CPUクーラーの冷却性能について【2021年9月版】

意外と見掛けない気がしたので、2021年9月時点の主要なCPUクーラーの冷却性能についてざっくりまとめてみました。

各種比較

冷却性能比較(CPU温度)

条件・環境

室温は22℃で、テストシステムはCPUに「Core i7-8700K」、PCケースに「Thermaltake Core P3」が使用されています。CPUは古い世代のものでわかりにくいですが、現在の主要CPUでいうと「Core i5-11400(F)」と同じくらいの消費電力量となっています(後述)。

PCケースはオープン構造の特殊なものとなっていて、通気性が非常に良くなっています。ただし、一般的なゲーミングPCでは搭載されるリアやフロントのケースファンが無いため、エアフローと冷却性的に良いとは言い切れない部分もあり、物凄く発熱の多いCPUだと冷却効率が多少悪くなる可能性もある気がするケースです。今回のテストでも、OC時に多少その影響が出ている気がしました。

温度

各CPUクーラーを使用した際のCPU温度を見てみます。AIDA64というベンチマークソフトを使用した際のものです。通常設定での高負荷時のものと、OC時のものの二つを見ていきます。使用されたCPUの「Core i7-8700K」は現在のハイエンドCPUと比べると消費電力や発熱が少なめなので、現在の主要なハイエンドCPUを想定するならOC時のものが近いと思います。また、CPUクーラー名の下に使用されているファンのサイズと個数を表記しています。

高負荷時温度(AIDA64 FPU)
GPU名称温度
Corsair H150i Capellix
12cm×3 水冷
57℃
Corsair H115i Platinum
14cm×2 水冷
59℃
Cooler Master ML240P Mirage
12cm×2 水冷
59℃
Enermax LIQMAX III ARGB 360
12cm×3 水冷
60℃
Corsair H100i PRO
12cm×2 水冷
61℃
Deepcool Assassin III
14cm×2 空冷
61℃
サイズ 風魔 弐
12cm×2 空冷
61℃
Deepcool AS500
14cm×1 空冷
61℃
Corsair H150i PRO
12cm×3 水冷
62℃
Noctua NH-D15
14cm×2 空冷
63℃
サイズ 忍者 五
12cm×2 空冷
63℃
Noctua NH-D15S
14cm×1 空冷
64℃
Noctua NH-U12A
12cm×2 空冷
64℃
ID-COOLING SE224 XT ARGB
12cm×1 空冷
64℃
サイズ 大手裏剣 参
12cm×1 空冷
64℃
サイズ 虎徹 Mark II ※予測値
12cm×1 空冷
64℃
Cooler Master Hyper 212X
12cm×1 空冷
66℃

高負荷時温度 OC@4.8Ghz(AIDA64 FPU)
クーラー温度
Corsair H150i Capellix
12cm×3 水冷
74℃
Corsair H115i Platinum
14cm×2 水冷
78℃
Enermax LIQMAX III ARGB 360
12cm×3 水冷
79℃
Corsair H100i PRO
12cm×2 水冷
79℃
Deepcool Assassin III
14cm×2 空冷
79℃
サイズ 風魔 弐
12cm×2 空冷
80℃
Corsair H150i PRO
12cm×3 水冷
80℃
Noctua NH-D15
14cm×2 空冷
81℃
Cooler Master ML240P Mirage
12cm×2 水冷
82℃
Noctua NH-D15S
14cm×1 空冷
82℃
Noctua NH-U12A
12cm×2 空冷
83℃
Deepcool AS500
14cm×1 空冷
83℃
サイズ 忍者 五
12cm×2 空冷
84℃
ID-COOLING SE224 XT ARGB
12cm×1 空冷
86℃
サイズ 大手裏剣 参
12cm×1 空冷
90℃
サイズ 虎徹 Mark II ※予測値
12cm×1 空冷
90℃
Cooler Master Hyper 212X
12cm×1 空冷
91℃

通気性が非常に優れるケースということもありますが、通常設定なら12cmファン×1の空冷でも60℃台前半まで冷やせています。十分な冷却能力です。最近のCPUはTDP65Wでも消費電力および発熱が昔より高いですが、「Core i7-8700K」で60℃台前半まで抑えられるなら大丈夫だと思います。

また、通常設定時には上位クーラーでも大した差がありませんが、これは冷却性能が変わらないのではなく、冷やせているなら無理にファン回転数を上げないのが基本の設定となっているためです。

対してOC時です。後述の電力消費から予測すると、大体「Ryzen 9 5900X」や「Ryzen 9 5950X」と同じくらいの消費電力になっていると思われます。やはり温度が大幅に上昇し、通常設定時にはほとんど差が無かった上位クーラーと下位クーラーとの差も大きくなっています。

12cmファン×1の空冷だと90℃程度になってしまっており、通気性が非常に優れたケースでこれなので、一般的なケースだとかなり厳しい結果になることが予想されます。現在の主要CPUではTDPが100Wを超えるようなものだと、12cm×1空冷では力不足感はやはり否めないということになります。

