PC用のキーボードについてのざっくりとした解説をしています。
キースイッチ
キースイッチとは、キーボードのキー入力を感知する方式のことです。単純にキーの構造と思っても構いません。キースイッチはキーの特性に大きく関わるため、キーボードを選ぶ際には特に重要な項目です。
2020年現在、主要なキースイッチは「メンブレン」「パンタグラフ」「メカニカル」「静電容量無接点方式」の4種類となっています。下記に、それぞれのざっくりとした特徴をまとめています。
価格など
価格(目安) | キー押し戻し | 打鍵耐久性 | |
---|---|---|---|
メンブレン | 500円~5,000円 | ラバードーム | 約1,000万回 |
パンタグラフ | 1,500円~10,000円 | ラバードーム | 約1,000万回 |
メカニカル | 5,000円~20,000円 | バネ | 約5,000万回~約1億回 |
静電容量無接点 | 15,000円~ | バネ | 約3,000万回~約5,000万回 |
メリット・デメリット
主なメリット | 主なデメリット | |
---|---|---|
メンブレン | 非常に安価 液体こぼしに強い |
押下圧が一定でない キーの戻りが遅い |
パンタグラフ | 安価 押下圧が均一 薄型化に適している |
キーが取り外しにくい |
メカニカル | 幅広い性質の製品がある 底打ちが必須でない 打鍵耐久性が高い |
高価 打鍵音が大きい ワイヤレス製品が少ない |
静電容量無接点 | 底打ちが必須でない 押下圧が非常に軽い |
非常に高価 ワイヤレス製品がほぼない |
メンブレン
メンブレン | |
---|---|
価格 | 非常に安価(500円~5,000円程度) |
キー押し戻し | ラバードーム |
キーストローク | 2.5mm~4.0mm |
打鍵耐久性 | 約1,000万回 |
- 非常に安価(500円~5,000円程度)
- 液体こぼしに強い
- 押す位置によって感触や押下圧が変わる
- キーの戻りが遅い
- 打鍵耐久性が低め
「メンブレン」は最も安価なキースイッチです。デスクトップ用のキーボードによく採用されています。
キーを押し戻しに「ラバードーム」を単体で用いているため、感触は「グニッ」といった感じです。また、この「ラバードーム」を単体で使用している事で、「押す位置によって感触が変わる」「キーの戻りが遅い」「打鍵耐久性が低い」等の欠点があります。ただし、液体こぼしには強く、物理的な衝撃にも比較的強いので、経年・継続使用による劣化以外では壊れにくいです。
入力を感知する仕組みは、キーを押し下げる事によって、その下の2枚のシートを接触させるという非常にシンプルなものとなっています。回路を張り巡らせたフィルムを使用した単一シートで全てのキーに対応しています。
パンタグラフ
パンタグラフ | |
---|---|
価格 | 安価(1,500円~10,000円程度) |
キー押し戻し | ラバードーム |
キーストローク | 1.5mm~3.0mm |
打鍵耐久性 | 約1,000万回 |
- 安価(1,500円~10,000円程度)
- 押下圧が均一
- 薄型化に適している
- キーが取り外しにくい
- 打鍵耐久性が低め
「パンタグラフ」は安価で薄型化に適しているキースイッチです。ノートパソコン等のモバイル端末のキーボードによく採用されています。キーストロークが非常に浅いので、タイピングによる指の運動量を減らすと同時に高速入力にも向いています。
キー押し戻しに「ラバードーム」を用いている点とキーを入力を感知する仕組みは「メンブレン」と同じですが、「パンタグラフ」と呼ばれる横から見るとXのような形の支持構造を用いており、名前の由来となっています。この構造のおかげで、キーのどこを押しても押下圧が均一になっています。浅いキーストロークのおかげで、キーの戻りの遅さも軽減されています。
ただし、細くて小さなプラスチック製のパーツを使用しているため、キーの取り外しがしにくいです。雑に外してしまうと、部品の一部が欠けたりして割とすぐ壊れてしまいます。ホコリの除去等をする際には面倒になります。
メカニカル
※画像は「Cherry MX Red」というスイッチ(一例)です。

