄く重要な処理においてのみ優位性があります。
1フレームあたりの価格(レイトレーシング)
次にレイトレーシング時のコスパを見ていきます。DLSSやFSR等のアップスケーリング技術は使用していない場合のものになります。
GPU名称 | 1フレームあたりの価格 | 価格 |
---|---|---|
RTX 4070 | ¥1,256 | ¥83,800 |
RTX 4060 Ti 16GB | ¥1,373 | ¥68,800 |
RTX 4060 Ti 8GB | ¥1,438 | ¥58,800 |
レイトレーシングコスパは「RTX 4070」が非常に強力
レイトレーシングコスパでは立場が逆転し、「RTX 4060 Ti 8GB」に対しては「RTX 4070」の方が約12.7%有利となります。
「RTX 4060 Ti 8GB」も全体で見れば悪くないのですが、ここは正直「RTX 4070」がかなり強い項目なので、仕方ない部分です。「RTX 4070」の方が実用性能的にも優位性があるので、レイトレーシングなら「RTX 4070」が大きく有利であり、価格差分の価値も十分あるのではないかと思います。
PC総額から見たコスパ
PC総額から見たコスパを見ていきます。基本的にGPUの比較をする際には「グラボの単体価格」を基準としますが、恐らくほとんどのユーザーはグラボのみを交換するのではなく、PCを丸ごと購入すると思います。
その際に重要なのは「PC総額から見たコスパ」なので、そちらも参考に見ていきます。CPUのグレードも低くなりますが、「RTX 4070」以下のGPUなら「Core i5-14400F」などでも差は軽微だと思うので、今回は無視して計算していきます。
まず始めに、それぞれのGPUのPCの価格を決める必要があるので、記事執筆時点で実際に販売されているPCの価格を参考に決めていきます。大手BTOショップで、GPUだけが異なるモデルをいくつかピックアップして、下記にまとめてみました。また、「RTX 4060 Ti 16GB」は取り扱いが少ない上に割高なことが多かったので除外しています。
PC | CPU | メモリ SSD | GPU | 参考価格 ※2024/4/24時点 |
---|---|---|---|---|
【パソコン工房】 LEVEL-M17M-144F-TLX LEVEL-M17M-144F-SLX | Core i5-14400F | 16GB 500GB | RTX 4070 RTX 4060 Ti 8GB | 189,800円~ 159,800円~ |
【ドスパラ】 GALLERIA RM5C-R47 GALLERIA RM5C-R46T | Core i5-14400F | 16GB 500GB | RTX 4070 RTX 4060 Ti 8GB | 215,980円~ 180,980円~ |
【マウスコンピューター】 NEXTGEAR JG-A5G70 NEXTGEAR JG-A5G6T | Ryzen 5 7500F | 16GB 1TB | RTX 4070 RTX 4060 Ti 8GB | 204,800円~ 169,800円~ |
平均 | 203,526円~ 170,193円~ |
3ショップ(各1モデル)だけの比較ですが、平均価格は「RTX 4060 Ti 8GB」が170,193円、「RTX 4070」が203,526円という結果になりました。
おおよそ「RTX 4070」の方が約3.3万円高価です。グラボの単体価格差である約2.5万円よりも少し大きいですが、これは工賃などが加算されるので、仕方ない部分です。大体3万円くらいの差であることが多いようです。
次にこちらの価格を利用して、1フレームあたりの価格を算出したものが下記です。
GPU名称 | 1フレームあたりの価格 | 価格 |
---|---|---|
RTX 4070 | ¥1966 | ¥203,526 |
RTX 4060 Ti 8GB | ¥2207 | ¥170,193 |
GPU名称 | 1フレームあたりの価格 | 価格 |
---|---|---|
RTX 4070 | ¥3051 | ¥203,526 |
