Intel「Arc A750」「Arc A770 16GB」のざっくり性能比較・評価です。価格的に「RTX 3060」や「RX 6600 XT / 6650 XT」あたりとの競合になるモデルで、価格の割には優れたビデオメモリ持つ上、ハードウェアのAV1エンコードにも対応しています。
同社の同シリーズとして先に登場している「Arc A380」については、取り扱い状況や価格と性能的にゲーミングGPUとしての競争力はやや微妙でしたが、今回からは重いゲームにも対応できる性能帯なので、ようやく競合の3社目の本格登場という感じがします。
それでは「RTX 40シリーズ」や「RX 7000シリーズ」に先駆けて登場するIntel GPUの実力を見ていきたいと思います。
追記:掲載当初、仕様表で「A750」のVRAM容量を8GBと誤って掲載していました。お詫びして訂正いたします。
本記事の情報は記事執筆時点(2022年10月6日)のものです。ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。
仕様
まずは主要な仕様を表にまとめて載せています。
簡易比較表
※価格は2022年10月6日時点での北米での希望小売価格です。
GPU | シェーダー ユニット数 |
メモリタイプ メモリ容量 |
メモリ転送速度 メモリ帯域幅 |
レイトレ用 ユニット数 |
ダイサイズ | 消費電力 (TDP等) |
北米 参考価格 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
RTX 3070 | 5888 | GDDR6 8GB |
14Gbps 448GB/s |
46 | 392㎟ | 220W | 499ドル |
RX 6750 XT | 2560 | GDDR6 12GB |
18Gbps 432GB/s |
40 | 336㎟ | 250W | 419ドル |
RTX 3060 Ti | 4864 | GDDR6 8GB |
14Gbps 448GB/s |
38 | 392㎟ | 200W | 399ドル |
RX 6700 XT | 2560 | GDDR6 12GB |
16Gbps 384GB/s |
40 | 336㎟ | 230W | 379ドル |
Arc A770 16GB | 4096 | GDDR6 16GB |
17.5Gbps 560GB/s |
32 | 406㎟ | 225W | 349ドル |
Arc A770 8GB | 4096 | GDDR6 8GB |
16Gbps 512GB/s |
32 | 406㎟ | 225W | 329ドル |
RTX 3060 | 3584 | GDDR6 12GB |
15Gbps 360GB/s |
28 | 276㎟ | 170W | 329ドル |
RX 6650 XT | 2048 | GDDR6 8GB |
17.5Gbps 288GB/s |
32 | 237㎟ | 180W | 299ドル |
RX 6600 XT | 2048 | GDDR6 8GB |
16Gbps 256GB/s |
32 | 237㎟ | 160W | – |
Arc A750 | 3584 | GDDR6 8GB |
16Gbps 512GB/s |
28 | 406㎟ | 225W | 289ドル |
RTX 3050 | 2560 | GDDR6 8GB |
15Gbps 224GB/s |
20 | 276㎟ | 130W | 249ドル |
RX 6600 | 1792 | GDDR6 8GB |
14Gbps 224GB/s |
28 | 237㎟ | 132W | 239ドル |
GTX 1660 SUPER | 1408 | GDDR6 6GB |
14Gbps 336GB/s |
– | 284㎟ | 125W | 229ドル |
RX 6500 XT | 1024 | GDDR6 4GB |
18Gbps 144GB/s |
16 | 107㎟ | 107W | 169ドル |
GTX 1650 GDDR6 | 896 | GDDR6 4GB |
12Gbps 192GB/s |
– | 200㎟ | 75W | 149ドル |
RX 6400 | 768 | GDDR6 4GB |
16Gbps 128GB/s |
12 | 107㎟ | 53W | 149ドル |
Arc A380 | 1024 | GDDR6 6GB |
15.5Gbps 186GB/s |
8 | 157㎟ | 75W | 129ドル? |
