2021年11月に登場したIntelの第12世代プロセッサー「Alder Lake」によって、初めて消費者向けのDDR5メモリがサポートされました。DDR5メモリはまだ非常に高価で品薄なので導入が難しくはありますが、価格や在庫不足が改善された際にどちらを選ぶのが良いかを確認しておくことは無駄ではありません。
「Alder Lake」はDDR4とDDR5の両方をサポートしており、同じCPUでパフォーマンスの差を確認することができるため、見ていきたいと思います。
デスクトップ用のDDR5 SDRAMが対象です。また、本記事の内容は記事執筆時点(2021年12月21日)のものであり、ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。
掲載当初、遅延の計算に誤りがありました。相対的な差としてはほぼ変わらないものの、数値自体が誤りでした。お詫びして訂正いたします。
DDR5の概要
細かな仕様については割愛しますが、ざっくりと性能面や価格について触れておこうと思います。
- 帯域幅が大幅に拡張され高速にDDR5ではクロックが大幅に向上し、帯域幅が大幅に拡張されます。要するに高速になります。2021年12月現在ではデスクトップ用メモリは「DDR4-3200 PC4-25600」が主流ですが、DDR5では「DDR5-4800 PC4-38400」がまず普及すると見られているので、理論上は帯域幅が1.5倍になります。物凄く高速になります。ただし、これが実際のCPUパフォーマンスに大きく影響するかは別問題で、この後見ていきます。
- 現在は非常に高価(DDR4とGBあたりで約2.7倍)記事執筆時点(2021年12月)では「DDR4-3200」は16GBx2で約13,000円程度から購入することができますが、「DDR5-4800」は同じ16GBx2で約35,000円程度からとなっています。約2.7倍も高価です。
- 標準電圧が1.1Vになり省電力化JEDECの定めた標準電圧は、DDR4は1.2Vなのに対し、DDR5は1.1Vと省電力化が図られています。
- DDR4とは互換性なしDDR5ではDDR4はピン数は同じ288のため使えるようにも見えますが、互換性はないため注意です。ピン配置が異なる上、切り欠けの位置も違うため、スロットに挿入することもできないようになっています。
- レイテンシー(遅延)は少し悪化DDR5メモリは、実はDDR4メモリよりもレイテンシーは少し悪化しています。これはメモリタイミングやCLなどで表記される待ち時間が増加しているためです。帯域幅が大幅に広くなっているため、これによってパフォーマンスが低下することはまず無いですが、帯域幅よりもレイテンシーの方が重要な処理では思ったより差が出ない可能性があります。
DDR5の最大の魅力はやはり帯域幅です。DDR5はJEDEC基準では一応「DDR5-3200」からスタートですが、実際には「DDR5-4800」あたりが当初の普及ラインと見られています。記事執筆時点でのDDR4での主流は「DDR4-3200」なので、1.5倍高速ということになります。非常に大きいです。その差がパフォーマンスに与える影響はここから見ていきます。
DDR5とDDR4のパフォーマンス比較
ここからは実際のパフォーマンスの比較です。テストシステムではCPUは「Core i9-12900K」、GPUに「RTX 2080 Ti」を使用しています。その他については、お手数ですが記事冒頭の参考リンクを参照してください。
一つ注意点として、DDR4ではGear 1(メモリとメモリコントローラーの周波数が1:1のネイティブ)で動作しますが、DDR5ではGear 2(メモリとメモリコントローラーの周波数が2:1)になってしまうため、レイテンシー(遅延)が少し長くなる可能性があります。そのためDDR4とDDR5の性能差を明確に比較できるわけではありませんが、「Alder Lake」がそういう設計なので仕方ないので、ご留意ください。
帯域幅と遅延
メモリ | 帯域幅(GB/s) |
---|---|
DDR5-6400 CL36 | 73.57 |
DDR5-6000 CL36 | 68.90 |
DDR5-5600 CL36 | 65.30 |
DDR5-5200 CL32 | 61.66 |
DDR5-4800 CL40 | 56.10 |
DDR4-4000 CL16 | 47.00 |
DDR4-3600 CL16 | 43.19 |
DDR4-3200 CL15 | 39.26 |
DDR4-3200 CL22 | 38.40 |
DDR4-2133 CL15 | 26.42 |
メモリ | 遅延(ns) |
---|---|
DDR4-4000 CL16 | 8.00 |
DDR4-3600 CL16 | 8.89 |
DDR4-3200 CL15 | 9.38 |
DDR5-6400 CL36 | 11.25 |
DDR5-6000 CL36 | 12.00 |
DDR5-5200 CL32 | 12.31 |
DDR5-5600 CL36 | 12.86 |
DDR4-3200 CL22 | 13.75 |
DDR4-2133 CL15 | 14.06 |
DDR5-4800 CL40 | 16.67 |
帯域幅は増加するけど、遅延は悪化
帯域幅はほぼ理論値通りの向上です。「DDR4-3200 CL22」と「DDR5-4800 CL40」との比較では約46%帯域幅が増えていることがわかります。大きな向上です。その他の比較でも理論値に近い数値が出ています。わずかに届かないのはGear 2による影響もあるかもしれません。
