「RTX 4070」と「RX 7800 XT」どっちが良い?【性能比較】

RTX 4070とRX 7800 XTどっちが良い?

今更感もありますが、「RTX 4070」と「RX 7800 XT」の二つの比較記事です。海外レビューを参考に性能をざっくりと確認していきます。

注意

本記事の情報は記事執筆時点(2024年4月19日)のものです。ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。

はじめに

本記事ではデスクトップ版のGPU「GeForceRTX 4070 12GB」と「Radeon RX 7800 XT 16GB」の二つを比較していきます。

この二つは、どちらとも2023年に登場した高性能GPUです。この二つは重量級ゲームにも対応できる性能を持ちながら、純粋なコスパも悪くなく、「高性能高コスパGPU」として魅力的な二つです。価格帯も8万円前後で近いこともあり、比較してみることにしました。

実際の販売数でいえば「RTX 4070」の方が上なのは間違いないと思いますが、最近では生成AIやVR系のメタバースプラットフォームの流行により「VRAM容量」の重要度が増している印象があり、「RTX 4070」よりも安価かつ16GB VRAMを搭載する「RX 7800 XT」が再評価されていきそうな気配を感じたのも、本比較を行おうと思った大きな要因です。

仕様

まずは主要な仕様を表に載せています。

簡易比較表

RTX 4070RX 7800 XT
参考価格
2024年4月19日時点
¥83,800~
MSRP:599→549ドル
¥78,800~
MSRP:499ドル
プロセスルール5nm? TSMC5nm + 6nm TSMC
(GCD+MCD)
ダイサイズ約295㎟約346㎟
(約200㎟ + 約36.6㎟ × 4)
SP数58883840
RT用コア4660
Tensorコア184
AI Accelerators120
定格/ゲームクロック1920 MHz2124 GHz
ブーストクロック2475 MHz2438 GHz
メモリタイプGDDR6XGDDR6X
メモリ容量12GB16GB
メモリバス幅192bit256bit
メモリ速度21Gbps19.5Gbps
メモリ帯域幅504.2 GB/s800 GB/s
TDP/TGP200W263W
キャッシュL2:36MBL2:4MB
L3:64MB

※価格は2024年4月19日時点での市場最安値価格です(価格.comやAmazon参考)。

細かい性能は後で見ていきますが、その前にカタログスペックから判ることについて、少しだけ触れておこうと思います。

「RX 7800 XT」は16GB VRAMで、将来性に期待できるかも

「RX 7800 XT」の明確かつ大きな優位性は、やはりVRAMです。VRAM容量は「RTX 4070」は12GBですが、「RX 7800 XT」は16GBです。ここが一番気になる差です。

12GBでも、1440p以下の従来のゲーム(ラスタライズ)なら大きなネックとなることはほとんど無かったですが、近年で普及が進むレイトレーシングや生成AIやメタバースプラットフォームなど、将来性のありそうな用途を考えると、軒並み超高負荷でVRAMが非常に重要に見えるというのがポイントです。12GBでも凄く困るという訳ではありませんが、現状でも十分とは言えないGPUに8万円以上を掛けるのは、少し躊躇したくなる人は居ると思います。

また、容量以外のメモリスペックに関しても「RX 7800 XT」の方がやや上、という点も懸念を大きくしていると思います。VRAM帯域は「RTX 4070」が約504GB/s、「RX 7800 XT」が624GB/s となっており、約22.8%上回ります。

更に、キャッシュメモリにも目を向けて見ると、「RTX 4070」はL2キャッシュが36MBで、L3キャッシュを搭載していないのに対し、「RX 7800 XT」はL2キャッシュは4MBしかありませんが、L3キャッシュ(Infinity Cache)を64MBも備えており、L2 + L3キャッシュ容量で見ると、約1.89倍という大きな差があります。

キャッシュメモリの方は非常に低負荷なゲームでない限りは「RTX 4070」でも十分な容量なので、そこまで気にする必要はないかと思いますが、メモリはどの面を切り取ってみても「RX 7800 XT」の方が大きく有利というのが一番気になるところです。

また、価格が5,000円ほど安いのも利点です。

「RTX 4070」は電力面、各ソフトの最適化、レイトレーシングで有利で、現状の弱点が少ないのが魅力

対して「RTX 4070」の優位性は、主に電力面、各ソフトの最適化、レイトレーシング性能です。「RX 7800 XT」よりも優位性のある項目の数が多いのが非常に魅力的です。その弱点の少なさとワットパフォーマンスの良さが強みです。