「Arc A750」「Arc A770 8GB/16GB」は価格・性能的にミドルレンジクラスのGPUになります。アーキテクチャは「Xe HPG」となっており、TSMCの6nmプロセスに基づいています。また、表にはA770 8GBモデルも記載していますが、この記事では16GBモデルのみ見ていきます。
Intelによる北米での希望小売価格は、「Arc A750」は289ドル、「Arc A770」は8GBモデルが329ドル、16GBモデルが349ドルとなっています。GeForceでは329ドルの「RTX 3060」と競合します。Radeonでは、価格改定後では299ドルの「RX 6650 XT」や379ドル「RX 6700 XT」が近いモデルになります。
かなり値下がりが進んだモデルたちが相手なのでやや分が悪いようにも見えますが、プロセス面と後出しという点では有利なはずなので、どこまで戦えるか見物です。
細かいゲーミング性能についてはこの後見ていきますが、ベンチマークテストでは分かり難いながら、「A750」と「A770」は競合モデルより優れている仕様が主に2点あるので、先に触れておきたいと思います。
まずはVRAMです。「Arc A750」および「Arc A770 8GB」ではGDDR6 8GB、「Arc A770 16GB」ではGDDR6 16GBを搭載しています。
現状の市場では300ドル前半以下のGPUではバス幅が192ビット以下が基本ですが、「A750」と「A770」では少し優れた256ビットのものを採用しています。速度も16Gbps~17.5Gbpsと遅くないです。これによりメモリバス帯域幅は、「A750」および「A770 8GB」では512GB/s、「A770 16GB」では560GB/sという優れた仕様になっています。表を見るとわかりますが、「RTX 3060」のメモリ帯域幅は360GB/sとなっており、やや高額な「RTX 3060 Ti」でも448GB/sなので、同価格帯のGPUよりは明らかに良いメモリを備えていることがわかります。
もう一つはAV1のデコードおよびエンコード機能をも備えた優れたメディアエンジンを備えている点です。RTX 30シリーズやRX 6000シリーズ(RX 6600以上)ではAV1デコードには対応していますがエンコードには対応していません。前述のVRAM性能の高さも含め、競合製品よりもクリエイター用途で優位なGPUになっていると思います。
また、NVIDIAの「DLSS」やAMDの「FSR」のように、「XeSS」というアップスケリーング機能も用意しており、そちらでも差が出ないようにされています。
そして、レイトレーシングのハードウェアアクセラレーションについても、対応するユニットを備えており利用が可能となっています。A380ではRadeon RX 6000シリーズよりも優れたパフォーマンスとなっていたので、このクラスの性能のGPUでは実用的になることも期待できます。
性能はこれから見ていくといて、カタログスペック時点で気になる点は消費電力です。「A750」と「A770」のTGPはどちらも225Wとなっており、これはワンランク上の「RTX 3070」の220Wとほぼ同等の値です。既に出ている「A380」の性能から見た仕様的に、ゲーミング性能は「RTX 3070」にはまず届かないので、電力効率は悪いことが推測されます。これから効率が大きく改善するとされる「RTX 40シリーズ」や「RX 7000シリーズ」が出てくるにも関わらず、既存GPUにすら負ける効率は気になるところです。
更に、カタログスペックからはわかりませんが、Resizable BARを使用しないとパフォーマンスが大きく低下する点にも注意が必要です。
ゲーミング性能
ゲーミング性能は、言葉の通りゲームをする際のパフォーマンスの性能です。実際にゲームを動作させた際の平均FPS数を見ていきます。今回は25種類のゲームでのデータを基に見ていきます。設定は基本的に最高品質です。使用されたCPUは「Ryzen 7 5800X」となっています。
また、OSはWindows 10が使用されているため、Windows 11で報告例のあるゲーミングパフォーマンスが低下する問題は発生していません。その他のスペックなどの詳細は、お手数ですが記事上部の参考リンクを参照お願いします。
1080p(1920×1080)
FHD(1920×1080)です。最低限の解像度という感じですが、2022年現在では最も主流な解像度です。ハイエンドGPUを使用していても、特にFPSやTPSでは出来るだけ高いFPSを維持するためにこの設定にするのが主流だと思います。
