Intelが「Core Ultra 200V シリーズ」を正式発表。電力効率とAI性能が飛躍的に向上

Intelが2024年9月3日(ドイツ時間)、「Core Ultra 200Vシリーズ(コードーネーム:Lunar Lake)」モバイルプロセッサーを正式発表しました。

Lunar Lakeの概要については既に2024年6月に発表されていましたが、詳細なラインナップと仕様や細かい性能面についても明らかになりました。

既にOEMでは出荷が開始されており、9月24日からグローバルで発売が開始される予定のようです。

今回は「Core Ultra 200Vシリーズ」のラインナップや特徴と性能について、ざっくり見ていきたいと思います。

注意

本記事の内容は記事執筆時点(2024年9月3日)のものであり、ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。

ラインナップと要点

Core Ultra 200V シリーズの初発ラインナップは下記のようになっています。

プロセッサCPUGPU電力NPUメモリ
PコアEコアコア/
スレッド
Pコア最大
クロック
(GHz)
Eコア最大
クロック
(GHz)
LLC
(L3キャッシュ)
統合GPUXeコア最大
クロック
(GHz)
XMX AI
PTOPS
PBP
(ベース)
MTP
(最大)
エンジンAI TOPS速度容量
Core Ultra 9 288V448/85.13.712MBIntel Arc 140V82.056730W
(最小: 17W)
37W6x Gen448LPDDR5X
8533MT/s
32GB
Core Ultra 7 268V448/85.03.712MBIntel Arc 140V82.06617W
(最小: 8W)
37W6x Gen448LPDDR5X
8533MT/s
32GB
Core Ultra 7 266V448/85.03.712MBIntel Arc 140V82.06617W
(最小: 8W)
37W6x Gen448LPDDR5X
8533MT/s
16GB
Core Ultra 7 258V448/84.83.712MBIntel Arc 140V81.956417W
(最小: 8W)
37W6x Gen447LPDDR5X
8533MT/s
32GB
Core Ultra 7 256V448/84.83.712MBIntel Arc 140V81.956417W
(最小: 8W)
37W6x Gen447LPDDR5X
8533MT/s
16GB
Core Ultra 5 238V448/84.73.58MBIntel Arc 130V71.855317W
(最小: 8W)
37W5x Gen440LPDDR5X
8533MT/s
32GB
Core Ultra 5 236V448/84.73.58MBIntel Arc 130V71.855317W
(最小: 8W)
37W5x Gen440LPDDR5X
8533MT/s
16GB
Core Ultra 5 228V448/84.53.58MBIntel Arc 130V71.855317W
(最小: 8W)
37W5x Gen440LPDDR5X
8533MT/s
32GB
Core Ultra 5 226V448/84.53.58MBIntel Arc 130V71.855317W
(最小: 8W)
37W5x Gen440LPDDR5X
8533MT/s
16GB

CPUは全モデル8コア(4P+4E)で、省電力性を重視

まずCPUを見てみると、コア構成は全モデル同じ8コア(4P+4E)です。前世代と違ってPコアのハイパースレッディングが廃止されているので、8コア8スレッドです。

前世代(Meteor Lake)の最上位モデルは16コア22スレッドだったため、コア数もスレッド数も圧倒的に劣ることになり、ぱっと見はかなり弱く見える構成です。

実際、高消費電力時のマルチスレッドパフォーマンスは前世代にやや劣るようです。しかし、Eコアの性能が飛躍的に向上しているため、コア・スレッド数から想像されるほど低パフォーマンスではなく、低消費電力時の性能は前世代よりも向上しているとIntelは主張しています。その性能は普通に高性能です。

Intelとしては、8コアでも一般的な用途であれば十分すぎるパフォーマンスを提供できるので、コアを増やして無駄なマルチスレッド性能を伸ばしてコスト効率まで悪くするよりも、省電力性を重視したという形だと思われます。