性能は後で見ていくから置いておくとして、カタログスペックからでもわかる優位性は電力面です。

「RTX 4070」のTGPは200Wとなっており、性能を考えると非常に低く、非常に優れたワットパフォーマンスを持つことがわかります。デュアルファン仕様の製品も多数存在し、小型のケースでも採用しやすいというのも大きなメリットです。

それに対して「RX 7800 XT」は263Wとなっており、「RTX 4070」の200Wから見ると約1.3倍です。単純に電源容量の推奨容量が増えることはもちろん、一応デュアルファン仕様も可能なレベルではあるものの、排熱量は当然増えますし、小型ケースでの採用がやや難しくなっているのもややネックです。また、デュアルファンの際には回転数を高くする必要があるので静音性でも基本やや劣るはずです。

そのため、消費電力・発熱面・物理的な扱い易さという点では「RTX 4070」の方が一段上というのが仕様表の時点でも明白となっています。

ただ、排熱や静音性はある程度対応可能であり、今回の場合(200W台)ならほぼデメリットにならない場合もあります。なので、実質的に決め手となるのはやはり、各ソフトへの最適化(主にCUDA)とレイトレーシング性能です。そのため、RX 7800 XTのメモリに優位性も含め、やはりカタログスペックだけでは具体的な差を感じにくいので、ここから見ていく各種ベンチマーク結果を見て判断することが重要となります。

といった感じで、カタログスペックについてはここまでとして、実際の各性能について下記から見ていきたいと思います。

ゲーミング性能

ゲーミング性能は、言葉の通りゲームをする際のパフォーマンスの性能です。実際にゲームを動作させた際の平均FPS数を見ていきます。今回は25種類のゲームでのデータを基に見ていきます。設定は基本的に最高品質です。

まずは、レイトレーシングやアップスケリーング等は無効の状態での性能、いわゆるラスタライズ性能を見ていきます。

CPUは「Core i9-14900K」で、OSはWindows 11が使用されています。その他のスペックなどの詳細は、お手数ですが記事上部の参考リンクを参照お願いします。


1080p(1920×1080)

フルHD(1920×1080)です。最低限の解像度という感じですが、2024年現在では最も主流な解像度です。ハイエンドGPUを使用していても、特にFPSやTPSでは出来るだけ高いFPSを維持するためにこの設定にするのが主流だと思います。ただし、RTX 4090など最新世代のハイエンドGPUでは低負荷感も大きくなっていたりもします。

平均FPS(1080p 最高設定)
GPU名称平均FPS
RX 7800 XT
144.0
RTX 4070
139.0
参考:TechPowerUp

フルHDでは「RX 7800 XT」が約3.6%とわずかにリード

1080p(フルHD)のラスタライズ性能は「RX 7800 XT」が約3.6%リードしています。性能差はわずかです。1080pでは「RTX 4070」のVRAM性能もネックとなることはほとんどありませんから、ほぼ同等の性能と評して良いのかなと思います。


1440p(2560×1440)

WQHD(2560×1440)です。4Kは重すぎるけど、1080pよりはキレイな映像で楽しみたいという場合や、1080pでは少し性能を持て余してしまう場合に利用する解像度です。現在の主流解像度はフルHD(1080p)ですが、GPU性能が全体的に大幅に向上してきているため、徐々にこの1440pが主流解像度に切り替わっていく気がします。

平均FPS(1440p 最高設定)
GPU名称平均FPS
RX 7800 XT
109.3
RTX 4070
103.5
参考:TechPowerUp

1440pでは「RX 7800 XT」が約5.6%上回り、1080pよりも差が少し広がる

1440pでは差が約5.6%になり、1080pよりも差が少し広がっています。

とはいえ、その差自体はまだ小さいですから、使用感に大きく関わるケースは少ないと思われます。特にVRAM容量を多く使用するゲームでは気になってくるレベルだと思うので注意は必要ですが、ほとんどのゲームでは差は小さいので、決め手とするにはまだ弱い差だと思います。


4K(3840×2160)

