Intel、「Core Ultra 200S」デスクトップ向けCPUシリーズを発表

Intelが2024年9月11日、デスクトップ向けプロセッサ「Core Ultra 200S(コードネーム:Arrow Lake-S)」を発表しました。2024年9月25日(金)からの発売が予定されています。

その概要についてざっくりと見ていきたいと思います。

注意

本記事の内容は記事執筆時点(2024年9月11日)のものであり、ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。

要点ざっくり

Core Ultra 200Sシリーズ(Arrow Lake-S)の要点
CPUの処理性能は前世代と大差なさそうで、電力面の改善がメイン
発表では前世代の「Core i9-14900K」や「Ryzen 9 9950X」との性能比較が出てきましたが、最大のCPU性能は正直大差はない感じでした。その代わりに電力効率が大幅に改善していることが強調されており、そちらがメインという感じでした。
前世代から電力面が大幅に改善
前世代と比較すると、消費電力が大幅に減り、電力効率が格段に改善していることをIntelは強調しています。発表によると、今回発表された「Core Ultra 9 285K」と前世代の「Core i9-14900K」のゲーム時のシステム消費電力を「RTX 4090」を搭載したPCでの主要なゲームタイトルで比較すると、平均で73Wも減っているとのことです。また、主要なベンチマークテストを実行した際の消費電力も、最大で58%減っているそうです。
CPU単体ではなくシステム全体なので判断が難しいですが、少なくとも前世代より大幅に改善していることは間違いなさそうです。
タイル設計(チップレット設計)
これまでのモノシリック(単一のダイ)ではなく、タイル(チップレット)構造となり、複数のダイから構成されるようになりました。モバイル向けプロセッサでは既に採用されており、それに続きデスクトップ向けでも採用されることになりました。
TSMC N3B(3nm)プロセス採用で、一気に微細化で追いつく
前世代(Raptol Lake)では10nmとなっており、競合のRyzen 7000が5nmする中では微細化面では後れており、実際に電力面では劣っていることが否めませんでしが、Core Ultra 200SシリーズではCPUコア部では「TSMC N3B(3nm)」を採用し、一気に追いつきました。これにより、特に電力面での飛躍的な改善が期待できます。ちなみに、I/OタイルおよびSoCタイルは「TSMC N6(6nm)」、GPUタイルが「TSMC N5P(5nm)」となっています。それらをベースタイル上に載せて構成しています。
コア数および構成は前世代と同じ
コア数は前世代と同じです。K付きモデルでは、Core Ultra 9が24コア(8P+16E)、Core ultra 7が20コア(8P+12E)、Core Ultra 5が14コア(6P+8E)となっています。ただし、プロセス面でかなり進歩しており、同性能でも消費電力や発熱の低減が期待できるので、実質性能は向上していることが期待できます。
価格は前世代と同じかわずかに下
希望小売価格は前世代と同じかわずかに低くなっています。仕様を見る限りはコストが増えていそうなのに、同等以下の価格で出してくれるのは嬉しいです。そのおかげでRyzen 9000の対抗モデルよりも一段安い価格となると思われます。
NPU搭載(最大13TOPS)
モバイル版プロセッサでは当たり前になってきているNPUが、デスクトップ向けでも遂に搭載されます。性能は最大13TOPS(INT8)ということで高性能ではありませんが、対抗のRyzen 9000ではNPUが搭載されていないので、明確な差となります。
GPUはXe 4コア(64EU)で、XMX(AIエンジン)は無し
GPUは「Intel Graphics」となっており、Xeコアが4つ(64EU)です。4MBのL2キャッシュも付属するようです。Fが付くモデルではGPUは非搭載なので注意です。
性能は低いので重い処理は厳しそうですが、前世代のUHD 770は32EUだったので2倍の実行ユニット数となっており、軽いゲームなどへの対応力は高まっています。また、レイトレーシングユニットも1コアにつき1つ搭載されるようです。ただし、性能が低すぎて使い物にはならない気がします。残念ながら、IntelのGPUで搭載例のあるXMX(AIエンジン)の搭載はありませんでした。
PコアのL2キャッシュが1.5倍に
PコアのL2キャッシュが1Pコアあたり3MBとなり、前世代の2MBの1.5倍になりました。プロセスの進化のこともありますし、かなりの効率向上が期待できそうです。また、EコアのL2キャッシュ容量(4Eコアあたり4MB)や最大のL3キャッシュ容量(36MB)は変わりませんでした。
K付きのCore i5が最大消費電力が下がっている
電力設定について、K付きはベース電力は125Wで前世代と同じです。最大ターボ電力もCore Ultra 9/7は250Wと前世代とほぼ同じですが、Core Ultra 5は159Wとなっており、前世代の181Wから少し下がっています。
ソケットはLGA1851へ
ソケットはLGA1700からLGA1851へと変更となります。ただし、パッケージのサイズは維持されるらしく、LGA1700のCPUクーラーもLGA1851で引き続き使用できることが一部のCPUクーラー製造メーカーから明かされています。しかし、ホットスポットが異なるらしく、最大冷却性能が発揮できない可能性も示唆されており、その場合にはオフセットブラケットなどを利用して対応ができるとの話があります。
また、マザーボードについてはIntel 800シリーズチップセットが対応となります。K付きの発表時点ではZ890のみが発表されています。

