AMDが2025年1月7日(日本時間)、CES2025にて「Ryzen 9 9950X3D / Ryzen 9 / 9900X3D」を発表しました。大容量の追加L3キャッシュ「3D V-Cache」搭載でゲーム性能を高めつつも、コアも12~16コア搭載することでマルチスレッド性能を高め、クリエイター向けのアプリケーションでも高い性能を持つハイエンドCPUです。
残念ながら詳細な価格や発売時期については言及されず、2025年第一四半期に発売予定という部分だけ明らかになっています。
概要についてざっくりと見ていきたいと思います。
要点ざっくり
- Ryzen 9 9950X3D(16コア/32スレッド)
- 定格:4.3GHz 最大:5.7GHz
- 合計キャッシュ容量:144MB(16+64+64)
- TDP:170W
- ゲーム性能はRyzen 9 7950X3Dより平均で8%高速(1080p/高設定)
- 生産性テストではRyzen 9 7950X3Dより平均で13%、Core Ultra 9 285Kよりも10%高速
- Ryzen 9 9900X3D(12コア/24スレッド)
- 定格:4.4GHz 最大:5.5GHz
- 合計キャッシュ容量:140MB(12+64+64)
- TDP:120W
- 9950X3D / 9900X3D 共通
- 価格は不明
- 発売は2025年第一四半期予定(1月~3月)
- 3D V-Cacheは一つのCCDで利用
- スケジューラ最適化で、ゲームでは3D V-Cacheキャッシュ搭載CCDを優先するように
- 7000X3Dから3D V-Cahceの位置が改善(7000X3DではCCDの上にあったが、9000X3DではCCDの下になったことでコアの冷却がしやすくなる)
スペックと雑感
「Ryzen 9 9950X3D / 9900X3D」の各種仕様を、既存の「Ryzen 9000シリーズ」と併せて載せています。価格は記事執筆時点(2025年1月7日)のもので、既存モデルはホリデープロモーションの値下げが反映されています(ただし、そのまま常設価格になる可能性も恐らくあり)。
プロセッサ | 市場価格 (希望小売価格) | CPU | TDP | 統合GPU | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
コア | スレッド | L2 キャッシュ | L3 キャッシュ | クロック 定格-最大 (GHz) | デフォ ルト | PPT | GPU | コア | ||
Ryzen 9 9950X3D | ? | 16 | 32 | 16MB | 64MB +64MB | 4.3 – 5.7 | 170W | 230W? | Radeon Graphics (Raphael) | 2 |
Ryzen 9 9950X | 112,800円 (599ドル) | 16 | 32 | 16MB | 64MB | 4.3 – 5.7 | 170W | 230W | Radeon Graphics (Raphael) | 2 |
Ryzen 9 9900X3D | ? | 12 | 24 | 12MB | 64MB +64MB | 4.4 – 5.5 | 120W | 162W? | Radeon Graphics (Raphael) | 2 |
Ryzen 9 9900X | 77,750円 (469ドル) | 12 | 24 | 12MB | 64MB | 4.4 – 5.6 | 120W | 162W | Radeon Graphics (Raphael) | 2 |
Ryzen 7 9800X3D | 88,800円 479ドル | 8 | 16 | 8MB | 32MB +64MB | 4.7 – 5.2 | 120W | 162W | Radeon Graphics (Raphael) | 2 |
Ryzen 7 9700X | 59,800円 (329ドル) | 8 | 16 | 8MB | 32MB | 3.8 – 5.5 | 65W | 88W | Radeon Graphics (Raphael) | 2 |
Ryzen 5 9600X | 44,800円 (249ドル) | 6 | 12 | 6MB | 32MB | 3.9 – 5.4 | 65W | 88W | Radeon Graphics (Raphael) | 2 |
Ryzen 9 9950X3D:9800X3Dとのゲーム性能差とTDP増加が気になる
多くの人が気になるのはやはり16コアの9950X3Dだと思います。
クロックはベースが4.3GHz、最大が5.7GHzとなっており、9950Xと全く同じです。7000X3D(先代モデル)ではベースクロックが元モデルよりも0.3GHzほど低く設定されていましたが、今回の9000X3Dでは同じ数値が設定されています。3D V-Cacheの配置改善により、X3Dモデルでもクロック特性はベースモデルとほぼ同じ水準を維持できるようになった可能性があります。
しかし、その影響なのかデフォルトTDPが先代の120Wから170Wへと増加しているのが懸念点です。X3Dモデルの魅力はゲーム性能の高さだけではなく、多すぎない消費電力と非常に優れたワットパフォーマンスも大きな魅力だったと思うので、そこへの影響が懸念されます。
PC上級者であれば自分でBIOSやユーティリティソフトから調整すれば済む話なので、問題ないと感じるかもしれませんが、特にゲーマー向けのCPUは初期設定のまま使う人が多いと思うので、雑におすすめできるかという観点的には気になるところです。