「超高解像度の代名詞」ともいえる4K(3840×2160)です。非常に繊細で綺麗な映像になりますが、その負荷の大きさから高いFPSを出す事が難しいため、TPSやFPSなどの対人競技ゲームで利用されることはまずないです。処理性能の要求が高いだけでなく、高リフレッシュレートの4Kモニターが非常に高価ということもあり、2024年現在では競技性の高いゲームではあまり利用されません。フレームレートよりもグラフィックのキレイさや臨場感が重要なゲームを中心に需要のある解像度です。

平均FPS(4K 最高設定)
GPU名称平均FPS
RX 7800 XT
62.3
RTX 4070
58.6
参考:TechPowerUp

4Kでは「RX 7800 XT」が約6.3%がリードで、思ったよりも差が無かった

4Kでの差は約6.3%で、思ったよりも差が開いていませんでした。1080pと比較しても差は2.7%しか広がっていません。

VRAM使用量が多いと思われる4Kゲームでは12GB VRAMがもう少しネックになるものだと思っていましたが、平均ではその差はまだ小さいと言えるレベルでした。

シミュレーション系のゲームに多い、リアルタイムオブジェクトが増えるごとにVRAM容量が分かり易く増えていくような類のゲームを想定しない限りは、4Kにおいても大きな差ではなさそうです。

ただし、価格自体は「RX 7800 XT」の方が約5,000円安い上、1440p以上では6%前後の優位性もあるということで、ラスタライズにおけるコスパは全体的に「RX 7800 XT」の方が少し優れていることが伺えます。

レイトレーシング性能

レイトレーシング性能

レイトレーシング性能を見ていきます。レイトレーシングはメインコアと別のレイトレーシング用のコアも使用するため、上述のラスタライズ性能とやや差が出る可能性があります。今回は10種類のゲームでのデータを基に見ていきます。

レイトレーシングFPS(1080p 幾何平均)
GPU名称平均FPS
RTX 4070
91.9
RX 7800 XT
75.4
参考:TechPowerUp

レイトレーシングFPS(1440p 幾何平均)
GPU名称平均FPS
RTX 4070
66.7
RX 7800 XT
54.9
参考:TechPowerUp

レイトレーシングFPS(4K 幾何平均)
GPU名称平均FPS
RTX 4070
30.2
RX 7800 XT
30.1
参考:TechPowerUp

レイトレーシングでは「RTX 4070」が1440p以下で約22%有利

レイトレーシング性能は「RTX 4070」が大幅に有利です。1080pで約21.9%、1440pでも約21.5%も上回っています。同価格帯のGPUの差としては大きいので、レイトレーシングを日常的に使いたいなら「RTX 4070」が圧倒的に有利です。

しかし、興味深いのは、4Kでは平均のfpsが「RX 7800 XT」と同等まで落ちている点です。4Kでは「RTX 4070」のVRAM(12GB)が不足してfpsが激減するタイトルが散見されるようになり、差が一気に縮まっています。

ただし、平均fpsが同じだから同等の性能、かというとそうでもなく、4Kでもfps有利のタイトルの数は「RTX 4070」の方が多いというのは注意です。VRAMが12GBでも大きくしないケースにおいては、まだ「RTX 4070」が有利を保ちます。

一応、4Kにおいては「RX 7800 XT」の方が安定して稼働はしてくれるという一つの結果ではありますが、4Kレイトレーシングは実用する人がほぼ居ないであろう設定なので、そこだけ有利というのは、考慮はする価値があるかは微妙な所だと思います。

特にVRAM使用量が多いゲームではこのようにネックとなる可能性があることは留意しておいても良いかもしれませんが、基本的にレイトレーシングは「RTX 4070」が大幅に有利という認識で良いと思います。

電力関連

消費電力

ゲームプレイ時(高負荷時)の平均消費電力を見ていきます。低い方が良い数値となります。解像度は「2560×1440」、設定は最高品質(ウルトラ)で、レイトレーシング(DXR)での測定も混在しています。

GPU平均消費電力(ゲーミング)
GPU名称消費電力
RTX 4070
190W
RX 7800 XT
250W
参考:Tom’s Hardware

消費電力は「RTX 4070」が60Wも少ない200W以下

ゲーム時の消費電力は「RTX 4070」の方が60W(-24%)と大幅に少ない190Wです。

「RX 7800 XT」の250Wだとやはりデュアルファン運用で少し不安が出来ますし、単純に電源容量も少し多いものが要求されるため、扱い易さとしては「RTX 4070」が上となっています。