ラインナップと要点

Core Ultra 200Sシリーズの初発ラインナップは下記のようになっています。従来通りK付きモデルが先に登場します。

プロセッサ価格
1000ロット
CPUGPU電力NPUメモリ
コア
(P+E)
スレッドL2
キャッシュ
L3
キャッシュ
クロック
定格-最大
(GHz)
統合GPUXeコア最大
クロック
(GHz)
PBP
(ベース)
MTP
(最大)
エンジン最大
TOPS
JEDEC
速度
最大
容量
Core Ultra 9 285K589ドル24
(8+16)
3236MB40MB3.7 – 5.7
3.6 – 4.6
Intel Graphics42.0125W250W2x Gen313DDR5
6400
192GB
Core Ultra 7 265K394ドル20
(8+12)
2830MB36MB3.9 – 5.5
3.3 – 4.6
Intel Graphics42.0125W250W2x Gen313DDR5
6400
192GB
Core Ultra 7 265KF379ドル20
(8+12)
2830MB36MB3.9 – 5.5
3.3 – 4.6
125W250W2x Gen313DDR5
6400
192GB
Core Ultra 5 245K309ドル14
(6+8)
2024MB26MB4.2 – 5.2
3.6 – 4.6
Intel Graphics41.9125W159W2x Gen313DDR5
6400
192GB
Core Ultra 5 245KF294ドル14
(6+8)
2024MB26MB4.2 – 5.2
3.6 – 4.6
125W159W2x Gen313DDR5
6400
192GB

最大性能は前世代と大差なさそう

発表では「Core Ultra 9 285K」と、前世代の「Core i9-14900K」や競合の「Ryzen 9 9950X」との性能比較が示されました。

それを見る限り、前世代の「Core i9-14900K」や「Ryzen 9 9950X」との総合的な性能差は正直小さく、大差ないレベルに見えました。

シングルスレッド性能では14900Kに対しては平均で8%、Ryzen 9 9950Xには4%上回り、マルチスレッド性能では14900Kに対しては平均で15%、Ryzen 9 9950Xには13%上回ると主張していました。

少し上回ってはいるものの、大きな差とは言えないですし、このような発表では若干高めの数値で比較されていることも多いので、やはり性能差は大差無しと見るのが妥当かなと思っています。

また、7950X3Dとのゲーム性能比較では平均で若干負けていることを示すグラフが表示されていました。Intelは負けを認めるような内容はそもそも載せないことが多いので、少し驚きました。その隣に、Blenderなどのコンテンツ創作系のアプリでは全体的に上回っていることを示すグラフがあり、総合的には負けてないよと誇示する感じがありましたが、少なくともゲーム性能重視ならRyzenのX3Dがまたしばらくトップになるかもしれません。