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
RX 6950 XT |
184.0
|
RTX 3090 Ti |
181.7
|
RX 6900 XT |
175.5
|
RTX 3090 |
172.0
|
RTX 3080 Ti |
170.2
|
RX 6800 XT |
168.8
|
RTX 3080 10GB |
158.0
|
RX 6800 |
150.4
|
RTX 3070 Ti |
140.3
|
RTX 3070 |
134.5
|
RX 6700 XT |
130.8
|
RTX 3060 Ti |
121.1
|
RX 6600 XT |
106.9
|
Arc A770 16GB |
98.8
|
RTX 3060 |
94.8
|
RX 5700 XT |
93.2
|
RTX 2070 |
92.9
|
Arc A750 |
92.7
|
RX 6600 |
91.8
|
A770 ReBAR無し |
79.9
|
RTX 2060 6GB |
79.2
|
RTX 3050 |
69.2
|
GTX 1660 Super |
66.1
|
RX 6500 XT |
47.6
|
RTX 3060に近い性能で、RX 6600 XTには届かない
「RTX 3060」と比較すると、「Arc A750」は約2.2%遅く、「Arc A770 16GB」は約6.6%上回るという結果でした。概ね「RTX 3060」と同等と言えるパフォーマンスで、1080pなら重いゲームでも大体快適にプレイできる高い性能です。
ただし、「Arc A770 16GB」でも「RX 6600 XT」には届いていません。価格的にはやや下に当たるモデルなので、コスパは負けてしまっています。
価格は競合モデルとほぼ同等としても、消費電力は競合モデルよりもやや多いですし、「RX 6600 XT」には性能と電力面の両方でやや負けてしまっていますから、1080pゲーミングでのコスパは良いとは言えないGPUになっていると思います。
また、Resizable BAR未使用時には性能が大きく低下する点には注意が必要です。使用時と比べて平均で約2割程度の低下が見られ、非常に大きいです。対応CPUはRyzen 5000シリーズ以降と第10世代Core以降となっているため、それ以前のCPUのPCで使用する場合には向かないことになります。
1440p(2560×1440)
WQHD(2560×1440)です。4Kは重すぎるけど、1080pよりはキレイな映像で楽しみたいという場合や、1080pでは少し性能を持て余してしまう場合に利用する解像度です。現在の主流解像度は1080pですが、GPU性能が全体的に大幅に向上してきているため、徐々にこの1440pが主流解像度に切り替わっていく気がします。
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
RTX 3090 Ti |
155.1
|
RX 6950 XT |
150.3
|
RTX 3090 |
143.2
|
RX 6900 XT |
142.5
|
RTX 3080 Ti |
141.6
|
RX 6800 XT |
135.9
|
RTX 3080 10GB |
128.8
|
RX 6800 |
120.6
|
RTX 3070 Ti |
111.1
|
RTX 3070 |
105.6
|
RX 6700 XT |
99.6
|
RTX 3060 Ti |
92.1
|
Arc A770 16GB |
79.4
|
RX 6600 XT |
76.9
|
Arc A750 |
73.9
|
RTX 3060 |
70.8
|
RX 5700 XT |
70.3
|
RTX 2070 |
69.6
|
RX 6600 |
64.9
|
A770 ReBAR無し |
64.7
|
RTX 2060 6GB |
58.6
|
RTX 3050 |
51.1
|
GTX 1660 Super |
48.5
|
RX 6500 XT |
32.2
|
1440pではA750でもRTX 3060をわずかに上回る性能
1440pでは競合モデルに対し1080pモデルよりもやや地位を上げています。優れたメモリ性能が活きているのかもしれません。
1440pゲーミングの性能はどちらも「RTX 3060」よりも優れており、「Arc A750」で約4.4%、「Arc A770 16GB」で約12.1%上回るという結果でした。「RTX 3060」より少し下の価格設定の「Arc A750」でも上回っており、コスパは良いことが伺えます。