また、余談ですが、実はプロセス面を考えると、この結果はある程度予測できたものだったりもします。「RTX 4070」が5nmと言われている上にモノシリックダイなのに対し、「RX 7800 XT」は5nm+6nmのチップレット設計です。微細化でもわずかながら遅れている他、RX 7800 XTはモノシリックダイよりも消費電力が若干多いと言われているチップレット設計なので、そこも影響が出ているかもしれません。

ワットパフォーマンス

ワットパフォーマンス(電力効率)を見ていきます。

ワットパフォーマンス(ラスター/1440p ultra)
GPU名称1Wあたりのfps
RTX 4070
0.533
RX 7800 XT
0.421
参考:Tom’s Hardware

ワットパフォーマンス(RT/1440p ultra)
GPU名称1Wあたりのfps
RTX 4070
0.263
RX 7800 XT
0.163
参考:Tom’s Hardware

ワットパフォーマンスも「RTX 4070」が大幅有利

ワットパフォーマンスも「RTX 4070 」が大幅に有利です。消費電力の差が大きかったので、当たり前といえば当たり前の結果です。

1440pに焦点を当てた場合、ラスタライズでは約26.6%、レイトレーシング時には約61.3%上回っているという結果が出ています。

ラスタライズの差も大きいですが、特にレイトレーシング時の差は60%以上で非常に大きいです。レイトレーシング利用に重点を置きたい場合には「RTX 4070」が圧倒的に有利となるのは覚えておいて損は無いかなと思います。

コストパフォーマンス

上述のfpsを基にGPUの1フレームあたりの価格を算出し、コストパフォーマンスを比較しています。数値が低い方が良い点に注意です。各GPUの価格は、記事執筆時点のおおよその市場最安値価格です。ラスタライズとレイトレーシング時の両方を見ていきます。

元のゲーミング性能の解像度は1440pを用いています。4Kなどではやや結果が異なる可能性がある点に注意です。


1フレームあたりの価格(ラスタライズ)

まずはラスタライズ性能のコスパです。上述の1440pゲーム時の性能と現在の市場価格を基に、1フレームあたりの価格を算出し、コスパとして比較しています。

1fあたりの価格(1440p@RT無し)
GPU名称1フレームあたりの価格価格
RX 7800 XT
¥721
¥78,800
RTX 4070
¥810
¥83,800
参考:TechPowerUp

ラスター性能コスパは「RX 7800 XT」がやや有利

ラスタライズにおける1fあたりの本体価格(コスパ)は、「RX 7800 XT」が約11%有利です。性能だけで見ると5%台の差でしたが、価格の安さも含めたコスパで比較すると、小さくはない差になっています。

とはいえ、他の利点が少しあれば、妥協するのに抵抗はない程度の差だと思います。

一応、重量級ゲームやオブジェクトが増えていく系ゲームへの対応力は16GB VRAMを搭載する「RX 7800 XT」の方が高いですし、レイトレーシングにおいても16GB VRAMのおかげで動作自体は安定しているので、4Kやリアルタイムオブジェクトを多数配置するソフト等でも安定して動いて欲しいという場合には、「RX 7800 XT」は魅力的かなと思います。


1フレームあたりの価格(レイトレーシング)

次にレイトレーシング時のコスパを見ていきます。DLSSやFSR等のアップスケーリング技術は使用していない場合のものになります。

1fあたりの価格(1440p@RT)
GPU名称1フレームあたりの価格価格
RTX 4070
¥1,256
¥83,800
RX 7800 XT
¥1,435
¥78,800
参考:TechPowerUp

コスパもレイトレーシングでは「RTX 4070」がやや有利

レイトレーシングコスパでは立場が逆転し、「RTX 4070」が約12.5%有利となります。小さくはない差ですが、価格の安さのおかげで、思ったよりは差が開かなかったという印象です。

fメイン用途じゃないなら妥協は出来る程度の差ではあると思います。ただ、fps自体が1440p以下で「RTX 4070」の方が2割も有利なので、よほど他で魅力を感じる部分が無い限り、レイトレーシングを用途に加えたいなら「RTX 4070」の方が良いと思います。