メカニカル | |
---|---|
価格 | 高価(5,000円~20,000円程度) |
キー押し戻し | バネ |
キーストローク | 3.0mm~4.0mm |
打鍵耐久性 | 約5,000万回~約1億回 |
- 幅広い性質の製品がある
- 底打ちの必要がない
- 打鍵耐久性が高い
- 高価(5000円~20,000円程度)
- 打鍵音が大きい
- ワイヤレス製品が少ない
「メカニカル」スイッチは、使っているパーツ(主に軸)によって性質が大きく変わるキースイッチです。決まった構造を持たず、同じ「メカニカル」スイッチでも様々な性質のものが存在します。ゲーミングキーボードによく採用されています。
共通の特徴としては、「独特の打鍵音」「スイッチを押す様な独特の打鍵感覚」などが挙げられます。また、キー入力を感知するタイミングが、底まで押下された時ではなく、やや浅い部分に設計されています(1.2~2.0mm程度)。そのため、底打ちが必須でありません。慣れると高速入力にも対応でき、指への負担も軽減する事ができます。
メンブレンやパンタグラフと違い、キーの一つ一つに入力を感知する機巧を搭載しているため、製造コストが高いです。当然価格も高価で、2020年現在では1万円台の製品が主流となっています。
メカニカルスイッチは説明項目が多くて短文で説明するのが難しいです。お手数をお掛けしますが、詳しい事は下記の記事等を参照いただければと思います。


静電容量無接点方式

静電容量無接点方式 | |
---|---|
価格 | 非常に高価(17,000円~) |
キー押し戻し | バネ |
キーストローク | ~4.0mm |
打鍵耐久性 | 約3,000万回~約5,000万回 |
- 底打ちの必要がない
- 押下圧が非常に軽い(重いのもある)
- 打鍵耐久性が高い
- 非常に高価
- ワイヤレス製品がほとんどない
「静電容量無接点方式」は物理的な接点無しで入力を感知するキースイッチです。静電容量の変化を読み取り、一定の深さまでキーが押下されると入力されるという仕組みになっています。そのため底打ちが不要で、入力が認識される位置が底よりも浅い位置に設定されています。メカニカルと同様ですね。キーの押し戻しもメカニカルと同じバネを利用しています。物理的な接点を持たないため、キー自体は、ほぼ押されたキーを押し戻すだけの機巧となっています。価格は非常に高価で、安いものでも1万円台後半はするのが基本となっています。
押下圧が非常に軽く、他のキースイッチだと45g~50g程度が一般的なのに対し、30gという軽さのものもあります(小指でタイピングするキーだけ軽くなっていたりもする)。底打ちの必要性も無いので、慣れると高速かつ指への負担も非常に少ないタイピングが可能となります。
ただし、機能性は正直乏しいです。他スイッチの製品では一般的なホットキー(システム設定などを直接操作できるキー)を搭載している製品すら少なく、あってもキーの数を単純に増やして機能を割り当てただけという感じです。見た目が地味です。ワイヤレス製品に至ってはほとんどなく、あっても4万円とかめちゃくちゃ高価となっています。
価格の高さも含めて、一般人が使う汎用キーボードには向かない印象を受けるキースイッチです。仕事で日常的に大量のタイピングを行う方や、こだわりのある方向けだと思います。
その他主要項目
キーストローク
キーを押し込める最大の深さです。おおよそ2.0mm~4.0mmですが、最近ではより高速入力や負担軽減を意識して更に浅いものも増えてきています。以下の様な特徴があります。
ストローク | タイピング速度 | 誤入力のリスク | 指の運動量 |
---|---|---|---|
浅い | 速くなる | 高くなる | 少ない |
深い | 遅くなる | 低くなる | 多い |
キーストロークは浅くても深くても一長一短といったところですが、浅いストロークの欠点である「誤入力のリスク」は慣れで軽減できるということもあり、浅いストロークの方が好まれる傾向があります。
キーピッチ
隣り合ったキー同士の距離(あるキーの中心から隣のキーの中心)です。2020年現在では、ほとんど製品が19mmで統一されています。一部のコンパクトタイプのキーボードでは19mm未満のものもありますが、やや窮屈で打ち辛いです。また、19mm未満のもので慣れてしまうと、一般的なキーボードを使う際に誤差が生まれてミスタイプが増える事が懸念されるので、メインのキーボードは19mmのものにする事をおすすめします。(とはいえ、意識しなくても大体19mmのものになります)
反応点(アクチュエーションポイント)
反応点(アクチュエーションポイント)は、キーがどの程度押下されると入力されるかというのを表します。メンブレンとパンタグラフでは、「キーストローク=反応点」となっていますが、メカニカルと静電容量無接点方式では、キーストロークと反応点が異なります。主に下記のような仕様となっています。
スイッチ | キーストローク | 反応点 |
---|---|---|
メンブレン | 2.5mm~4.0mm | キーストロークと同じ |
パンタグラフ | 1.5mm~3.0mm | キーストロークと同じ |
メカニカル | 3.0mm~4.0mm | 1.0mm~2.0mm |
静電容量 無接点方式 |
~4.0mm | 1.5mm~3.0mm (調節可能なタイプもある) |
反応点とキーストロークが同じだと、底打ちが必須となります。好みの部分だと思いますが、慣れると底打ちの必要がない「メカニカル」「静電容量無接点方式」の方がより素早く入力でき、指への負担軽減も期待できます。
配列
詳しく見ていくと複雑な項目ですが、日本語配列であれば、仮に多少違っても慣れれば困る事はあまりないと思います。また、英語配列でも主要キーのほとんどは他キーでの代用入力などで対応できるので、やや面倒ですが普通に使えます。
ただし、英語配列では「全角/半角」「無変換」「変換」「カタカナ ひらがな」等のキーが存在しない点は要注意です。「全角/半角」キーはショートカットキーで代用する事も可能ですが、その他のキーに関しては代用キーが存在しないので、特に「かな入力」をしたい方は必ず日本配列を選ばなければいけません。
付加機能等
ホットキー

