AMDが「RX 7900 XTX」「RX 7900 XT」を発表【RDNA 3】

AMDがRDNA 3アーキテクチャ採用の次世代GPUシリーズ「Radeon RX 7000シリーズ」の「RX 7900 XTX」および「RX 7900 XT」を発表したので、仕様や性能についてざっくりとみていきたいと思います。

注意

本記事の内容は記事執筆時点(2022年11月4日)のものであり、ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。

※当初「RX 7900 XT」のTBPは300Wと記載されていましたが、後に315Wへと訂正されました。

ざっくり要点まとめ

RX 7000シリーズ(7900 XTX / XT)の要点まとめ
  • RX 7900 XTX
    • 4KでRX 6950 XTの最大1.7倍の性能(RTX 4090と同等の性能?)
    • 希望小売価格は999ドル~
    • 演算ユニット(EU):96、ストリーミングプロセッサー:6144
    • ビデオメモリ:24GB GDDR6 384-bit 20Gbps(帯域幅:960 GB/s)
    • TBP(消費電力):355W
    • レイアクセラレータ:96基
    • 12月13日発売予定
  • RX 7900 XT
    • XTXよりも12.5%少ないコア数で1~2割低い性能?
    • 希望小売価格は899ドル~
    • 演算ユニット(EU):84、ストリーミングプロセッサー:5376
    • ビデオメモリ:20GB GDDR6 320-bit 20Gbps(帯域幅:800 GB/s)
    • TBP(消費電力):315W
    • レイアクセラレータ:84基
    • 12月13日発売予定
  • 【RDNA 3】Radeon RX 7000 仕様(恐らく共通)+その他
    • GCD:TSMC 5nm(メインのGPUダイ)+ MCD:TSMC 6nm(メモリ制御キャッシュダイ)
    • 電力効率が前世代より54%向上
    • レイトレーシング性能が前世代より50%向上
    • 補助電源コネクタは8ピン採用
    • AV1エンコードに対応
    • メモリコントローラを個別のチップレットに移動し、メインのGCDタイルのサイズも縮小されるため、歩留まり(不良品の少なさ)が向上
    • DisplayPort 2.1をサポート(4K@480Hzや8K@165Hzが1本のケーブルで可能に)
    • FSR 3.0が発表され、2.0と同品質で2倍のパフォーマンス向上
  • Navi 31
    • RX 7900 XTX / XTに採用
    • 大型のコンピューティングダイ(GCD)x1 + メモリ制御キャッシュダイ(MCD)x6
    • MCD一つあたり、64ビット幅のメモリコントローラーと16MBのInfinity Cacheを含む(7900 XTでは一つが無効)

予想通りですが、まずはハイエンドモデルのみの投入です。発売日は12月13日が予定されています。下記からそれぞれについて軽く触れていきます。

RX 7900 XTX

最上位のハイエンドGPUの「Radeon RX 7900 XTX」です。少し前から噂はあったものの、XTXという新しい末尾が採用されました。

ゲーム性能は、4K Ultra HDでのRX 6950 XTと比較するとラスターで最大1.7倍、レイトレーシングで最大1.6倍高性能と主張されています。大きな向上率です。

既に発売されている「RTX 4090」と「RX 6950 XT」では多数のゲームでの平均で1.5倍近くの性能差がレビュー等で明らかになっているので(参考:https://www.techpowerup.com/review/nvidia-geforce-rtx-4090-founders-edition/、「RX 7900 XTX」は「RTX 4090」と同等のゲーミング性能となるのではないかと推測されています。

希望小売価格は999ドルとなっており非常に高価ではあるものの、「RTX 4090」の1,599ドルよりは圧倒的に安いため、もし本当に同等の性能ならコスパでは圧勝となります。