ただし、遅延はDDR4より悪化しています。DDR5は転送レートが向上し帯域幅は広くなりましたが、CLを見ても分かる通り、待ち時間が増えるため、遅延は悪化します。「DDR4-3200 CL22」と「DDR5-4800 CL40」との比較では約21%遅延が増加していることがわかります。
CPUパフォーマンス
CPUのパフォーマンス比較です。一部ではGPUを利用するテストもあります。
メモリ | スコア |
---|---|
DDR5-6400 CL36 | 2491.10 |
DDR5-6000 CL36 | 2443.09 |
DDR5-5600 CL36 | 2431.61 |
DDR5-5200 CL32 | 2404.23 |
DDR5-4800 CL40 | 2368.15 |
DDR4-4000 CL16 | 2253.23 |
DDR4-3600 CL16 | 2223.76 |
DDR4-3200 CL15 | 2174.85 |
DDR4-3200 CL22 | 2077.17 |
DDR4-2133 CL15 | 1996.49 |
メモリ | スコア |
---|---|
DDR5-6000 CL36 | 8647 |
DDR5-5600 CL36 | 8554 |
DDR4-3200 CL15 | 8534 |
DDR5-5200 CL32 | 8509 |
DDR4-4000 CL16 | 8503 |
DDR4-3600 CL16 | 8500 |
DDR5-6400 CL36 | 8479 |
DDR4-3200 CL22 | 8441 |
DDR5-4800 CL40 | 8358 |
DDR4-2133 CL15 | 8313 |
メモリ | スコア |
---|---|
DDR5-5600 CL36 | 27,305 |
DDR4-3600 CL16 | 27,232 |
DDR4-3200 CL22 | 27,213 |
DDR5-6000 CL36 | 27,211 |
DDR5-6400 CL36 | 27,187 |
DDR4-4000 CL16 | 27,173 |
DDR4-3200 CL15 | 27,173 |
DDR5-4800 CL40 | 27,158 |
DDR5-5200 CL32 | 27,140 |
DDR4-2133 CL15 | 27,092 |
メモリ | スコア |
---|---|
DDR5-6400 CL36 | 26.26 |
DDR5-6000 CL36 | 26.67 |
DDR5-5600 CL36 | 27.23 |
DDR5-5200 CL32 | 28.06 |
DDR5-4800 CL40 | 29.22 |
DDR4-4000 CL16 | 35.05 |
DDR4-3600 CL16 | 36.71 |
DDR4-3200 CL15 | 39.41 |
DDR4-3200 CL22 | 40.32 |
DDR4-2133 CL15 | 52.35 |
メモリ | スコア |
---|---|
DDR5-6400 CL36 | 139,023 |
DDR5-6000 CL36 | 135,056 |
DDR5-5600 CL36 | 132,379 |
DDR5-5200 CL32 | 127,744 |
DDR5-4800 CL40 | 121,656 |
DDR4-4000 CL16 | 83,407 |
DDR4-3600 CL16 | 78,230 |
DDR4-3200 CL15 | 70,072 |
DDR4-3200 CL22 | 68,091 |
DDR4-2133 CL15 | 61,972 |
メモリ | スコア |
---|---|
DDR5-6400 CL36 | 149,877 |
DDR5-6000 CL36 | 149,781 |
DDR5-5600 CL36 | 149,091 |
DDR4-3600 CL16 | 148,914 |
DDR5-5200 CL32 | 148,575 |
DDR5-4800 CL40 | 148,509 |
DDR4-4000 CL16 | 148,487 |
DDR4-3200 CL15 | 148,224 |
DDR4-3200 CL22 | 147,181 |
DDR4-2133 CL15 | 145,382 |
メモリ | スコア |
---|---|
DDR4-3200 CL15 | 8121 |
DDR5-6400 CL36 | 8,091 |
DDR5-5200 CL32 | 8,048 |
DDR4-4000 CL16 | 8,035 |
DDR5-6000 CL36 | 8,004 |
DDR5-5600 CL36 | 8,010 |
DDR4-3600 CL16 | 7,990 |
DDR4-3200 CL22 | 7,891 |
DDR5-4800 CL40 | 7,884 |
DDR4-2133 CL15 | 7,402 |
メモリ | スコア |
---|---|
DDR5-6400 CL36 | 14,735 |
DDR5-6000 CL36 | 12,622 |
DDR5-5200 CL32 | 12,550 |
DDR5-5600 CL36 | 12,420 |
DDR5-4800 CL40 | 12,195 |
DDR4-4000 CL16 | 11,531 |