「RX 6600 XT」に対しても「Arc A770 16GB」ならわずかに上回ることが出来ています。「RX 6600 XT」は既存GPUでは比較的優れたコスパのGPUなので、そこに対抗できるGPUということで、1440pでのコスパは既存GPU内では上位に入ることが出来ると思います。
電力面ではやや不利ではありますが、高いメモリ性能は魅力ですし、AV1対応的にも重めの処理を中心に検討する人にとっては「RTX 3060」や「RX 6600 XT」よりは魅力的に感じるかもしれません。
4K(3840×2160)
「超高解像度の代名詞」ともいえる解像度の4K(3840×2160)です。非常に繊細で綺麗な映像になりますが、その負荷の大きさから高いFPSを出す事が難しいためTPSやFPSなどの対人競技ゲームで利用されることはまずないです。処理性能でも敷居が高いだけでなく、高リフレッシュレートの4Kモニターが非常に高価ということもあり、2022年現在では競技性の高いゲームではあまり利用されません。フレームレートよりもグラフィックのキレイさや臨場感が重要なゲームを中心に需要のある解像度です。
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
RTX 3090 Ti |
104.3
|
RX 6950 XT |
93.2
|
RTX 3090 |
93.0
|
RTX 3080 Ti |
92.3
|
RX 6900 XT |
87.0
|
RX 6800 XT |
81.8
|
RTX 3080 10GB |
81.0
|
RX 6800 |
71.3
|
RTX 3070 Ti |
67.4
|
RTX 3070 |
63.2
|
RX 6700 XT |
55.7
|
RTX 3060 Ti |
54.6
|
Arc A770 16GB |
48.8
|
Arc A750 |
44.6
|
A770 ReBAR無し |
41.8
|
RTX 3060 |
41.4
|
RTX 2070 |
40.7
|
RX 6600 XT |
40.3
|
RX 5700 XT |
39.2
|
RX 6600 |
33.9
|
RTX 2060 6GB |
32.1
|
RTX 3050 |
29.1
|
GTX 1660 Super |
26.2
|
RX 6500 XT |
14.9
|
4Kでは競合モデルにやや差を広げて優位
メモリ性能の高さがより活きているのか、4Kでは競合モデルよりも優れた性能を発揮しています。
4Kゲーミングの性能もどちらも「RTX 3060」よりも優れており、「Arc A750」で約7.7%、「Arc A770 16GB」で約17.9%上回るという結果でした。A770では大きめに優位となっており、高設定下での強みが見えます。
メモリ性能がやや弱い「RX 6600 XT」に対してはその差はより印象的となっており、「Arc A770 16GB」は約21.1%と大きく上回っています。1080pでは約7.6%遅れていたので、1080pと4Kで30%近くも差があることになります。メモリ性能による差が色濃く出ている結果になっています。
そのため、特に4Kなど高解像度でのゲームを前提としている場合には競合モデルよりも適していると言えると思います。
ただし、価格的にも性能的にも4Kを前提とするGPUではないので、そういう意味では4Kで価値あるGPUと言えるかは微妙という点は留意です。「RTX 3060」よりは上でしたが、ワンランク上の「RTX 3060 Ti」や「RX 6700 XT」に対しては負けてしまうので、その差は一つ上のランクに対して通用するほどではありません。あくまで競合モデルに対しては優位という感じです。
また、消費電力が多いために電力効率を評価に含めるなら4Kでも優位かは怪しいです。それに、前述の1080pでは競合モデルに対して同等か少し不利なので、ワンランク上の「RTX 3060 Ti」や「RX 6700 XT」に対しては当然大きく劣ります。
「Arc A770 16GB」と上の2モデルとの価格差は30ドル~50ドルです。日本円にしても1万円以下の追加費用でワンランク上のGPUを検討することができ、それらでは4K以外は大きく上回る性能を得ることができることを考えると、4Kの強みを考慮してもあえて選択するほどの需要があるかは怪しいいうのが本音です。
電力関連
消費電力
ゲームプレイ時(高負荷時)の平均消費電力を見ていきます。低い方が良い数値となります。測定に使用されたゲームは「Cyverpunk 2077」で、解像度は「2560×1440」です。