演算ユニット(EU)およびレイトレーシングアクセラレータ数は96となっており、ストリーミングプロセッサー数は6144です。ビデオメモリはGDDR6 24GB 384ビットを搭載し、速度は20Gbpsで帯域幅は960GB/sです。999ドルでこのメモリ性能は驚きです。前世代ではハイエンドモデルでも512~576GB/sで、RTX 3080以上に対して明らかに不利でしたが、そこが大幅に改善されています。Infinity Cacheも引き続き搭載し、7900 XTXでは96MBです。

メモリ面ではGeForceとの差を大きく縮めることになったと思います。高解像度でやや不利だった弱点が解消されたと思います。

更に、ボードの総消費電力を表すTBPは355Wとなっており、「RTX 4090」の450Wよりも95Wも少ない数値となっています。ですが、「RTX 4090」は実はDLSS無しでレイトレフル稼働とかしない限りは、450Wどころか355W以下で稼働することも多かったため、実際に確認しない限りは圧倒的に有利とは断言できません。とはいえ、電力面で不利になることはなさそうな仕様ですし、フル稼働時の消費電力では間違いなく有利なので電力面でも有利な可能性が高いのは朗報です。

また、補助電源コネクタは8ピンが採用されています。「RTX 4090」では最新のPCIe 5.0規格の12+4ピンの「12VHPWR」が採用されていますが、溶解などの問題もやや報告されているので、それが採用されないのは不安要素が少なくて逆に良いかもしれません。

「RX 7900 XT」の総評としては、999ドルという価格設定で1,599ドルの「RTX 4090」よりは圧倒的に安いにも関わらず、性能は同等に近い可能性があるので、予想よりも多少低い性能だったとしてもコスパは圧倒的に有利に見えます。メモリ性能も格段に向上して差を縮めている点もあるため、DLSSを使いたい訳でなければ一択に見えるレベルです。

また、「RTX 4090」だけでなく、1,199ドルの「RTX 4080 16GB」よりも希望小売価格は200ドルも安くなっているいます。こちらに関しては性能では高確率で上回ると思われるので、DLSS+レイトレーシングの組み合わせをどうしても使いたいという訳ではなければ、「RX 7900 XTX」の方が明らかに魅力的です。

歩留まり向上にも貢献していると見られるチップレット設計の恩恵かわかりませんが、「RTX 40シリーズ」のハイエンドモデルにはコスパで明らかに勝っており、NVIDIAは価格について再考しないと厳しいような気がするのが正直な印象です。

RX 7900 XT

「RX 7900 XT」は「RX 7900 XTX」の下位にあたるハイエンドGPUです。残念ながら、XTXと違い具体的な性能比較は示されませんでしたが、各ハード仕様は公開されたので、そちらから予測も含めて見ていきます。

「RX 7900 XT」の演算ユニット(EU)およびレイトレーシングアクセラレータ数は84となっており、ストリーミングプロセッサー数は5376です。XTXと比較すると、各ユニット数が12.5%削減されている形になります。希望小売価格は899ドルとなっており、XTXから100ドル安くなっています。

ビデオメモリはGDDR6 20GB 320ビットを搭載し、速度は20Gbpsで帯域幅は800GB/sです。Infinity Cacheは80MBです。XTXと比較してMCDが一つ無効化されているため、VRAMの4GB 64ビットと、Infinity Cacheの16MBが失われている形となっています。

メモリ性能は100ドル差のXTXと比較すると大きく下がったようにも見えますが、十分ハイエンドと言える仕様です。容量、帯域共に前世代のハイエンドモデルよりも格段に向上しており、899ドルのGPUのメモリとしては破格の仕様です。それに、恐らく競合相手になる「RTX 4080 16GB」の16GBの256ビットメモリよりは明らかに優れたメモリ仕様となっているため、十分に競争力があります。前世代とは異なり、メモリは容量だけでなく帯域幅でも優位に立つことになりました。