そして、次に触れる気になるポイントは、Ryzen 7 9800X3Dとのゲーム性能差です。これが最も多くの人が気にしている部分かもしれません。
「Ryzen 7 9800X3D」は現状では文句無しのゲーム最強CPUであり、先代の7800X3Dが7950X3Dを超えるゲーム性能を備えていたことから、9800X3Dもしばらくはゲーム最強CPUとなるであろうと予測されており、発売から非常に人気だったCPUです。
しかし、9800X3Dは8コアCPUなので、マルチスレッド性能が上位CPUに対して圧倒的に劣る上、価格は8万円台後半と非常に高価なので、マルチスレッド面を考慮した場合のコスパが悪いのが弱点でした。
とはいえ、ほとんどの一般ユーザー・ゲーマーにとっては最新の8コアCPUならマルチスレッド性能も十分なので、実用性能的には無視できるレベルの弱点ということで、大きくは気にされておらず、ゲーム性能で単独トップのRyzen 7 9800X3Dが人気となっていました。
しかし、9000X3Dではコアの冷却がしやすくなり、クロックも上げやすくなったことや、スケジューラ最適化によりゲームでは3D V-Cache搭載のCCDを優先的に使用するようになったことなど、9950X3Dと9800X3Dのゲーム性能差が縮まりそうな要素がいくつか追加されており、ゲーム性能が9800X3Dの一人浮きというほどではなくなる可能性が少しあります。
9950X3Dは詳細価格こそ明らかにならなかったものの、さすがに9800X3Dの2倍の価格にはならないと思われるため、もし9950X3Dのゲーム性能が9800X3Dの同等以上だった場合には、9800X3Dが性能ではほぼ下位互換CPUかつ総合コスパでは大きく劣るCPUにもなり得るということで、凄く気になるところです。
9800X3Dの方が大きく安価であるメリットはありますし、ゲーム以外の重い処理をほぼしない人なら変わらず9800X3Dが最適となる可能性も高いとは思いますが、重いマルチスレッド処理やCPUの地位を気にする人の場合には、ゲームメインでも一考の余地が生まれるかもしれません。
一応ベンチマークによる相対性能として、ゲーム性能は7950X3Dより平均8%向上、Core Ultra 9 285Kと比較して平均20%上回るというデータが示されましたが、実はこれ「Ryzen 7 9800X3D」が7800X3Dと285Kと比較された発表時と全く同じ数値となっており、微妙に整合性が取れていない感じがあって参考にしにくいので、この辺りは実製品の発売を待ってから確認したいなと思います。
Ryzen 9 9900X3D:CCD構成と具体的な性能が示されなかった点が懸念点
12コアモデルの「Ryzen 9 9900X3D」です。
クロックは定格が4.4GHz、最大が5.5GHzとなっており、9900Xと比べると最大クロックが0.1GHzだけ低くなっていますが、ほぼ同じ数値です。
TDPが増加した9950X3Dと違い、こちらは120Wのままなのが好印象です。従来通りなら最大消費電力も162Wになると思われますし、コアの冷却もしやすくなるということで、標準設定でも空冷運用が可能な範囲っぽいのが個人的には大きく感じます。
12コアで9800X3Dよりは大幅に高いマルチスレッド性能を持ちつつ、3D V-Cacheによる高いゲーム性能もあり、価格も9950X3Dほどではなく、消費電力もほど良い高さという、何処かに振り切らない上位CPUという印象です。
ただし、9900X3Dで気になるのCCD構成です。9900Xが元になるなら「6コア×2」というCCD構成になると思われ、要するに3D V-Cacheも6コアでのみ利用となる可能性があります。
先代の7950X3Dと7900X3Dの性能差を見ると大きなネックとまではなっていないものの、やはりわずかにゲームで劣る印象はりました。そのため、そこが改善されていないなら、ゲーム特化CPUとしては先代同様に若干地位を下げる可能性があります。
その不安を助長するかのように、発表でも9900X3Dについては具体的なパフォーマンスが示されたなかったのも懸念点です。マルチスレッド性能では9800X3Dは大きく上回るのは間違いないので、そこ込みの総合コスパでは十分に価値があるとは思うものの、ゲームの優先度を下げるならそもそもX3Dじゃなくても良いという話もあるので、9800X3Dや9900Xとの価格差次第で評価が大きく変わるCPUとなりそうです。
Core Ultra 200Sのゲーム性能改善の話もあるし、価格もわからないので、明確な答えは見つからないまま?
正直なところを言うと、発表を見ても発表を見る前の疑問や懸念点の解消にはほとんど繋がらなかったという印象です。
9800X3Dとの性能比較があれば一番良かったですが、そこの公開もなく、価格もわからず、発売時期も明確にはわからないのでは、正直発表を見る前と何も変わっていないなという感じです。
Core Ultra 9 285Kとの性能比較はありましたが、現状ではゲームでは14900K以下ですし、2025年にはゲーム性能がいくらか改善するという話もあるので、今の比較はあまり参考にしない方が良いかなというのが気がしています。
むしろ、悪評のおかげ?でCore Ultra 7 265Kなどは価格が物凄く下がっているため、今後の性能改善次第では全然有力になり得る気もするので、まだ先が読めないCPU市場という感じです。