RTX 4060 Ti 8GB | ¥4161 | ¥170,193 |
PC総額から見たゲーム性能コスパは「RTX 4070」がやや上回る
PC総額から見たゲーム性能コスパを見てみると、GPUだけ比較したときとは少し異なる結果が見えてきます。
GPU価格から見たラスタライズコスパでは「RTX 4060 Ti 8GB」がわずかに上回っていましたが、PC総額で見ると「RTX 4070」が約10.9%上回る結果となりました。
冷静に考えればすぐに判る話ですが、「RTX 4070」の方が30%以上高性能なのに対し、PC価格は約20.3万円と17万円なので、価格上昇量は約19.4%なので、実は多くの人が想像しているよりも「RTX 4070」搭載PCのコスパは良いです。
レイトレーシングでは更にその差が大きくなりますし、PCを丸ごと購入しようと考えている場合で、コスパに特化したいなら、出来れば「RTX 4070」の方が良いです。
クリエイティブ用途
クリエイティブ用途でのパフォーマンスを見ていきます。
一般的な動画編集等の基準性能としてFP32(単精度浮動小数点演算)の理論演算性能、「Blender」におけるGPUレンダリング性能、「SPECviewperf 2020 v3」によるOpenGL性能、AIイラスト生成ソフト「Stable Diffusion」の性能をそれぞれ見ていきたいと思います。
理論演算性能(FP32)
FP32(単精度浮動小数点演算)は、理論演算性能を示す一つの指標です。単位はTFLOPS(テラフロップス)を用います。実際のテストから算出するものではなく、シェーダーユニット数(対応の演算器の数)とクロックから計算した、理論上の処理性能を表します。製品によってクロックが異なるので、下記の表の数値と異なる可能性がある点に注意です。
一般的な動画編集においてのクリエイティブ性能は、このFP32とVRAMの性能(データ量が多い処理の場合)によって比例する傾向があります。実際「Premiere Pro CC」や「Davinci Resolve」などの主要な動画編集ソフトでの編集やプレビュー速度はある程度比例する傾向があるので、まず参考に見ていこうと思います(完全に一致する訳ではないので注意)。
GPU名称 | FP32(TFLOPS) |
---|---|
RTX 4070 12GB 504GB/s | 29.15 |
RTX 4060 Ti 8/16GB 288GB/s | 22.06 |
理論性能は参考程度に
FP32では「RTX 4070」が約32.1%上回っています。
ただ、結局この数値がそのまま活きることはあまりなく、GPUやソフト側の最適化などの方が影響が大きいので、参考程度に見てください。
Stable Diffusion(AIイラスト生成)
現在のAIイラストソフトで人気な「Stable Diffusion」を用いて、AIイラストの生成時間を比較しています。よく利用されるAIイラスト生成ソフトは他にもありますが「Stable Diffusion」が恐らくは一番定番と言えるものだと思います。
各GPUで「768×768の20枚の画像を生成するのに掛かる時間」を測定し、1分あたり何枚の画像を生成できるかを各GPUで算出して比較しています。Web UI「Automatic 1111」が使用されていますが、通常ではCUDA(NVIDIA製GPU)のみの対応なので、Intel GPUではOpenVINO、AMD GPUではDirectMLフォークを適用して実行されています。
GPU名称 | 1分あたりの生成枚数 |
---|---|
RTX 4070 | 12.861 |
RTX 4060 Ti 8GB | 8.587 |
RTX 4060 Ti 16GB | 8.457 |
AIイラスト生成は「RTX 4070」の方が大幅に高速(約1.5倍)
Stable Diffusion の768×768におけるイラスト生成速度は、「RTX 4070」が約1.5倍高速です。設定によりますが、「RTX 4070」が4~5秒で1枚生成するとすれば、「RTX 4060 Ti」は6秒~7.5秒掛かることになります。