7900 XTについては具体的な性能は示されなかったものの、ユニット数が12.5%削減されているので、性能は低く見積もってもXTXのマイナス20%以内であると思われます。それに対し「RTX 4080 16GB」は「RTX 4090」よりもメインのGPUコア数が約4割も少ないです。4割のコア低下で2割程度の性能低下で済むとは思えないため、 7900 XTでも「RTX 4080 16GB」よりは恐らく高性能、そうでなくても十分に競争力のある性能になると思われます。しかも性能だけでなく、価格もRTX 4080よの1,199ドルよりも300ドルも安い899ドルですから、コスパでは圧勝の可能性が高そうな印象です。レイトレ性能で多少上回ったり、DLSS 3.0対応の点を考慮しても、この差を覆すのは厳しそうに思います。

消費電力は、7900 XTのボードの総消費電力を表すTBPは315Wとなっており、「RTX 4080」とほぼ同等です。ワットパフォーマンスで大きく優位に立つことは無さそうですが、価格面では有利になると思います。

非常に競争力はあると思いますが、100ドルのプラスで最上位のXTXを選べることを考えると、そちらの方が魅力的に感じる人は多そうです。

その他

その他のことについても分けて軽く触れています。

5nm + 6nm プロセス(GCD + MCD)

プロセス面ですが、メインのGPUダイ(GCD)に関しては5nmで、メモリ類(MCD)は6nmという設計でした。6nmプロセスを部分的に採用しているため、5nmカスタムと言われているRTX 40シリーズと比較するとわずかに遅れていることにはなりますが、誤差レベルだと思います。

それよりも気になるのは価格で、RTX 40よりも明らかに安価です。最上位モデル同士だとまさかの600ドル差という非常に大きな価格差でした。

この安さの要因は、マルチチップレットでサイズの縮小したダイのおかげで歩留まり(不良品率の低さ)が向上しているためと推測され、その上でRTX 40よりはわずかに安価と思われる6nmプロセスも採用していることも大きいです。価格を見る限りはその恩恵が如実に出ています。

RTX 40シリーズがかなり強気な価格設定で、RX 7000シリーズがそれに追随しなかっただけの可能性もあるとは思いますが、どちらにせよ消費者にとっては非常に嬉しい発表になったのかなと思います。

NVIDIAのレイトレーシング性能やDLSS性能などを非常に強力にして唯一の優位性を見出していく戦略もありだとは思いますが、AMDのような今必要な性能を出来るだけ効率良く提供してくれる方が一般消費者にとってはありがたく感じる人が多いと思うので、個人的には好印象です。

レイトレーシング性能は前世代から最大1.6倍向上

RTX 40シリーズと同様に、RX 7000シリーズもレイトレーシング用のコアの世代が更新され、性能は前世代から最大1.6倍向上したとされています。

大きな向上ですが、NVIDIAのときは最大2倍との触れ込みだった上に、比較対象も「RX 6950 XT」よりも高性能な「RTX 4090 Ti」でしたから、額面だけ見ればRTX 40シリーズの方がレイトレーシングではまだ上と推測されます。

そのため、やはり「RTX 4090」相手にはやや分が悪そうな印象ですが、コア数の差から見た推測的には「RTX 4080 16GB」相手なら「RX 7900 XTX / XT」はレイトレでも同等以上のパフォーマンスが十分見込めると思います。それに多少負けていても価格が大幅に安いですからコスパは上です。

ただし、レイトレーシングにおいてはRTXにはDLSSがあることが大きいです。FSR 3.0の登場によってFPSの向上率自体は大きな差ではなくなっているっぽいですが、FSRがシンプルなアップスケーリングというのは恐らく変わらないので、DLSSに品質では劣るという弱点は残っているはずです。そのため、レイトレーシングで高品質で高いFPSを求めるならやはりRTXの方が有利になると思います。

価格差が非常に大きいため、レイトレーシングおよびDLSS性能をどう見るかは人によって総合評価が大きく分かれそうな感じですが、現状では恐らくレイトレーシングを常用している人はほとんど居ないと思われ、レイトレーシングを使うくらいなら解像度を上げたいという人の方が多そうなので、価格の安くてラスター性能のコスパが良いRX 7000シリーズの方を魅力的に感じる人の方が多いのではないかと思います。