DDR4-3600 CL16 | 11,425 |
DDR4-3200 CL15 | 10,978 |
DDR4-3200 CL22 | 10,922 |
DDR4-2133 CL15 | 10,207 |
メモリ | スコア |
---|---|
DDR5-5600 CL36 | 8,292 |
DDR5-6400 CL36 | 8,265 |
DDR5-4800 CL40 | 8,259 |
DDR5-6000 CL36 | 8,206 |
DDR5-5200 CL32 | 8,164 |
DDR4-3600 CL16 | 8,092 |
DDR4-4000 CL16 | 8,048 |
DDR4-3200 CL15 | 8,025 |
DDR4-3200 CL22 | 7,992 |
DDR4-2133 CL15 | 7,616 |
全てのタスクでDDR5が大きく有利になる訳ではない
DDR5ではDDR4より帯域幅が大幅に拡張されましたが、上記のテスト結果を見ると全てのタスクで有利という訳ではないことがわかります。
特に、一般用途で主流そうな、オフィス、Cinebench(レンダリング)、Adobeの画像・動画編集などでは、概ね3%未満の差という結果でした。そのため、これらの用途で高額な追加費用を出してDDR5を導入することは大きな意味を持ちません。
大きな差が出るのは圧縮(7-Zip)や膨大の量の単純計算(Y-Cruncher)などでした。特に圧縮では7割以上の大きな向上が見られました。一般の人が大量に行うことはあまりない印象の用途が多いですが、該当の用途で頻繁に使用する予定があれば、導入する価値はあると思います。
また、Adobe Lightroomは利用者も多いと思いますが、「DDR4-3200 CL22」よりも「DDR5-4800 CL40」が約11.6%高速とやや優位性があります。頻繁に写真の管理や現像などを行う場合には検討する価値があると思います。
ゲーミング性能
実際にゲームを動作させた際のfps数を見ていきます。今回は7種類のゲームでの平均を見ていきます。
メモリ | 平均fps |
---|---|
DDR5-6000 CL36 | 133.44 |
DDR5-6400 CL36 | 132.74 |
DDR5-5600 CL36 | 132.74 |
DDR5-5200 CL32 | 132.52 |
DDR5-4800 CL40 | 131.75 |
DDR4-3600 CL16 | 130.85 |
DDR4-4000 CL16 | 130.74 |
DDR4-3200 CL15 | 130.17 |
DDR4-3200 CL22 | 129.19 |
DDR4-2133 CL15 | 123.20 |
ゲーミング性能の差はわずか
やや外れ値的な「DDR4-2133」を除き、下から上までの差を見ると約3.3%しかありません。「DDR4-3200 CL22」と「DDR5-4800 CL40」の比較では、その差はわずか約2%となっています。現状非常に高価なDDR5メモリを導入しても、最大で約3%程度しかfps向上が得られないのは微妙です。
要点まとめ
ざっくりと要点をまとめています。
- 大きな恩恵を受けるのは一部の用途に限られるDDR5自体は間違いなくDDR4より大幅に高速ですが、全ての用途で大きな優位性が得られる訳ではないです。主要な一般用途のほとんどではわずかな向上に留まります。
- ゲームでは大きな恩恵を受けないDDR4からDDR5にするとパフォーマンスの向上はありますが、その差はわずかです。次に主流になると思われる「DDR5-4800」と現在主流な「DDR4-3200」を比較してもわずか2%の向上です。「DDR5-6400」と比較しても3.3%に留まります。ゲームでは遅延(レイテンシー)の少なさが重要とよく言われますが、DDR5ではDDR4よりも帯域幅が広くなった反面遅延は少し悪化しているため、その影響かもしれません。現状のDDR5は、よほどコアなゲーマーか、予算に大幅な余裕がある訳でなければ、大きな追加費用を出して購入する価値はあるか微妙だと思います。
- 現在非常に高価なDDR5よりもDDR4の方がコスパは良い2021年12月時点で、「DDR4-3200」と「DDR5-4800」の価格を比較すると、DDR5の方がGBあたりの単価は倍以上高価です。前述のように、DDR5が大きな向上をもたらすのは一部の用途に限られることを考えると、コスパは悪いと言わざるを得ません。一部の用途では大きく優位なのもあるので、自分の用途にそれが含まれているかどうかは確認する価値がありますが、一般的なゲーマーなどは今のところ無理して導入する価値は無さそうに見えます。
- ただし、将来性はある現在の価格と実用性を考慮すると、価格が落ち着くまでは待つのが安定に見えるDDR5です。ただし、これからはDDR5が主流にシフトしていくと思われ、それはDDR4が廃止されていくことも意味します。DDR4にはDDR5との互換性が無いため、今DDR4を購入したとしても再利用することが出来ない可能性があります。対して、DDR5は導入されたばかりということもあって、暫くは最新規格となる可能性が高いです。長期間再利用できる可能性があるため、特に自作ユーザーや自分でパーツを交換を出来るユーザーにとっては魅力的かもしれません。ただし、DDR5はこれからもっと良い製品が出てくる可能性もありますし、現在非常に高価ですから、その点は留意して選択する必要があるとは思います。