GPU名称 | 消費電力(W) |
---|---|
RTX 3090 Ti |
445W
|
RTX 3090 |
355W
|
RTX 3080 Ti |
354W
|
RX 6950 XT |
341W
|
RTX 3080 10GB |
318W
|
RX 6900 XT |
302W
|
RTX 3070 Ti |
298W
|
RX 6800 XT |
292W
|
RTX 2080 Ti |
265W
|
Arc A770 16GB |
232W
|
RX 6800 |
223W
|
RX 6700 XT |
221W
|
RTX 3070 |
220W
|
RX 5700 XT |
210W
|
Arc A750 |
203W
|
RTX 3060 Ti |
199W
|
RTX 2070 |
192W
|
RTX 3060 |
183W
|
RTX 2060 6GB |
164W
|
RX 6600 XT |
160W
|
RTX 3050 |
139W
|
GTX 1660 Super |
125W
|
RX 6600 |
120W
|
RX 6500 XT |
101W
|
Arc A380 |
78W
|
GTX 1650 |
74W
|
RX 6400 |
51W
|
GTX 1630 |
49W
|
GPU名称 | 消費電力(W) |
---|---|
Arc A770 16GB |
44W
|
Arc A750 |
39W
|
RX 6800 XT |
29W
|
RX 6900 XT |
28W
|
RX 6800 |
28W
|
RTX 3090 |
18W
|
Arc A380 |
17W
|
RTX 3080 Ti |
16W
|
RTX 3090 Ti |
15W
|
RTX 2080 Ti |
14W
|
RTX 3070 Ti |
11W
|
RTX 3080 10GB |
10W
|
RTX 2070 |
10W
|
RTX 3070 |
9W
|
RTX 3060 Ti |
9W
|
RTX 3060 |
9W
|
GTX 1660 Super |
9W
|
RX 5700 XT |
8W
|
RTX 2060 6GB |
8W
|
RX 6950 XT |
7W
|
RX 6700 XT |
7W
|
RTX 3050 |
7W
|
RX 6600 XT |
4W
|
GTX 1650 |
4W
|
GTX 1630 |
4W
|
RX 6600 |
3W
|
RX 6400 |
3W
|
RX 6500 XT |
2W
|
高負荷時の消費電力は200W以上で、競合モデルよりもやや多い
高負荷時の消費電力は「Arc A750」が203W、「Arc A770 16GB」が232Wという結果でした。
「RTX 3060」は183W、「RX 6600 XT」は160Wとなっているため、競合モデルよりもやや多いです。
「Arc A770」に関してはやや上位ということでワンランク上のGPUと比較してみても、「RTX 3060 Ti」が199W、「RX 6700 XT」221Wですから、232Wよりはやや多いことがわかります。
電源や冷却の要件を若干引き上げなければならない必要が出てくる差です。
アイドル時の消費電力がかなり多い
あまり意識されない項目だと思いますが、印象的な数値を残していたのがアイドル時の消費電力です。
どちらも40W程度となっており、競合のミドルレンジモデルは大体4W~9W程度なので、その差は歴然です。既存のハイエンドGPUでも大体20W~30W程度ですから、明らかに多いです。
消費電力自体は少ないため大きな騒音には繋がらないと思われますし、実害はほとんどないと思われる項目ですが、PCを24時間付けっぱなしにする派の人の場合には、長期使用するなら電力料金で割と差が出る可能性があるのは一応注意です。
ワットパフォーマンス
ゲームプレイ時のワットあたりのパフォーマンス(fps数)を見ていきます。上のゲーミング時の消費電力と前述の1440pゲーミング時の平均fpsを用いて、1Wあたりのfpsを算出して電力効率としています。消費電力は単一のゲームで測定したものに対し、fpsは複数ゲーム平均なので、厳密には正確な電力効率とは言えない点には注意ですが、各GPUの相対的な差を調べる分には概ね適切な値の範囲になっていると思います。
GPU名称 | 1Wあたりのfps |
---|---|
RX 6600 |
0.548
|
RX 6800 |
0.534
|
RX 6400 |
0.510
|
RX 6600 XT |
0.486