とはいえ、正直数秒程度なら待てるレベルだと思うので、一応割り切れる程度の結果にも見えます。
ただし、AIイラスト生成はVRAMを大量に使う処理であり、768×768で8GB VRAMというのも実は結構厳しい印象があるのも懸念点です。そのため、安定稼働や高解像度を目指すなら「RTX 4060 Ti 8GB」よりも「RTX 3060 12GB」の方が良いレベルだったりします。
そのため、AIイラストにおいては「RTX 4060 Ti 8GB」はコスパは悪いGPUである、ということは覚えておいて損は無いかなと思います。
とはいえ、解像度を高くしなければ全然普通に使える性能ですし、最近ではVRAM使用量が抑えることが出来るForge版というのものがあったりもするので、どこまで妥協できるかという話にはなってきます。
Blender(3DのGPUレンダリング)
「Blender」は人気のある定番のレンダリングソフトです。「Blender 3.6.0」を用いた「Blender Benchmark」の3つのテスト結果の幾何平均を総合スコアとし、比較していきます。
「Blender 3.6.0」では、AMD、NVIDIA、Intel Arc GPUでレイトレーシングを使用するCycles Xエンジンが含まれているため、レイトレーシング性能も重要となります。しかし、どうやら「Blender 3.6.0」ではレイトレーシング用のコアを直接使用するのではなく、メインのGPUシェーダーを介しての処理となるようです。そのため、RTコアではなくメインのGPUコア(CUDAコア)でレイトレーシングを高速化できるエンジンの「Optix」を持つGeForceに現状では優位性があります。
GPU名称 | 総合スコア(幾何平均) |
---|---|
RTX 4070 | 1943.2 |
RTX 4060 Ti 8GB | 1419.4 |
RTX 4060 Ti 16GB | 1371.2 |
Blenderは「RTX 4070」が約36.9%上回る
BlenderによるGPUレンダリングでは、「RTX 4070」が約36.9%上回る結果です。ワットパフォーマンスはほぼ同等なので、単純に価格とこの性能差で比較することになります。
現在では一般消費者にとってメジャーと言える処理ではないと思われ、ここを重要視するかは用途に含まれているかによりますが、1080p~1440pでのラスタライズ性能差と似た差になっているので、基本性能差が+35%程度であることを理解していれば、特に深く考えなくても良い項目かなと思います。
SPECviewperf 2020 v3(OpenGL)
「SPECviewperf 2020 v3」はOpenGL性能を測るベンチマークです。OpenGLはクロスプラットフォームに対応した汎用型のグラフィックスライブラリとなっており、ゲームだけでなく幅広い分野で利用されています。
今回見るのは「SPECviewperf 2020 v3」の8つのテストの総合スコア(幾何平均)です。ただし、一般的にはテストに使用される処理全てを利用する人はほぼ居ないと思うため、自分が使用するアプリケーションで使用される処理について確認することが重要な点は留意しておきましょう。今回は総合的な性能で相対的な差を求めるために、幾何平均による総合スコアを用いています。
GPU名称 | 総合スコア(幾何平均) |
---|---|
RX 7600(参考) | 79.14 |
RTX 4070 | 66.71 |
RTX 4060 Ti 16GB | 51.12 |
RTX 4060 Ti 8GB | 50.92 |
OpenGLは「RTX 4070」が約30.1%上回る
OpenGL性能は「RTX 4070」が約30.1%上回る結果でした。こちらもフルHDのラスタライズ性能差とほぼ同等なので、基本性能差が+35%程度であること理解していれば、特に気にする必要はないかなと思います。
また、実はそもそもGeForceではOpenGL性能に強い制限が掛けられているため、Radeonが圧倒的に有利ということを余談して触れておきます。同社のプロフェッショナル向けGPUの需要を維持するための調整となっています。