ホットキーとは、特定の機能をキー操作で直接行えるようにしたものです。ミュート(音量0)ボタンや音量調節、動画や音楽の再生や停止を行えるキーなどがよく搭載されますが、製品によって機能も配置も異なるので事前に確認しておきましょう。
テンキー
電卓のようなレイアウトの数値入力用のキー群です。各キー同士の距離が近く、数値入力を速めてくれます。代用キーはありますが、テンキーがあると嬉しいです。
アイソレーション設計

キーとキーの間に、あえて隙間を作ることをアイソレーション設計と呼びます。複数キーを同時に押してしまうタイプミスを減らしてくれます。キーキャップが小さくないと難しい設計なので、「メカニカル」「静電容量無接点方式」のキーボードではほとんど見られません。
ワイヤレス
文字通りワイヤレス機能です。ワイヤレスキーボードだと、配線がすっきりする他、本体の移動が楽になります。ただし、マウスと違ってキーボードは本体を頻繁に動かす事を前提としたものではないので、需要はそこまで大きくありません。
Nキーロールオーバー
〇キーロールオーバーは、ほぼ同時に複数のキーを押したときに押した順番通りに複数のキーを何個まで認識できるかを示す指標です。たとえば、2キーロールオーバーであれば2つのキーの同時入力まで対応しているという感じで、Nキーロールオーバーは任意の数まで認識できるという意味です。ゲーミングキーボードではほぼ全ての製品で実装されている機能です。ちょっと難解にも見える機能ですが、PCゲームは基本的に片方の手でキーボード操作をするので、基本的に5以上あれば困ることはないですし、普通のタイピングでも指は全部10本なので、10キーロールオーバーまで対応していればまず困ることはありません。
アンチゴースト機能
入力していないはずのキーが入力されるのを防ぐ機能です。複数のキーを同時入力した際に入力されていないキーを誤認識する可能性があるため、基本的に上述のNキーロールオーバー機能があるキーボードには実装されています。アンチゴースト100%という記述があれば、複数キー同時入力による誤認識は発生しないという形です。