|
RTX 3070 |
0.484
|
RTX 3060 Ti |
0.472
|
RX 6900 XT |
0.468
|
RX 6800 XT |
0.458
|
RX 6700 XT |
0.447
|
RX 6950 XT |
0.439
|
RTX 3080 10GB |
0.407
|
RTX 3090 |
0.403
|
RTX 3080 Ti |
0.400
|
GTX 1660 Super |
0.392
|
RTX 3060 |
0.391
|
RTX 3070 Ti |
0.377
|
RTX 3050 |
0.373
|
RTX 2070 |
0.368
|
Arc A750 |
0.364
|
RTX 2060 6GB |
0.363
|
Arc A380 |
0.360
|
RX 5700 XT |
0.360
|
GTX 1650 |
0.354
|
Arc A770 16GB |
0.342
|
RTX 3090 Ti |
0.340
|
GTX 1630 |
0.329
|
RX 6500 XT |
0.327
|
電力効率は悪い
競合モデルに対して4K以外では優位とも言えない程度の性能で消費電力はやや多いので、電力効率(1440pでの1Wあたりのfps)はやはり悪いです。
「Arc A770 16GB」よりも「Arc A750」の方が少し良い数値となっていますが、そちらと比較しても「RTX 3060」よりも約6.9%下の数値となっています。「RTX 3060」も電力効率では同世代ではあまり良くないのですが、それをも下回る数値となっています。
「RX 6600 XT」と比較すると約24.8%も下回っており、大きな差があります。
上述のアイドル時の消費電力が多い点もありますし、電力面では既存GPUに対しても悪いと言わざるを得ない性能になっている点は印象が悪くする大きな要因になると思います。
レイトレーシング性能
レイトレーシング利用時のパフォーマンスを見ていきます。今回は8種類のゲームでの幾何性能fpsを見ていきます。
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
RTX 3070 Ti |
86.7
|
RTX 3070 |
82.1
|
RTX 3060 Ti |
72.2
|
Arc A770 16GB |
64.3
|
RX 6700 XT |
61.4
|
Arc A750 |
59.8
|
RTX 3060 |
55.7
|
RX 6600 XT |
46.9
|
RTX 2060 6GB |
42.3
|
RTX 3050 |
40.1
|
RX 6600 |
40.1
|
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
RTX 3070 Ti |
61.9
|
RTX 3070 |
58.6
|
RTX 3060 Ti |
51.5
|
Arc A770 16GB |
46.5
|
Arc A750 |
42.5
|
RX 6700 XT |
42.1
|
RTX 3060 |
38.5
|
RX 6600 XT |
31.5
|
RTX 3050 |
27.3
|
RTX 2060 6GB |
26.8
|
RX 6600 |
26.8
|
GPU名称 | 平均FPS |
---|---|
Arc A770 16GB |
25.1
|
RTX 3070 Ti |
23.8
|
RTX 3070 |
22.9
|
RX 6700 XT |
21.8
|
RTX 3060 |
20.3
|
Arc A750 |
19.8
|
RTX 3060 Ti |
19.6
|
RTX 3050 |
11.6
|
RX 6600 XT |
10.7
|
RTX 2060 6GB |
10.1
|
RX 6600 |
9.6
|
RX 6600 XTよりは明らかに良いレイトレーシングパフォーマンス
レイトレーシング性能は悪くなく、「RX 6600 XT」と比べると明らかに良いです。1080pでの平均fpsを比較すると、「Arc A750」で約27.5%、「Arc A770 16GB」で約37.1%も上回るという結果でした。より安いGPUでレイトレーシングを意識する場合にはRadeonよりは明らかな優位性があります。
また、「RTX 3060」も若干上回っています。同じく1080pでの平均fpsで比較すると、「Arc A750」で約7.4%、「Arc A770 16GB」で約15.4%ほど上回るという結果でした。同等かわずかに上回るという感じの差です。