クリエイティブ用途

クリエイティブ用途でのパフォーマンスを見ていきます。

一般的な動画編集等の基準性能としてFP32(単精度浮動小数点演算)の理論演算性能、「Blender」におけるGPUレンダリング性能、「SPECviewperf 2020 v3」によるOpenGL性能、AIイラスト生成ソフト「Stable Diffusion」の性能をそれぞれ見ていきたいと思います。

理論演算性能(FP32)

FP32(単精度浮動小数点演算)は、理論演算性能を示す一つの指標です。単位はTFLOPS(テラフロップス)を用います。実際のテストから算出するものではなく、シェーダーユニット数(対応の演算器の数)とクロックから計算した、理論上の処理性能を表します。製品によってクロックが異なるので、下記の表の数値と異なる可能性がある点に注意です。

一般的な動画編集においてのクリエイティブ性能は、このFP32とVRAMの性能(データ量が多い処理の場合)によって比例する傾向があります。実際「Premiere Pro CC」や「Davinci Resolve」などの主要な動画編集ソフトでの編集やプレビュー速度はある程度比例する傾向があるので、まず参考に見ていこうと思います(完全に一致する訳ではないので注意)。

FP32(単精度浮動小数点演算)
GPU名称FP32(TFLOPS)
RX 7800 XT
16GB 624GB/s
37.32
RTX 4070
12GB 504GB/s
29.15

理論性能は「RX 7800 XT」が大きく有利だけど、参考程度に

FP32では「RX 7800 XT」が約28%上回っており、大きく有利です。

ただ、結局この数値がそのまま活きることはあまりなく、GPUやソフト側の最適化などの方が影響が大きいので、参考程度に見てください。

Stable Diffusion(AIイラスト生成)

現在のAIイラストソフトで人気な「Stable Diffusion」を用いて、AIイラストの生成時間を比較しています。よく利用されるAIイラスト生成ソフトは他にもありますが「Stable Diffusion」が恐らくは一番定番と言えるものだと思います。

各GPUで「768×768の20枚の画像を生成するのに掛かる時間」を測定し、1分あたり何枚の画像を生成できるかを各GPUで算出して比較しています。Web UI「Automatic 1111」が使用されていますが、通常ではCUDA(NVIDIA製GPU)のみの対応なので、Intel GPUではOpenVINO、AMD GPUではDirectMLフォークを適用して実行されています。

Stable Diffusion(768×768)
GPU名称1分あたりの生成枚数
RTX 4070
12.861
RX 7800 XT
7.031
参考:Tom’s Hardware

AIイラスト生成は「RTX 4070」の方が圧倒的高速(約1.83倍)

Stable Diffusion の768×768におけるイラスト生成速度は、「RTX 4070」が約82.9%も上回っており、圧倒的に高速です。「RTX 4070」が4~5秒で1枚生成するのに対し、「RX 7800 XT」では7~9秒掛かることになります。

GeForce(CUDA)を前提として作られているので仕方ありませんが、最近では特に注目度の高い用途だと思うので、そこでこの差は致命的にも思えます。言うまでもなく、現状ですぐにAIイラストをしっかり楽しみたい方は「GeForce」一択です。

ただ、実はこれでも「RX 7800 XT」の登場時からは大分差が縮まっていたりはします(登場時は3倍近い差があった)。改善は進んでいますし、表からは省いていますが、コスパの良いAIイラスト用のGPUとして定番の「RTX 3060 12GB」よりは今では若干高い性能を発揮するようになったので、使えない訳ではありません。

768×768を超える解像度ではVRAMが12GBだと少し怪しくなってくるところではありますし、現状は興味なくてすぐには手を出さないという方で、他の用途で16GB VRAMの恩恵を大きく受けれる場合は、「RX 7800 XT」も一応ナシではない…と思います。

Blender(3DのGPUレンダリング)

「Blender」は人気のある定番のレンダリングソフトです。「Blender 3.6.0」を用いた「Blender Benchmark」の3つのテスト結果の幾何平均を総合スコアとし、比較していきます。

「Blender 3.6.0」では、AMD、NVIDIA、Intel Arc GPUでレイトレーシングを使用するCycles Xエンジンが含まれているため、レイトレーシング性能も重要となります。しかし、どうやら「Blender 3.6.0」ではレイトレーシング用のコアを直接使用するのではなく、メインのGPUシェーダーを介しての処理となるようです。そのため、RTコアではなくメインのGPUコア(CUDAコア)でレイトレーシングを高速化できるエンジンの「Optix」を持つGeForceに現状では優位性があります。

