やや中途半端な時期に登場したRyzen 3000XTシリーズ「Ryzen 5 3600XT」「Ryzen 7 3800XT」「Ryzen 9 3900XT」をさくっと確認していきます。先に言ってしまうと、ほぼ既存のモデルのブーストクロックが僅かに向上しただけのCPUです。なのであっさりめに見ていきます。
本記事の内容は記事執筆時点(2020年7月14日)のものとなります。ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。
簡易比較表
主要な仕様とベースモデルとの違いをまとめた簡易比較表です。
CPU名 | コア スレッド | 定格 クロック | 最大 クロック | TDP |
---|---|---|---|---|
Ryzen 9 3900XT | 12/24 | 3.8GHz | 4.7GHz | 105W |
Ryzen 9 3900X | 4.6GHz | |||
Ryzen 7 3800XT | 8/16 | 3.9GHz | 4.7GHz | |
Ryzen 7 3800X | 4.5GHz | |||
Ryzen 5 3600XT | 6/12 | 3.8GHz | 4.5GHz | 95W |
Ryzen 5 3600X | 4.4GHz |
CPU | ブースト クロック | 付属クーラー |
---|---|---|
Ryzen 9 3900XT | 4.7 GHz | なし |
Ryzen 9 3900X | 4.6 GHz | Wraith Prism RGB |
Ryzen 7 3800XT | 4.7 GHz | なし |
Ryzen 7 3800X | 4.5 GHz | Wraith Prism RGB |
Ryzen 5 3600XT | 4.5 GHz | Wraith Spire |
Ryzen 5 3600X | 4.4 GHz | Wraith Spire |
ブーストクロックが僅かに上昇
主要な仕様面での違いは、ブーストクロックが僅かに上昇しただけです。3600XTと3900XTは100MHz、3800XTは200MHzの上昇です。おおよそ2%~4%の向上です。定格は変わりません。アーキテクチャやプロセスも同じなので、詳しく見るまでも無く性能向上はごく僅かです。
同梱クーラーなし(3600XT以外)
「Ryzen 7 3800XT」と「Ryzen 9 3900XT」は、ベースモデルでは付属していたクーラーが無くなります。クーラーを同梱していても別売のクーラーが利用されるケースが多かったため、無駄だと判断して無くしたのでしょうか。ただ、BTOショップ等では当然クーラーは付けてくれますし、自作ユーザー等も他クーラーを採用するのが一般的だと思います。なので、消費者的には深く気にするものでもないかもしれません。とはいえ、商品としてのコスパは悪くなりました。
「Ryzen 5 3600XT」では付属クーラーが維持されていますので、別売りクーラー無しでも利用することができます。ただ、3600Xでも性能不足感もあった付属クーラーを、3600Xよりもクロックが上昇した「3600XT」で使うとなると、正直頼りないです。ワンランク上の「Wraith Prism」クーラーへと刷新されていたとしたら「付属クーラーでも冷却が十分な高性能ミドルレンジCPU」として太鼓判を押せたのですが…。
処理性能
各処理性能をベンチマークスコアで見ていきます。
シングルスレッド性能
シングルスレッド性能は、1コアでの処理性能を表します。シングルスレッド性能が高いと、軽い処理に掛かる時間が短くなる(サクサク動く)他、全コア稼働時にも当然影響がありますので、ほぼ全ての処理に対して有利に働きます。
今回は、Cinebench R20というベンチマークソフトで測定された数値で見ていきます。
CPU名称 | スコア |
---|---|
Core i9-10900K | 549 |
Ryzen 9 3900XT | 541 |
Ryzen 9 3950X | 540 |
Ryzen 7 3800XT | 539 |
Ryzen 5 3600XT | 528 |
Ryzen 9 3900X | 518 |
Ryzen 7 3800X | 517 |
Core i7-10700K | 512 |
Ryzen 7 3700X | 510 |