12cm×2もしくは14cm×1の空冷になると、82℃~84℃と大きく温度が下がります。ケースのエアフローや冷却性能がしっかりしていればもう少し下がると思いますし、一応実用範囲内だと思います(推奨はできないですが)。TDP100Wを超えるCPUでも一応使えないことは無さそうな結果でした。TDP65WクラスのCPUなら余裕を持って冷やせると思うので、出来るだけファン回転数を減らして静音性を高めたい場合には有効な選択肢になるかもしれません。

14cm×2空冷や12cm×2以上の水冷なら、大体80℃以下まで下げることが出来ています。水冷の冷却能力が高いのは有名ですが、実は14cm×2の大型空冷もかなり高い冷却性能を持っており、ハイエンドCPUでも大体のものは冷却が可能です。Ryzen 9やCore i9はもう空冷は厳しいという認識を持っている方も多いと思いますが、意外といけます。サイズが非常に大きいため、水冷よりもケースやメモリの高さに制限があるのが難点ではありますが、できれば空冷が良いという方は検討の価値はあると思います。

CPUの消費電力(発熱)

現在の主要CPUの消費電力をざっと見ていきます。大体の発熱量の目安にすることができます。今回上述の温度テストで使用されていたのは「Core i7-8700K」なので、そこと比較して現在の主要CPUで必要なクーラーがある程度見えてくると思います。

Blender Oepn Data
CPU消費電力(W)
Ryzen 5 5600X
157
Core i7-8700K
今回のテストで使用
177
Core i5-11400
181
Ryzen 7 3700X
182
Ryzen 7 5800X
217
Ryzen 9 5950X
226
Core i7-8700K OC 4.8GHz
今回のテストで使用
230(予測値)
Ryzen 9 5900X
231
Ryzen 9 3950X
238
Core i9-10900K
285
Core i9-11900K
307

現在の主要CPUと比較すると、Core i7-8700Kの通常設定時は「Core i5-11400」、OC時には「Ryzen 9 5900X / 5950X」に近い消費電力となっています。発熱も概ね同じレベルとなっているはずです。

多くの人が気になるのはやはり「12cm×1の空冷クーラー(虎徹とか)はどこまで通用するのか」という部分だと思います。上述のテスト結果を見るに、消費電力が180W程度のCPUなら60℃台中盤と、やや余裕を持って冷却が出来ています。しかし、予測値で230W相当のOC時には90℃程度まで上昇して一気に厳しくなっていました。これらを考慮して、70℃台まで許容するならざっくり200Wぐらいまでが限界という感じになるのかなと思いました。それ以上になると、複数ファンや14cmファンの搭載や水冷が必要になってきます。

特に冷却性能の高い大型のデュアルファン空冷(14cm×2)や水冷(240mm以上)では80℃以下まで冷やすことができており、さすがの冷却性能です。8700KのOC時よりも消費電力の多いCPU(たとえばCore i9末尾K)の場合には、このクラスのクーラーが推奨となると思います。

騒音レベル

静音性についてもざっと見ていきたいと思います。ファンサイズと個数で冷却性能をざっくり評価しましたが、中には静音性を重視したクーラーというのも数多くあるので、静音性も併せて確認することで、より用途にあったクーラーを選択できます。

騒音レベル(PWM100%)
クーラー騒音レベル
サイズ 忍者 五
12cm×2 空冷,84℃
38dBA
サイズ 風魔 弐
12cm×2 空冷,80℃
40dBA
Cooler Master ML240P Mirage
12cm×2 水冷,82℃
42dBA
Noctua NH-D15S
14cm×1 空冷,82℃
42dBA
サイズ 大手裏剣 参
12cm×1 空冷,90℃
42dBA
サイズ 虎徹 Mark II ※予測値
12cm×1 空冷,90℃
43dBA
Cooler Master Hyper 212X
12cm×1 空冷,91℃
43dBA
Corsair H150i PRO
12cm×3 水冷,80℃
43dBA
Noctua NH-D15
14cm×2 空冷,81℃
43dBA
Deepcool AS500
14cm×1 空冷,83℃
44dBA
Noctua NH-U12A
12cm×2 空冷,83℃
45dBA
Enermax LIQMAX III ARGB 360
12cm×3 水冷,79℃
45dBA
Deepcool Assassin III
14cm×2 空冷,79℃
46dBA
ID-COOLING SE224 XT ARGB
12cm×1 空冷,86℃
47dBA
Corsair H115i Platinum
14cm×2 水冷,78℃
50dBA
Corsair H100i PRO
12cm×2 水冷,79℃
53dBA
Corsair H150i Capellix
12cm×3 水冷,74℃
55dBA
※温度は上述の「Core i7-8700K」を4.8GHzでOCした場合のもの。