Radeonでも同様にプロフェッショナル向けのGPUがあり、ゲーム向けGPUでは制限が掛けられていますが、その制限がGeForceよりは緩いため、ゲームGPU同士だとRadeonの方が明らかに良く見えるという状況になっています。
Radeonは、OpenGLの優位性以上にGeForceに対するデメリットが多いので、手放しでおすすめできるものではありませんが、OpenGLにのみ特化したいならRadeonを選ぶか、プロ向けのGPUを検討する方がおすすめです。
その他【データでは比較しにくい系】
最後にデータでは比較しにくい部分についても少し触れておこうと思います。
アップスケーリング:RTX 4060 Ti の方が恩恵が大きい
主にfpsを向上させる技術についてです。DLSSやFSRが主要なものとして挙げられます。今回比較しているGPUは世代が同じため、対応状況や向上率についてはほとんど考える必要がありません。
ここで考える必要があるのは、どちらの方がアップスケーリングの恩恵が大きいか、という点です。これについては簡単で、基本的に低性能なGPUほど恩恵が大きいのが基本です。理由はシンプルで、モニターのリフレッシュレートという上限があるためです。
前述したように、「RTX 4060 Ti 8GB」と「RTX 4070」で迷う人は基本144Hz~165Hzのモニターを使用していると思います。このリフレッシュレート上限は決して低くはありませんが、アップスケーリング後のfpsを前提とするならば、「RTX 4070」の場合は到達してしまうケースはかなり多いと思います。
そのため、アップスケーリングを上手く使いつつゲームメインで運用するのであれば、「RTX 4060 Ti 8GB」でも基本的に十分な性能です。
大人数のメタバース(VRChat、cluster):8GBは厳しい
メタバースはインターネット上の仮想空間のことで、自身のアバターでその仮想空間に参加し、様々な活動をすることができます。「cluster」や「VRChat」は日本で特に人気のメタバースプラットフォームです。
そして、本題のGPUとの関連ですが、メタバースは表示される人数が多いほどVRAM使用量が多くなることがポイントです。正直、8GBだとかなり厳しめで、12GBでも及第点といったレベルになると思います。
また、VRでも活用される分野ということもあり、GPU自体の性能も重要なので、特にVRでのメタバースを視野に入れるなら「RTX 4070」一択かなと思います。
「RTX 4060 Ti 8GB」よりも「RTX 3060 12GB」「RTX 4060 Ti 16GB」の方が動作が安定するのでおすすめな他、メタバースに関してならVRAMが全体的に強いRadeonも有力な選択肢になると思います。
性能まとめ【相対的な差を比較】
各種テスト類は以上ですが、ここまでの結果も踏まえて、双方の相対的な差を一覧にした表を作ったので、そちらを見てみましょう。この結果を踏まえて、所感を書いていこうかなと思います。
RTX 4070 | RTX 4060 Ti 8GB | |
---|---|---|
参考価格 | ¥83,800 | -29.8% ¥58,800(-¥25,000) |
VRAM容量 | 12GB(+4GB)50.0% | 8GB |
1080p | 30.0% | |
1440p | 34.2% | |
4K | 42.6% | |
1080p/RT | 36.4% | |
1440p/RT | 63.1% | |
4K/RT | 71.6% | |
消費電力 | -26.6% | |
電力効率 | 2.5% | |
電力効率/RT | 0.8% | |
コスパ(1f/¥) | 5.8% | |
コスパ(1f/¥)/RT | 12.7% | |
PC総額コスパ(1f/¥) | 10.9% | |
PC総額コスパ(1f/¥)/RT | 26.7% | |
Stable Diffusion (768×768) 【イラスト生成AI】 | 49.8% | |
Blender 3.6.0 【GPUレンダリング】 | 36.9% | |
SPECviewperf 2020 v3 【OpenGL】 | 30.1% | |