Ryzen 5 3600X | 507 |
Ryzen 3 3300X | 504 |
Ryzen 5 3600 | 487 |
Core i5 10600K | 483 |
約4%の微増
シングルスレッド性能は、3モデル全て約4%程度の向上でした。思ったより大きめの向上ではありました。ただ、微増という事は変わらず、実用性やパフォーマンス的に差を感じられるほどありません。ベンチマーク等でやや良く見えるというだけですね。
メモリーの転送速度が僅かに向上しているのが関係しているようで、どうやらベースモデルより少し質の良いシリコンが使用されている可能性があるっぽいですね。ただ、ベースモデルは発売から日が経ち価格が安くなっています。ベースモデルと同額で新発売のXTモデルが優位性得るための要素としては小さすぎる感が否めないです。
マルチスレッド性能
マルチスレッド性能は、CPUの全コア稼働時の処理性能を表します。マルチスレッド性能が高いと、動画のソフトウェアエンコード(CPUエンコード)やレンダリングなど、膨大な量の処理に掛かる時間が短くなる他、複数タスクでのパフォーマンスが向上するなどのメリットがあります。
今回は、Cinebench R20というベンチマークソフトで測定された数値で見ていきます。
CPU名称 | スコア |
---|---|
Ryzen 9 3950X | 9224 |
Ryzen 9 3900XT | 7265 |
Ryzen 9 3900X | 7235 |
Core i9-10900K | 6420 |
Ryzen 7 3800XT | 5143 |
Ryzen 7 3800X | 5029 |
Core i7-10700K | 4985 |
Ryzen 7 3700X | 4884 |
Ryzen 5 3600XT | 3862 |
Ryzen 5 3600X | 3788 |
Ryzen 5 3600 | 3746 |
Core i5 10600K | 3601 |
Ryzen 3 3300X | 2611 |
誤差レベルの向上
マルチスレッド性能は、3600XTと3800XTが約2%、3900XTが約0.4%という非常に小さい向上率を示しています。誤差レベルです。何も変わっていないと言ってしまっても問題ないくらいの差しかないです。ベースモデルより安くならない限りは、マルチスレッド性能目的でXTを選ぶ必要性はなさそうです。
ゲーミング性能
この項目でのゲーミング性能は、実際にゲームを起動した際の平均FPS数を見ていきます。
今回は、5種類のゲームで測定した平均FPSの数値を見ていきます。使用されたGPUは「GeForce RTX 2080 Ti」です。記事執筆時点では超高性能なハイエンドゲーミングGPUです。単純なゲーミング性能というよりは、ハイエンドGPUに対するボトルネックの影響度を測る側面の方が強いかもしれません。解像度は「1920×1080」で、その他の設定は超高品質(ウルトラ)です。測定に使用されたゲームタイトルやその他の環境は、お手数ですが記事冒頭のリンクからご確認お願いします。
CPU名称 | スコア |
---|---|
Core i9-10900K | 136.4 |
Core i7-10700K | 135.6 |
Core i5 10600K | 133.2 |
Ryzen 9 3900XT | 126.6 |
Ryzen 9 3950X | 126.6 |
Ryzen 7 3800XT | 126.2 |
Ryzen 9 3900X | 126.0 |
Ryzen 7 3800X | 125.8 |
Ryzen 7 3700X | 125.4 |
Ryzen 5 3600XT | 124.6 |
Ryzen 5 3600X | 123.8 |
Ryzen 5 3600 | 122.8 |
Ryzen 3 3300X | 119.6 |
誤差レベルの向上
マルチスレッド性能と同じく、誤差レベルの向上でした。優位性はほぼ皆無です。ベースモデルと一番大きく差が出たのは3600XTですが、それでも約0.6%という微差です。シングルスレッド性能で約4%という思ったよりは大きめの差が出たので、ゲーミング性能も少しは期待したのですが、結果は微妙でした。
まとめ
Ryzen 3000 XTシリーズの「Ryzen 5 3600XT」「Ryzen 7 3800XT」「Ryzen 9 3900XT」の評価をまとめています。ここまで見てきた性能面と、それ以外の点も併せて見ていきます。