総合的に見て、レイトレーシングではRadeonに対しては大きく優位で、GeForceに対してもわずかに優位という感じになると思います。
ただし、懸念されるのは、間もなく出てくる「GeForce RTX 40シリーズ」および「Radeon RX 7000シリーズ」です。まだ成熟しきってない分野だと思われるため、既に投入実績のある2社の新世代では大きな性能向上も期待されています。
とはいえ、恐らく300ドルクラスのGPUが新世代で置き換えられるのは暫く先になると思うので、それまでは価格の割にレイトレーシングで強いGPUとしての地位を保てる気はします。
まとめ
Intel Arc A770 16GB
- 比較的安価(349ドル)
- 価格の割に優れた大容量VRAM(16GB / 256ビット)
- AV1のハードウェアデコードおよびエンコードに対応
- RX 6600 XTより大幅に優れたレイトレーシング性能
- 4Kゲーミングで競合モデルより大きく優位
- 競合モデルよりも消費電力が多い(ゲーミング時に232W程度消費)
- 電力効率が悪い
- アイドル消費電力が多い
- Resizale BAR 未使用時には性能が大きく低下
- 実売価格が「RTX 3060」より少し高い程度で済むのか疑問
Intel Arc A750
- 比較的安価(289ドル)
- 価格の割に優れた帯域幅のVRAM(8GB / 256ビット)
- AV1のハードウェアデコードおよびエンコードに対応
- RX 6600 XTより大幅に優れたレイトレーシング性能
- 4Kゲーミングで競合モデルより優位
- 競合モデルよりも消費電力が多い(ゲーミング時に203W程度消費)
- 電力効率が悪い
- アイドル消費電力が多い
- Resizale BAR 未使用時には性能が大きく低下
- 実売価格が「RTX 3060」より少し安くなるのか疑問
Arc A770 16GB:価格の割に優れた16GBメモリ搭載の、クリエイティブ用途でも強いGPU
「Arc A770 16GB」は、349ドルという希望小売価格ながら、16GBの大容量かつ帯域幅に広いメモリを備えているのが魅力のGPUです。
ゲーミング性能は競合の「RTX 3060」をやや上回っており、ゲーミングコスパも悪くありません。そのメモリ性能の高さのおかげで、メモリ性能が特に重要な一部のゲームでは競合モデルにやや差を付けた性能を発揮することもあります。ミドルレンジクラスのGPUとしては優れたパフォーマンスのGPUです。
また、「RTX 30シリーズ」や「RX 6000シリーズ(RX 6600以上)」では対応していないAV1エンコードに対応している点も注目です。メモリ性能の高さも含め、将来性を見据えたクリエイティブ面では競合モデルよりも一段差を付けて良い仕様になっています。
このレベルのメモリを備えたGPUが300ドル台というのは破格ですし、ゲーミングコスパも悪くないので、ミドルレンジ市場での競争力は強力なGPUになっています。
ただし、気になる点は存在します。まずは電力面です。
「Arc A770」のTGPは225Wとなっており、高負荷時には仕様値に近い電力を消費します。競合モデルよりもやや多く、電力効率は悪いです。
また、アイドル時の消費電力が約44Wとなっており、競合モデルでは10W未満が当たり前なので、異常とも言えるほど多いです。消費電力量自体は少ないため、騒音で問題になったりすることはないと思いますが、やはり印象は良くないです。一応、24時間PCを付けっぱなしにするタイプの人では電力料金でもやや差が出る可能性もありますし、留意しておくべき点かと思います。
もう一つの気になる点は、本当に349ドルという「RTX 3060よりやや高い程度の価格」で販売されるのか疑問という点です。
同「Arc Alchemistシリーズ」では、既にエントリーモデルの「Arc A380」が販売されており、価格は129ドル~149ドルとされていますが、日本での実売価格は約3万円弱です。設定的には高くても2万円台中盤程度から購入できるはずですが、実際には違いました。
現在の市場の「NVIDIAにおけるRTX 30シリーズ」や「AMDにおけるRX 6000シリーズ」は、次世代の登場が迫り在庫処分したいというメーカー側の意図があるため積極的値下げを行っているのに対し、「Arc Alchemist」は出たばかりの現役GPUなので値下げの余裕もあまり無い気がしますし、