Blender Benchmarks(3.6.0)
GPU名称総合スコア(幾何平均)
RTX 4070
1943.2
RX 7800 XT
752.6
参考:Tom’s Hardware

Blenderも「RTX 4070」が圧倒的有利(約2.58倍)

Blenderも「RTX 4070」が圧倒的に有利です。約158.2%という物凄く大きい差がついています。さすがに差が大きすぎるので、やはりBlenderにおけるレンダリングでも「GeForce」一択です。

Stable Diffusionと違い、前世代のミドルレンジGPUにすら負けている有様なので、現状では擁護のしようもありません。

現状は処理の仕組みがGeForce有利に働いているので仕方がありませんが、この劇的な差が今後も維持されるかは、各GPUメーカーのドライバなどによる改善や、ソフト側の最適化によります。とはいえ、少なくとも現状Blenderでのレンダリングを想定するならGeForce一択というのは覚えておくと良いかもしれません

SPECviewperf 2020 v3(OpenGL)

「SPECviewperf 2020 v3」はOpenGL性能を測るベンチマークです。OpenGLはクロスプラットフォームに対応した汎用型のグラフィックスライブラリとなっており、ゲームだけでなく幅広い分野で利用されています。

今回見るのは「SPECviewperf 2020 v3」の8つのテストの総合スコア(幾何平均)です。ただし、一般的にはテストに使用される処理全てを利用する人はほぼ居ないと思うため、自分が使用するアプリケーションで使用される処理について確認することが重要な点は留意しておきましょう。今回は総合的な性能で相対的な差を求めるために、幾何平均による総合スコアを用いています。

SPECviewperf 2020 v3
GPU名称総合スコア(幾何平均)
RX 7800 XT
129.15
RTX 4070
66.71
参考:Tom’s Hardware

OpenGLでは「RX 7800 XT」が圧倒的有利(約1.94倍)

GeForceではOpenGL性能に強い制限が掛けられているため、Radeonが圧倒的に有利です。同社のプロフェッショナル向けGPUの需要を維持するための調整となっています。

Radeonでも同様にプロフェッショナル向けのGPUがあり、ゲーム向けGPUでは制限が掛けられていますが、その制限がGeForceよりは緩いです。そのため、ゲーム向けGPU同士の比較だとRadeonの方が明らかに良く見えるという状況になっています。

「RX 7800 XT」の方が約93.6%上回る結果となっています。しかも、GeForceでは一部の処理では極端に低いパフォーマンスだったりすることもあるので、OpenGLを重視するなら「Radeon」一択です。

ただし、現状の消費者の用途として、OpenGLで開発者がするような様々な処理を行うことは恐らく稀なのに対し、前述のAIイラスト生成やBlenderの方は今では結構ポピュラーな用途だと思うのが、Radeonには厳しい現状だと思います。一応は得意不得意が分かれているものの、消費者目線では、ほぼGeForce一択レベルの内容になっていると思います。

その他【データでは比較しにくい系】

最後にデータでは比較しにくい部分についても少し触れておこうと思います。

アップスケーリング等:質はDLSS(GeForce)の評判が良いけど、手軽さと対応範囲はRadeon有利

主にfpsを向上させる技術についてです。目指すところは同じですが、アプローチの仕方や最終的な画質に差があるため、単純比較が難しい部分です。

それに、そもそも今回の二つのGPUはアップスケーリング等がなくても十分に使える高性能なGPUということもあるので、参考程度に見てください。

フレームを向上させる技術は、NVIDIAとAMDがそれぞれが開発して導入しています。NVIDIA(GeForce)ではAI処理用のTensorコアを用いた「DLSS」というアップスケーリング機能があるのに対し、AMD(Radeon)は「FSR」というアップスケーリング機能を用意している他、最近ではフレーム生成機能である「AFMF」によるfps向上も注目となっています。

まず「DLSS」ですが、使用後の画質評価が高く、劣化をほとんど気にせずにfps向上を受けられるのがメリットです。ただし、RTXのTensorコアが必要な上に、ゲーム側の対応も必要なため、常に使える機能ではないというのがデメリットです。