- ブーストクロックが僅かに上昇カタログスペックの差はここだけです。ブーストクロックが100MHz~200MHzだけ上昇しています。
- 上位モデルの付属クーラー廃止(3600XTは付属)3900XTと3800XTは付属クーラーがありません。3600XTのみ付属しています。ベースモデルでは全モデル付属していました。
- シングルスレッド性能が約4%向上ブーストクロックが向上し、少し質の良いシリコンが使用されている(多分)ため、シングルスレッド性能は思ったより大きく向上しています。ただし、微差には変わらないので、実用性的には変わらないかなという感じ。
- ベースモデルとほとんど変わらない性能仕様上当たり前ですが、ベースモデルと性能はほとんど変わりません。
- 上位モデルで付属クーラーが無しになった3900XTと3800XTは付属クーラーが無くなりました。元々別売りのクーラーが使用されるケースが多かったと思うので、あまり影響は感じませんが、その分価格が安くなっている訳でも無いので、コスパ的には単純な悪化です。
- 価格の下がったベースモデルに対してコスパで負ける今回評価した3モデルについては、ベースモデルとメーカーの参考価格は同額です。ただ、ベースモデルは発売から日が結構経っているため、少し市場価格が下がっています。付属クーラー削除の面を考慮しても、発売時点のコスパはベースモデルの方が良いです。
ベースモデルより安くならない限りは、あえて選ぶ意味はなさそう
性能的にはベースモデルとほとんど変わらないので、価格がベースモデルより安くならない限りは選ぶ意味は無い気がします。また、記事中では触れませんでしたが、ブーストクロックが上昇した分、僅かですが高負荷時の消費電力や発熱も増えているので、扱いやすさ的にも少しだけ悪くなっています。
ただし、XTシリーズの登場によって、XT以外の第3世代Ryzenの価格が押し下げられる、もしくはXTシリーズがあまりに売れずに、ベースモデルと同額以下になる可能性も無くはないと思います。少なくとも、消費者側が第3世代Ryzenを購入する際に悪い要素とはならないと思うので、そういう面では良いかなと思います。
正直、次世代Ryzenの登場も近くなってきている中、このXTシリーズの投入は謎です。ビジネス戦略的なものかな…という気はしますが、あえて深くは追及しません。
それでは、記事は以上になります。ご覧いただきありがとうございました。
こんにちは、楽しく読ませていただきました。
ZEN3を待ったほうがいいのかなあ。。。10月ぐらいまでは待てますが・・・3700xがいいのかなあ。ZEN3の8コアCCX?はやっぱりレイテンシのてんで魅力でしょうか?^^;
コメントありがとうございます。
Zen3はまだ噂レベルの話しか出ていないので、確かなことは言えないですね…。
「1CCXあたり8コア+L3 32MB」という構成になるという噂は聞きましたが、Zen2の「1CCXあたり4コア+L3 16MB」と比較して、1コアあたりのキャッシュ量は変わらないのでレイテンシ的には変わらないんじゃないかという話も出てたりしますね。ここは正直発売されるまでわからないと思います。
あくまで個人的な推測なので参考までに聞いて欲しいですが、
Zen3は元々が年末年始くらいという噂だった上、新型コロナウィルスの影響も多少あるんじゃないかとも思うので、10月という早期に出る可能性は低い…と思います。
価格が安くなっているRyzen 3000シリーズを今購入するのも悪い選択肢ではないように感じます。
お詳しい””!!ありがとうございます。
そうですね・・・。確かに噂の域を出ませんね。ZEN3は楽しみですが、今年の12月かもしれませんね。やっぱり無難な3700Xに致します。(笑)
また記事楽しみにしています。
ありがとうございました
シングルスレッドが良くなっていたのでゲーミング性能にも影響があるのかなと思っていましたが、そう言うわけでもありませんでしたか。
個人的に3600xtのゲーミング性能に期待していたのですが、ゲーミング性能というIntelの強みは今しばらく続きそうですね。
私も同じことを思っていたので少し残念でした。
少なくとも次世代のRyzenが出るまでは「ゲーミングはIntelの方が強い」は変わらなさそうな気がします。