電力面は大幅に改善しており、こっちがメイン

性能面の向上は小さい代わりに、電力面は大幅に改善していることが強調して示されており、今回のCPUはどちらかというとそちらがメインという感じでした。

発表を見ると、Core Ultra 9 285Kの生産性アプリケーションでのシステム消費電力は14900Kよりも最大で58%も減っていると示されており、他の結果を見ても大体40%以上減っている結果となっていました。

効率でいうと、14900Kでは250Wが必要となるマルチスレッド性能を、Core Ultra 9 285Kでは半分の125Wで達成できるとしており、消費電力が大幅に減り、効率も飛躍的に向上しているとアピールしていました。

ゲームにおいても、14900Kと比較して主要タイトルで平均で73Wの電力が削減されているとしており、ゲーム時のCPU温度も平均で13℃も下がっているとのことでした。

電力・温度面は前世代で特に課題だった部分ですし、深刻になった不具合問題もそれ関連の可能性が高そうでしたから、そこで大きな改善があることは朗報です。

ただ、性能比較のときはRyzen 9 9950Xとの比較があったのに、温度や消費電力の話になるとRyzen 9000との比較が全く出てこなかったので、Ryzen 9000と比較するとそこまで優位性がある訳ではないのかと邪推してしまいます。

そもそも前世代の「Core i9-14900K」は電力面ではかなり悪いCPUだったので、そこよりも競合モデルとの比較が知りたかったのが本音ですね。

タイル設計への移行

「Core Ultra 200Sシリーズ」では、従来のモノシリック(単一ダイ)から、タイル設計(複数ダイで構成)に移行しました。モバイル版では既に採用されていましたが、デスクトップ版でも採用されることになりました。

タイル設計では役割ごとにチップを分けて小型化することが出来るため、ダイを有効活用でき、採用プロセスもチップごとに分けて効率化できるので、主にコスト面で有力と言われている構造です。

その代わりに、設計が難しいことや消費電力が増えるのがデメリットとして挙げられます。

一長一短と言えますが、少なくともデスクトップ向けのCPUにおいてはわずかな消費電力増よりはコスト面の大幅な改善の方が嬉しいと思うので、進歩と言えると思います。

CPU部分が3nmになり、Ryzenに微細化で一気に追いつく

CPUのアーキテクチャの説明などで見掛ける「3nm」などはプロセスルールを表したもので、配線の幅を示すものです。これが細いほど、複雑な記述が可能になったりトランジスタをたくさん使えたりして良いとされており、特に電力面での恩恵が大きいとされています。

Intelの前世代は10nmで製造されており、競合の「Ryzen 7000」の5nm に対して明らかに後れているのが懸念点でした。しかし、「Core Ultra 200Sシリーズ」ではCPU部分が3nm(TSMC N3B)となり、微細化が一気に進みました。直接の競合である「Ryzen 9000」が4nmなので、わずかにリードしているレベルです。これにより、特に電力効率の飛躍的な向上が期待されます。

ちなみに、他タイルでは別プロセスで製造されており、I/OタイルおよびSoCタイルは「TSMC N6(6nm)」、GPUタイルが「TSMC N5P(5nm)」となっています。それらをIntelが製造するベースタイル上に載せて構成しています。

今まではIntelが自社で製造するプロセスで賄っていましたが、今回からは核の部分はTSMCで統一されています。当初の目標ではIntelの次世代プロセスが採用される予定もあったかと思うので、恐らくは既存プロセスではRyzenに太刀打ちできないのと、自社のプロセスの開発に遅れなどによる苦肉に策のようにも感じますが、消費者側としては嬉しいですね。

コア数と構成は前世代と同じ

K付きのコア数と構成は前世代と全く同じです。Core Ultra 9が24コア(8P+16E)、Core ultra 7が20コア(8P+12E)、Core Ultra 5が14コア(6P+8E)となっています。

アーキテクチャは更新され、Pコアは「Lion Cove」、Eコアは「Skymont」になり、電力面は格段に改善しているようですが、最大性能自体は前世代から大して向上していないようなので、CPUとしての処理性能自体は前世代から大きく印象を変える必要はなさそうです。

先に登場した「Ryzen 9000シリーズ」の前世代からの性能向上率が微妙だったことが記憶に新しいですが、Coreも同じような感じとなりました。

NPU搭載(13TOPS)