また、Core Ultra 7とCore Ultra 5はコア構成は同じですが、クロックとキャッシュがCore Ultra 7の方が若干高く設定されているのが違いとなります。とはいえ、コア構成が同じ省電力SoCなので、恐らくパフォーマンスの差は小さく、実用性に大きな差はないのではないかと思います。

内蔵グラフィック性能は先代から31%向上

内蔵GPUには新しい「Xe2」が採用されており、性能が大幅に向上しています。Core Ultra 7では8コア、Core Ultra 5では7コア搭載となっており、7と5でコア数が1しか変わらないため、性能差も小さめなのもポイントです。

Intelによると「Core Ultra 9 288V」は、先代の「Core Ultra 7 165H」搭載のGPUと比べて、ゲームパフォーマンスが31%向上しています。また、競合の「Ryzen AI 9 HX 370」との比較でも平均16%上回ると主張しています。

そちらのデータを参考に、3DMark Time Spy Graphicsスコアを参考に推定性能を出してみました。ただし、各GPUごとに算出しても数値はぴったり一致はしないので、それぞれの相対値の平均を取ったものとなっています。

3DMark Time Spy Graphics
CPU名称スコア
GeForce RTX 4050
モバイル版
8536
GeForce RTX 3050 4GB
モバイル版
4839
Arc 140V(推定)
Core Ultra 9 288V 等
4309
Radeon 890M
Ryzen AI 9 HX 370
3565
GeForce GTX 1650
モバイル版
3453
Arc 8コア GPU
Core Ultra 7 155H 等
3422
Arc 7コア GPU
Core Ultra 5 125H 等
3117
Radeon 780M
Ryzen 7 8840U 等
2779
Radeon 760M
Ryzen 5 8640U 等
2395
Adreno X1-85 (3.8TFLOPS)
Snapdragon X1E-80-100 等
1705
参考:3DMark

推定のTime Spy Graphicsのスコアは、4000台中盤ほどに到達することになり、GeForce RTX 3050 4GBを少し下回る程度までパフォーマンスが向上していることになります。そうなると、内蔵GPUながら重めのゲームや動画編集にも対応が普通にできるレベルです。

「Core Ultra 9 288V」の場合はGPUのクロックも若干高くなっているため、他モデルだと若干性能が低下することは考慮する必要がありますが、それでも実用性は大して変わらないと思います。

Core Ultra 5だとコア数が8→7となりクロックも若干低下しますが、それでもGeForce GTX 1650を上回るくらいのパフォーマンスは期待できそうなので、競合モデルに対して不利にはなりませんし、重めのゲームなどへの対応も可能です。

薄型・軽量端末で重めのグラフィック処理に対応したい人には非常に魅力的だと思います。

AIパフォーマンスはNPU単体で40TOPS以上となり、GPUにも高性能AIエンジン搭載

AIパフォーマンスの向上も注目です。NPUの性能は、Core Ultra 7で47~48TOPS、Core Ultra 5で40TOPSとなっており、いずれもCopilot+ PCのローカル動作要件を満たしています。

推定11TOPSとされていた先代の「Meteor Lake」と比べると約4倍の性能向上を果たしたことになり、飛躍的な向上です。

ただし、既に登場している「Ryzen AI 300シリーズ(最大50TOPS)」、「Snapdragon X Elite(45TOPS)」に対して優位性がある訳ではなく同等レベルになりました。

しかし、「Core Ultra 200V シリーズ」では内蔵GPUにも高性能なAIエンジン「XMX AI エンジン」が搭載されている点に注目です。その性能は最大67TOPSと非常に高く、Core Ultra 5でも53TOPSとなっています。

CPUとGPUとNPUを含むSoC全体で考えると100TOPSを超えることになります。別々のプロセッサによるAI処理がどのように機能するかはまだわからないものの、総合的なAIパフォーマンスは競合と比べても高いことが推定されます。

更に、Stable Diffisuion 1.5などの一部のAIプログラムでは「Snapdragon X Elite」のGPUでは動作ができないためNPU単体でも優位性があることを強調した他、AMDとQualcommはINT8で上限に達しているのに対し、自社のNPUは高精度のFP16のサポートも維持していることを強調し、AIにおいてはあらゆる面で競合他社よりも優れていると主張しています。