騒音レベル(PWM25%)
クーラー騒音レベル
サイズ 大手裏剣 参
12cm×1 空冷
33dBA
サイズ 虎徹 Mark II ※予測値
12cm×1 空冷
33dBA
Cooler Master Hyper 212X
12cm×1 空冷
33dBA
サイズ 風魔 弐
12cm×2 空冷
33dBA
Corsair H150i PRO
12cm×3 水冷
33dBA
サイズ 忍者 五
12cm×2 空冷
33dBA
Corsair H100i PRO
12cm×2 水冷
34dBA
Deepcool Assassin III
14cm×2 空冷
34dBA
Noctua NH-D15
14cm×2 空冷
34dBA
Noctua NH-D15S
14cm×1 空冷
34dBA
Noctua NH-U12A
12cm×2 空冷
34dBA
Deepcool AS500
14cm×1 空冷
35dBA
ID-COOLING SE224 XT ARGB
12cm×1 空冷
35dBA
Cooler Master ML240P Mirage
12cm×2 水冷
35dBA
Corsair H115i Platinum
14cm×2 水冷
35dBA
Corsair H150i Capellix
12cm×3 水冷
37dBA
Enermax LIQMAX III ARGB 360
12cm×3 水冷
38dBA

最大風量時には最大で17dBAの差があり、結構大きいです。

ファンサイズが大きくて個数が多くなるほど騒音レベルも高くなる傾向があるものの、各製品によってファンの質や最大風量が異なるため、冷却性能ほどは統一性がありません。事前にレビューなどを見て判断する必要が出てくると思います。

要約

ファンサイズと個数から見た冷却性能

上述の結果から見た、ファンサイズと個数と方式(空冷と水冷)による冷却性能の差をまとめています。ヒートシンクやファン風量など他にも左右する要素はあるので参考程度に見て欲しいですが、凄くざっくりまとめると下記のような傾向が見られます。また、今回のテストでは12cm以上のファン搭載のクーラーのみのテストでしたが、参考までにそれ以下のクーラーも追加しています。

CPUクーラーのファンと冷却性能の高さの傾向(ざっくり)
冷却性能クーラーのファン
120mm×3(360mm水冷)、140mm×2(280mm水冷)
140mm×2(空冷)、120mm×2(240mm水冷)
120mm×2(空冷)、140mm×1(空冷)
120mm×1(空冷)
92mm×1(空冷)、付属クーラー(空冷、Ryzen高性能)
付属クーラー(空冷)

基本的にはファンサイズが大きくて個数が多いほど冷却性能が高くなります。また、似たようなファン構成なら空冷より水冷の方が少し冷却性能が高いです。

CPU毎の対応クーラー

テスト結果と各CPUの消費電力から、現在の主要CPUの大まかなクーラーの対応表を作ってみました。第11世代のCoreシリーズとRyzen 5000シリーズが対象です。一部推測の部分もあるので、参考程度にご覧ください。

CPU毎の対応クーラー表
付属92mm×1(空冷)12cm×1(空冷)
12cm×2(空冷)
14cm×1(空冷)
140mm×2(空冷)
120mm×2(水冷)
120mm×3(水冷)
140mm×2(水冷)
Core i9-11900K(F)
Core i7-11700K(F)
××
Ryzen 9 5950X
Ryzen 9 5900X
Ryzen 7 5800X
×
Core i9-11900(F)
Core i7-11700(F)
×
Ryzen 7 5700G
Core i5-11400(F)
Ryzen 5 5600X
Ryzen 5 5600G

最近のCPUのTDPはアテにならないというのは確かに事実ですが、未だにTDPが65WクラスのCPUなら12cm×1の空冷クーラーで基本対応が可能です。定番の虎徹(3,000円台)でも対応が可能なのは嬉しいですね。

問題なのはTDPが100W超クラスのCPUです。消費電力(発熱)が跳ね上がります。12cm×1空冷では当然力不足な上、12cm×2や14cm×1でも余裕の冷却というほどにならなくなっています。中でも消費電力の多い「Core i9-11900K」などでは厳しいです。

空冷でそれ以上となると、サイズが大きすぎてケースやメモリの制約が大きくなり扱い辛いです。そのため、水冷の方が搭載の敷居は実は低くなります。そのため、BTOを含む最近のハイエンドCPUには水冷が採用されることが多いです。ただし、空冷でも14cm×2のものなら、現在のハイエンドCPUにも対応ができるレベルの冷却性能があります。大きいフルタワーケースを採用の場合で、空冷が良いという人は検討しても良いと思います。

コスパの良いクーラー紹介

最後に、今回のテストでも使われたコスパの良いクーラーを参考までに一部紹介しています。

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12cmデュアルファン&ツインタワークーラー。ファンの厚みが異なっているため、取り付けの際に注意(薄い方が外側)。
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12cmデュアルファンとでっかいヒートシンクを搭載。静音性に非常に優れており、今回のテストクーラーの中ではトップの静音性だった。
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