「Core Ultra 200S」ではNPUが搭載されます。モバイル版のMeteor Lakeで採用されたのと同様のもので、処理性能は「最大13TOPS」です。K付きではFモデルも含めて全モデルで搭載されるようです。競合の「Ryzen 9000」ではNPUを搭載しないので明確な優位性となっています。

Windowsの「Copilot+」の要件である40TOPSには遠く及ばないものの、Intelの主張によると、Meteor LakeのNPUをアプリで活かせるように努力をしたため13TOPSでも使い道はあるとのことです。実際、AI処理の全て超高負荷という訳でもないでしょうし、低性能なNPUでも使える機能はあると思います。

また、IntelはNPU以外でも、CPUが最大15TOPS、GPUが最大8TOPSのAI処理性能を備えているとし、パッケージ全体で最大36TOPSのAI処理性能があるとしています。

価格は前世代と同じかわずかに安いくらい

価格は前世代と同じかわずかに安いレベルです。下記が発売時の希望小売価格です。

発売時の希望小売価格
Core Ultra 200S(K)Core 14000(K)
Core Ultra 9 / Core i9589ドル
589ドル
564ドル
Core Ultra 7 / Core i7394ドル
379ドル
409ドル
384ドル
Core Ultra 5 / Core i5309ドル
294ドル
319ドル
294ドル
※下の段は末尾F(内蔵GPU非搭載)モデル

タイル設計によるコスト効率の改善があるとはいえ、プロセスは微細化が一気に2~3世代分くらい進んでいますし、NPUの新設やGPUのコア増量もあり、総合的なコストが増えているのは間違いない…と思うのですが、まさかの同額以下を維持という形です。

ハードウェア仕様については事前に予想されていた部分も多いので正直驚くことはなかったですが、価格については良い意味で期待を裏切られました。

競合の「Ryzen 9000」を見てみると、9950Xが949ドル、9900Xが499ドル、9700Xが359ドル、9600Xが279ドルとなっているため、「Core Ultra 200S」の方が一段安いことがわかります。

処理性能自体の向上が小さかったことや、前世代で致命的な設計上の欠陥の問題で不信感が高まっていたことを払拭する一貫なのかもしれませんが、発表内容や価格を見ると「Ryzen 9000」よりはコスパが良さそうで非常に魅力的です。

GPUは実行ユニット数が2倍になるも、AIエンジンの搭載は無し

内蔵GPUはXeコア4つ(64EU)のものが採用されており性能は高くありません。新しいXe2ではないようで、前世代とベースのアーキテクチャは同じもののようです。

ただし、前世代のUHD 770では32EUだったので、実行ユニット数は2倍になっています。軽いゲームへの対応力は高まっています。

残念ながら、Intel GPUで搭載例のあるXMX(AIエンジン)の搭載はありませんでした。

他に、一応レイトレーシングユニットが追加されましたが、性能が低すぎて恐らく使い物にならないと思います。

あとがき

かなり久しぶりな気がする、Intelのデスクトップ向けの新世代CPUです。予想されていた通り、コア数と構成に変更はなく電力面の大幅な改善がメインでした。

性能については全体的に予想の範囲内という感じでしたが、価格が前世代とほぼ同じなのは朗報です。Ryzen 9000より一段安いですし、NPU搭載もあるので、総合コスパでは勝ることになると思います。

タイル設計によるコスト効率の改善を考慮しても、最新鋭プロセスの採用やNPU新設を考えると前世代と同等のコストとは考えにくいので、前世代の不具合で悪くなった消費者の印象を、命名規則の変更のタイミングとも併せて一気に払拭するためにかなり頑張った価格設定にしているのかもしれません。単純に、前世代で使用していたIntel製造プロセスのコスト効率が非常に悪かっただけの可能性も無くはないですが…。

何にせよ、発表内容を見る限りの印象は良いです。Ryzen 9000と同じように性能向上率が微妙だった点は少し残念ですが、ほとんどの人にとってはオーバースペックな性能を伸ばすのをとりあえず諦めて、電力面や実用コスパを重視するのは個人的には凄く良いと思います。

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