省電力性はArm(Snapdragon X Elite)を上回る

「Core Ultra 200V シリーズ」は省電力性が非常に高いということもIntelは大きく強調しています。

先代まではプロセス微細化の遅れもあり、競合他社よりも劣った電力面が気になるIntelでしたが、

「Core Ultra 200V」ではプロセス微細化も進んだ上に、メモリオンパッケージやハイパースレッディングの廃止、コアの削減、LP Eコアの飛躍的な性能向上などにより、電力効率を重視する形に刷新したことで、格段に電力が削減されました。

CoreやRyzenのようなx86系アーキテクチャは省電力性や電力効率でArmに劣るということが指摘されていましたが、それを払拭するような内容となっています。

Intelが示した競合の3製品のバッテリー寿命を比較した表が下記のような内容になります。

Core Ultra 9 288VSnapdragon X Elite
X1E-78-100
Ryzen AI 9 HX 370
UL Procyon
Office Producivirity
14 時間9.5 時間10.1 時間
Microsoft Teams 3×39.9 時間9.4 時間8.2 時間
※同じOEM、14-16インチシャーシ、1080pディスプレイ、~75Whrバッテリー

端末の細かな仕様の違いなども多少あると思われますが、競合製品よりも優れたバッテリー寿命を実現していることを示しています。

表中ではArmアーキテクチャ採用のSnapdragon X Eliteに対しても優位性があるとしている他、Ryzen AI 9 HX 370にも勝っているということで、x86系で最も優れたバッテリー寿命だと強調していました。

本当のところは実際の製品を待たないとわからなくはありますが、設定を見てみると、

「Core Ultra 200V シリーズ」の主要モデルのベース電力(PBP)は17W(最小8W)、最大ターボ電力(MTP)は37Wとなっているのに対し、

先代(Core Ultra 7 155H等)ではPBPは28W(最小20W)、最大で115Wだったことを考えると、設定だけでも消費電力は大幅に削減されていることは間違いないように見えるので、期待できると思います。

また、ベース電力の17Wも低いですし、最小電力設定が8Wと非常に低くなっているため、ファンレス設計の薄型タブレット等でも従来より採用しやすくなっているのも良い点です。

高負荷時のマルチスレッドパフォーマンスについては「Ryzen AI 300」には大幅に劣ることになりそうな点は留意しておく必要がありますが、ほとんどの一般的な用途において、そこまでの性能はオーバースペックではあると思うので、個人的にはそこを切り捨ててでも電力面を重視したのは良い決断だったかなと思います。

仕様面の要点まとめ

上ではラインナップを基に触れていきましたが、こちらでは「Core Ultra 200V シリーズ(Lunar Lake)」のハードウェア面の仕様についての要点をざっくりまとめています。こちらについては今回の発表よりも前に明かされていた内容がほとんどなので、おさらい的な形です。興味のある方だけご覧ください。