「Arc A380」に関しては、AIBパートナーの取り扱いメーカー数が少なかったことも要因として考えられるものの、「Arc 700番台」はダイサイズやメモリ仕様的に本来はもう少し上のモデルと競合させるつもりだったけど、性能的にミドルレンジになってしまった感が正直あり、利益率を下げて価格を下げている印象を受けるので、本当に349ドルという設定に見合う価格で出るのか半信半疑です。
とはいえ、もし本当に前評判通りの価格で販売されるなら、GeForceやRadeonの次世代GPUに置き換えられるまではコスパと汎用性に優れるミドルレンジGPUとして競争力を持つ事になると思いますから、期待したいところです。
Arc A750:安価で優れたメモリ帯域幅
「Arc A750」は、289ドルという安価な希望小売価格ながら8GBの256ビットメモリを搭載し、512GB/sという競合モデルよりも明らかに優れたメモリ帯域幅を備えているのが魅力のGPUです。
1080pでの平均ゲーミング性能は「RX 6600」に匹敵し、「RTX 3060」を若干下回る程度となっています。正直、1080pゲーミング性能およびコスパはそこまで良くはありませんが、一部のメモリ性能が重要なゲームでは競合モデルを上回りますし、1440p以上では平均でも上回ります。そのため、高解像度や重めのゲームを中心にプレイする人には競合モデル内ではやや優れたパフォーマンスおよびコスパを発揮します。
また、「Arc A770」と同じく「RTX 30シリーズ」や「RX 6000シリーズ(RX 6600以上)」では対応していないAV1エンコードに対応している点は注目です。価格の割に優れたメモリ仕様の点もありますし、将来性を見据えたクリエイティブ面での性能およびコストパフォーマンスは、競合モデルよりも良い仕様になっています。
「RTX 3060」よりも安い価格で販売されるなら、高いクリエイティブ性能のGPUを出来るだけ安く導入したい場合には非常に強力なGPUだと思います。
しかし、「Arc A770」とほぼ同じ懸念点を抱えている点は留意です。
まずは消費電力です。TGPの225Wという数値よりはやや少なかったのは朗報ですが、ゲーミング時には203W程度の電力消費が見られ、競合モデルよりもやや多いため、電力効率は悪いです。
また、アイドル時の消費電力が約39Wとなっています。「RX 6600 XT」では4W程度など、ミドルレンジ下位クラスでは5W前後が多いので、非常に大きな差があります。消費電力量自体は少ないため、騒音などで問題になったりすることはないと思いますが、小型ケースへの採用を考える人も多い価格のGPUとなりますから、電力面の印象が悪いのは良くないですね。24時間PCを付けっぱなしにするタイプの人では電力料金でもやや差が出る可能性もありますし、留意しておくべき点かと思います。
次の懸念点はやはり価格面です。Intelによる289ドルという価格設定が本当なら、現在では「RTX 3060」や「RX 6650 XT」より若干低い価格で売られることになります。最安4万円台からという感じになるので、その価格でメモリ帯域幅512GB/sのGPUが購入できるなら十分競争力があると思います。
しかし、やはり「Arc A380」の前例を見ると正直本当にそうなるのか疑問です。在庫処分価格が進行した「RTX 30シリーズ」「RX 6000シリーズ」と比べられるため仕方ないのかもしれませんが、価格競争では値下げの余地があまり無さそうな「Arc」は実際に販売されるまで信用できないというのが本音だったりします。
とはいえ、本当に希望小売価格で販売されれば魅力的なので、期待したいと思います。
総評:Arc A700番台は競合モデルより明らかに優れたメモリが魅力。しかし、電力面は注意
最後に総評です。「Arc A750」および「Arc A770」のArc A700番台は、289ドル~349ドルという安価さの割には優れたメモリが魅力的なGPUで、特にクリエイティブ用途や1440p以上の高解像度で競合モデルよりも優れたパフォーマンスを発揮します。AV1エンコードにも対応している点もあり、現状の安価な部類のGPUとしては対応できるシーンが多い汎用性に優れたGPUと言えると思います。
しかし、消費電力は競合モデルよりもやや多く、電力効率は悪いです。アイドル消費電力も多いため、常に競合モデルよりも数十W多い電力を消費してしまうため、常時PCを付けっぱなしにするタイプの人は注意が必要です。
とはいえ、劇的なデメリットとなるほどではないですし、希望小売価格に見合った金額で販売されれば、次世代のGeForceおよびRadeonが到着するまではミドルレンジGPU市場では強力な存在になりそうなGPUです。
といった感じで、本記事は以上になります。ご覧いただきありがとうございました。