VRChat、cluster(大人数) 【メタバースプラットフォーム】 | 〇 | △ |
アップスケーリングの恩恵 | 〇 | ◎ |
それぞれの利点(優位性)まとめ
- どの性能も1.3倍以上で、4Kや1440pでもネイティブ対応可
- 12GB VRAMでVRAMが重要な処理でも弱くない
- PC総額から見たコスパが良い(ラスター:+10%以上、RT:+20%以上)
- 大幅に安価(-¥25,000)
- 1080pラスタライズなら十分快適な性能(重量級タイトルでも平均100fps超え)
- 消費電力がやや少なめ(TGP:160W)
- GPU単体のラスタライズコスパが良い(+5.8%前後)
結論:総合的コスパや対応力では「RTX 4070」が一段上で、価格差を考慮しても価値は感じるが、ラスタライズやフルHDに限れば「RTX 4060 Ti」でも快適な性能
重い処理への対応を考えると「RTX 4070」の方が魅力を感じる
人によって意見は変わるかもしれませんが、個人的には「RTX 4070」の方が魅力的に感じます。
「RTX 4060 Ti 8GB」は基本性能で30%クラスの不利があるとはいえ、1080p~1440pのラスタライズ性能のみで見れば十分実用的と言えるパフォーマンスを維持しているため、大幅に安価な分優れていると言えると思います。
ただし、4Kやレイトレーシング、VRAM性能が重要な処理になってくると、その差は30%台では済まなくなり、40%~70%と離れていくのが印象が悪かったです。やはり価格の割には弱すぎるVRAMがどうしてもネックになっていると思います。
「RTX 4060 Ti 8GB」の方が大幅に安価とはいえ、6万円弱という価格は安くはないです。どうせ高い金額を払うなら、どの処理でも30%以上の優位性を得ることが出来る上、ハイエンド用途にも一通り対応はできる「RTX 4070」を選ぶ方が、長く満足して使える可能性は明らかに高く見えるので、なんとか頑張って「RTX 4070」を選ぶことを基本的にはおすすめしたいです。
「RTX 4060 Ti 8GB」は、フルHD/1440pのラスタライズ性能に限るなら強力なコスパ
結論としては「RTX 4070」の方が価格差を考慮してもおすすめですが、「RTX 4060 Ti 8GB」も4Kを除くラスタライズコスパに限れば十分に強力かつ実用的な性能です。
1440p以下でスタライズによるゲームしかほとんどしない、という場合にはおすすめできる性能とコスパと価格です。それに、レイトレーシングや4Kに関しても、アップスケーリングが使える場合なら実用レベルまで引き上げることも可能です。「RTX 4070」と比べれば性能不足を感じるシーンは当然増えますが、対応が不可能というケースは実はほとんどないと思われるので、その辺を割り切って使えるなら選択肢としては十分アリだと思います。
とはいえ、ここでやはりネックなのは、最近はゲーム以外でVRAM容量が重要な処理が増えてきていることです。代表的なものはやはり生成AI関連とメタバースです。
より大容量のVRAMのGPUとしては、「RTX 3060 12GB」を1.5万円ほど安価に手に入れることができ、安価ながら高い対応力を持つGPUとして未だに人気です。基本性能こそ大幅に落ちるものの、1080pラスタライズに限れば実用的な性能はあるので、対応できる用途の幅では負けていると思います。
また、アップスケーリングを前提とするのであれば「RTX 4060」も1.5万円ほど安価で、VRAM容量も同じ8GBですから、実用性的には大差ないかもしれないという話も出てきます。
正直、あえて選ぶ理由を探すよりも、用途に応じて他の優れた代替品を探す方が簡単なGPUにはなっちゃっていると思うGPUです。
先代の「RTX 3060 Ti」が新世代が近づくにつれて価格が下落し、再び脚光を浴びた事例もあるので、「RTX 4060 Ti」もそのようなことに期待したいなと思います。特に、16GBモデルの方は、価格が下落すれば一気に大人気GPUになるポテンシャルがあると思うので、一応今後のカギを握るかもしれないです。
といった感じで、本記事は以上になります。ご覧いただきありがとうございました。