次に「FSR」ですが、こちらはゲーム側の対応は必要ですが、専用コアが必要ないのがメリットです。そのため、GeForceなどの他社製GPUでも利用することが出来ます。しかし、逆にその利点がFSRが強化されてもRadeonだけの利益にならないということになっているので、Radeonとしては優位性としては数えられないのが悲しいところでした。

しかし、2024年1月頃という最近追加された機能で、「AFMF(AMD Fluid Motion Frames)」というものがあり、これが非常に便利なのが注目です。AFMFは中間フレームを生成して挿入することでfpsを向上させる機能です。フレーム生成機能だけならDLSS 3やFSR 3にも含まれている機能なのですが、AFMFの非常に嬉しいポイントはドライバーレベルで動作する機能というところです。

ゲーム側の対応が要らないのはもちろん、その他の設定をいじる必要もなく、ドライバーソフトからオンオフを切り替えるだけで手軽に利用することができます。画質やfps向上率についてはやはりDLSSやFSRには劣るというのはあると思いますが、その導入のしやすさは大きなメリットだと思います。

大人数メタバース系(VRChat、cluster):16GB VRAMが凄く活きそう

正直自分は利用している訳ではないのですが、利用者数を見ると思ったよりもかなり多くてびっくりした用途です(ごめんなさい)。

「cluster」は日本最大とされるメタバースプラットフォームで、利用者のほとんどが日本人であると思われますが、2022年1月に同時接続者数の最大が4.2万人を記録したらしいです。日本国内でこの数字はかなり凄いと思います。日本でもメタバースへの関心が非常に高まっていることがわかります。ちなみに、「VRChat」の方は世界的に大きなメタバースです。

そして、本題のGPUとの関連ですが、メタバースは表示される人数が多いほどVRAM使用量が多くなることがポイントです。そのため、16GB VRAMを搭載する「RX 7800 XT」の方が安定動作にはかなり有利だと思います。

「RTX 4070」の12GBでも、大きなネックというほどではないのかもしれませんが、局所的な負荷で重くなるケースが「RX 7800 XT」よりは多発することが考えられるので、ストレスを無くしたいなら16GBあった方が安心だと思います。

性能まとめ【相対的な差を比較】

各種テスト類は以上ですが、ここまでの結果も踏まえて、双方の相対的な差を一覧にした表を作ったので、そちらを見てみましょう。この結果を踏まえて、所感を書いていこうかなと思います。

RTX 4070RX 7800 XT
参考価格 ¥83,800
6% ¥78,800(-¥5,000)
VRAM容量 12GB
33.3% 16GB(+4GB)
1080p
3.6%
1440p
5.6%
4K
6.3%
1080p/RT
21.9%
1440p/RT
21.5%
4K/RT
0.3%
消費電力
-24.0%
電力効率
26.6%
電力効率/RT
61.3%
コスパ(1f/¥)
11.0%
コスパ(1f/¥)/RT
12.5%
Stable Diffusion (768×768)
【イラスト生成AI】
82.9%
SPECviewperf 2020 v3
【OpenGL】
93.6%
Blender 3.6.0
【GPUレンダリング】
158.2%
VRChat、cluster(大人数)
【メタバースプラットフォーム】
アップスケーリング系DLSS
※FSRも利用可能
FSR
(+AFMF)


それぞれの利点(優位性)まとめ

RTX 4070 12GB
  • 1440p以下のレイトレ性能が高い(+21%台)
  • 消費電力が少ない(-60W/-24%)
  • ワットパフォーマンスが非常に高い(ラスター:+26.6%、RT:+61.3%)
  • レイトレコスパが高い(+12.5%)
  • Stable Diffusionのイラスト生成速度が速い(768×768で+82.9%)
  • Blenderのレンダリング速度が速い(+158.2%)
  • DLSSによる質の高いアップスケーリング

RX 7800 XT 16GB
  • 価格が少し安い(-¥5,000)
  • VRAM容量が多い(16GB)
  • ラスター性能が高い(+3.6%~+6.3%)
  • ラスター性能コスパが高い(+11%)
  • OpenGL性能が高い(+93.6%)
  • メタバースプラットフォーム(大人数)での安定性が高い
  • AFMFによる手軽なフレーム生成