FSR 3.0が発表。2から2倍のfpsに

上でも軽く触れていますが、AMDのアップスケーリング技術であるFSR(FidelityFX Super Resolution)の新バージョン3.0が発表されました。実際に利用可能となるのは2023年とのことですが、FSR 2と比べて最大2倍のfps向上を実現しているらしいです。

また、これはNVIDIAが発表したDLSS 3がDLSS 2の2倍の性能を実現したという話と向上率が同じなので、両者の差は変わらずという感じになります。品質ではDLSSの方が上のままだと思うので、アップスケーリング技術に関しては依然としてGeForceがやや有利という感じになると思います。

ただし、FSRでは専用のコア等が必要ないのに対し、DLSSは専用のコア(Tensorコア)が必要となっている上に、DLSS 3に関してはRTX 30シリーズおよび20シリーズではサポートがされていないので、対応力の点ではFSR 3.0の方が上になると思います。

既存GPUを使うことを考えると、品質よりもfpsを重視するならRTXでもDLSS 2よりは FSR 3.0を使う方が良くなると思うので、汎用性の高さと使用率の点ではしばらくはDLSS 3を上回るのではないかと思います。

AV1エンコードに対応

RTX 40と同じように、RX 7000もAV1エンコードに対応しました(デコードは前世代でも対応)。新しいデュアルメディアエンジンは前世代から1.8倍の速度になるとされています

DisplayPort 2.1に対応

DisplayPort 2.1に対応することも発表されました。最大54Gbpsという驚異的なリンク帯域幅を備え、1本のケーブルで4Kは最高480Hz、8Kでも最高165Hzまで対応が可能となります。とてつもないです。

RTX 40では1.4aのサポートとなっているので、数少ない明らかな優位性です。少し前までは1.4でも最大仕様に達するのはかなり厳しかったため、あまり気にする必要もありませんでしたが、「RTX 4090」の性能を見ると4Kでも144Hz以上を普通に出せる性能がありますから、ハイエンドユーザーにとっては意外な差として出てきました。

とはいえ現実的な話をすると、上述の仕様の話はあくまで理論上の最大で、現状では4Kの144Hzを超えるモニターは皆無なので(価格.comで調べてみても1件も無かった)、正直意味がないとも言えます。いずれは出てくるとは思いますが、今の4K/120Hz~144Hzモニターが7万円~という高価さなので、さらにそれを一段階上回るモニターが出てくるとしたら価格が想像できないくらい高価になると思います。「RTX 4090」や「RX 7900 XTX/XT」を検討する人ならその予算も惜しまない可能性もあるかもしれませんが、ほとんどに人とっては恐らく雲の上レベルの話だと思います。一応は優位性だけど決め手にはならなさそうな印象です。

あとがき

多くは語りませんが、あとがきです。

「RTX 40シリーズ」に続き「RX 7000」も遂に発表されました。まずはハイエンドの「RX 7900 XTX / XT」から投入です。実性能は発売を待ってから語りたいと思いますが、価格差が非常に大きいので、少なくともラスター性能コスパはほぼ間違いなく「RTX 4090 / 4080」を上回ることになります。メモリ性能も前世代から大きく改善されましたし、非常に競争力を感じる発表でした。

RTX 40にはDLSS 3.0の優位性があるものの、数万円~10万円クラスの予算の追加をしてそこだけを強化するというのもさすがに厳しいかなと思うので、NVIDIAとしては早くも価格設定に難があるのではないかと感じる状況となってしまった可能性があります。

正直4090と4080についてはいくらなんでも高すぎると思っていた人は多かったと思うので、AMDのこの価格設定は消費者にとってNVIDIAの値下げの期待を持てるという意味でも大きかったのではないかと思います。

発表モデルの発売も待ち遠しいですし、RTX 4070やRX 7800などのモデルの非常に気になりますし、目の離せない時期がしばらくは続きそうです。

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