結論:大体の人は「RTX 4070」が無難。「RX 7800 XT」も用途によっては一応強力だが、基本16GBの将来性に期待して待つ形

やはり無難なのは「RTX 4070」

結果を一通り見たところで思うのは、やはり「RTX 4070」の方が無難に見えるということです。

少なくとも現状は、「RX 7800 XT」は「RTX 4070」よりも大きく劣る用途が多いのがやはり気になります。特に、最近注目度の高い「Stable Diffusion」と「レイトレーシング」という点において大きく劣るのが致命的に感じる部分です。

また、Blenderについても一般の利用者は多くないとは思うものの、「RTX 4070」の方が2.5倍以上高い性能を出すなど、話にならないほどの圧倒的な差を見せつける部分があるのもRadeonを選びにくい情報です。

その上で、電力面の扱い易さとワットパフォーマンスにおいても「RTX 4070」の方が一段上ですから、全体的な評価をすると間違いなく「RTX 4070」の方が失敗を感じる可能性は低く、無難な選択肢と言えると思います。

基本性能(ラスタライズ)においても、「RX 7800 XT」の方が3DMarkでは20%ほど上回っているのですが、実際のゲーム性能では平均では3.6%~6.3%程度と小さかったのも、その無難さを決定付ける要因になっていると思います。

当初の懸念だったVRAMについてですが、12GBでも少ないという訳ではなく、1080p(フルHD)ならほぼネックになりませんし、1440pでもほとんどのケースにおいては大きな影響が無いことがテスト結果から読み取れました。4Kレイトレや、大人数のメタバースなどを想定した場合にはやや不安があるため、VRAM使用量が非常に重要な一部の用途では気を付ける必要はあるものの、12GBでも少なくはない容量ですから対応はできないことは基本ないので、現状でそのような用途で使う予定が無い人が重要視するほどでもないかなと思いました。

Stable Diffusionについても、少なくとも768×768では不足している印象が無かったのも大きいかと思います。高い買い物をする場合には弱点が少ないものを選びたいと思うので、用途が明確化されていないなら「RTX 4070」が安心だと思います。

「RX 7800 XT」は不利な用途が多く、その差が大きいのが致命的。将来性に期待して待つならアリ

「RX 7800 XT」は「RTX 4070」に不利な用途が多いのが厳しい上、その差が軒並み大きいというのが致命的に感じるところです。

1440p以下のレイトレで21%の不利電力面で25%前後の不利(レイトレでは更に広がる)、Stable Diffusion(768×768)で1.83倍差Blenderのレンダリングで2.58倍差などです。

強みのラスター性能では基本10%以下という、思ったよりも小さな優位性なのに、負けている項目の差がとにかく大きいです。

一応、VRAMが16GBという要素は強みであり、メタバース(大人数)やシミュレーション系のリアルタイムオブジェクトを多数表示する系のソフトであれば明確な優位性を得ることが可能なので、その用途を重視するのであれば強力なので覚えておいて良いとは思いますが、そこ以外では現状は厳しめ。4Kでも思ったより差がつかなかったのも地味大きかったかもしれません。

ただ、一応擁護しておくと、レイトレーシング以外の処理性能に関しては、「RX 7800 XT(Radeon)」自体の問題というよりは、ソフト側の最適化で不利を被っている部分が大きいです。そのため、最適化に関わる面は今後は改善される可能性が0ではありません。

FP32の理論性能やラスター性能を見ても分かる通り、本来の基本性能は「RTX 4070」を上回っているはずなので、ちゃんと改善が進めば不利ではなくなる可能性も無くはないです。

実際、Stable Diffusionでも登場直後よりはかなり差は縮んでいますし、VRAM性能と基本性能では上回るRadeonの方が本当はコスパが良いはずということで、「ROCm」というCUDAとの差が比較的少ない方法の一般利用を進める動きも見られます。

また、AIでは弱いと思われているRadeonですが、実はAI用のコア「AI Accelerators」は搭載されており、GeForceとの差を埋めるための布石は実は既に進められています。

将来性を期待はできる要素自体は揃っているので、現状で「GeForce」が大きく有利な用途を重視している訳でないなら、選んで待ってみるのもアリかなとも思います。確実ではないので、おすすめはできないですが…。


といった感じで、本記事は以上になります。ご覧いただきありがとうございました。

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