Core Ultra 200Vシリーズ(Lunar Lake)の要点
タイル設計(チップレット設計)
内部構造には変更がありますが、先代の「Meteor Lake」と同様に、「Lunar Lake」も複数のタイルから構成されるタイル設計を採用します。
TSMC 3nmプロセス採用で、一気に微細化でも追いつく
先代では、競合モデルが主要部分に4nm~5nmを採用する中、「Meteor Lake」ではようやく7nmを採用したIntelは微細化面ではやや後れていることが否めませんでしたが、今回はTSMC 3nmを採用し、一気にその差を無くしました。また、前世代(Meteor Lake)ではコンピュートタイル、グラフィックスタイル、I/Oタイルなどを分散し、それぞれ違うプロセスノードで構築されていましたが、「Lunar Lake」ではそれらのほとんどをコンピュートタイルに統合してTSMC 3nmノードで構築しています。これだけでも非常に高い電力効率を期待できる仕様です。また、I/Oタイルに関してはTSMC 6nmとなっています。
メモリをパッケージ上に配置することで、電力を大幅に削減
「Core Ultra 200Vシリーズ」ではパッケージにメモリが統合されます。Appleシリコン(M3など)やSnapdragon Xなどと同じ形式になりました。これによって、今までのマザーボード・ソケットと接続していた場合と比べて、メモリの物理レイヤーによる電力が大幅に削減されるとIntelは主張しています。LPDDR5X-8500、最大32GBがサポートされます。
4P + 4E の合計8コア
「Core Ultra 200Vシリーズ」の初発ラインナップモデルは全て合計8コア(4P + 4E)8スレッドという構成になります(Pコアは高性能コアで、Eコアは低消費電力の効率コア)。それぞれのアーキテクチャ名は、Pコアは「Lion Cove」、Eコアは「Skymont」です。また、Eコアクラスターは、Pコアリングとは別に配置されるので、「Meteor Lake」でいうLP Eコアに似た性質のものとなっており、アイドル時や低負荷な処理の際の消費電力を削減することが期待できます。全体としては、合計コア数は8な上に、Eコア4つ含むということで、今までの仕様を考えるとかなり弱そうにも見えますが、特にEコアの凄まじい性能向上(後述)により、低電力時には「Meteor Lake」以上のパフォーマンスを実現しているようです。
ただし、コア・スレッド数が大きく減少したことは事実であり非常に大きいので、特にハイパースレッディングを維持する「Ryzen AI 300シリーズ」に対して高負荷なマルチスレッド処理時の性能は劣ることになりそうなのは一応留意です。
Pコア:ハイパースレッディングを廃止することでダイ領域・電力削減し・性能を強化
Pコアでは従来採用していたハイパースレッディングテクノロジー(1コアを2スレッドで運用)を廃止しました。これにより物理的な部品を減らすことができるため、ダイ領域と電力を削減し、IPCを含めた性能向上に繋がります。ただし、ハイパースレッディング無しでは1コアが出せるマルチスレッドパフォーマンスは下がりますし、コア数も減ったため、高消費電力時には前世代「Meteor Lake」よりやや劣る性能となるようです。
Eコア:IPCと電力効率が飛躍的に向上(第13世代のPコア以上)
まず「Core Ultra 200Vシリーズ」のEコアは、従来のLP Eコアにあたるものとなっていることがポイントです。Pコアのあるコンピュートタイルとは別にあるため、Pコアとの通信をせずに処理を行うことができるため、優先度の低いタスクや低負荷な処理ではEコアのみで完結するため、電力効率が非常に良くなるとされています。
そして、「Core Ultra 200Vシリーズ」のEコアは、先代のMeteor LakeのLP Eコアと比較して、IPCはFPで平均+68%という驚異的な向上率を主張しています。また、先代の最大性能を3分の1の消費電力で達成でき、同じ電力で1.7倍の性能を発揮するということや、Raptol Cove(第13世代のPコア)に対しても、40%少ない電力で1.2倍の性能を実現していることを示すスライドが公開されていました。Meteor LakeではLP Eコアの性能が低すぎて、Pコアから分離して稼働できてもメリットになり得るケースがほぼ無い事が指摘されていましたが、この性能なら低負荷や優先度の低いタスクをEコアのみで十分に対応できる性能になると思われ、これが飛躍的な電力効率向上に大きく貢献していると思われます。
「Xe2」内蔵GPU:前世代と比較して31%の性能向上。XMX(AI性能:~67TOPS)も搭載
内蔵GPU「Xe2」では、ゲーム性能が「Meteor Lake」のGPU(Xe-LPG)と比較して最大+50%になりました。本当ならモバイル版の「RTX 3050」に匹敵することになる、凄まじい向上です。更に、「Lunar Lake」のGPUでは「XMX」エンジンが搭載される点も大きなポイントです。AI処理にも使用できるXMXは合計で67TOPSの処理性能を備えており、単体でも競合のNPUを大きく上回る性能を持ちます。競合他社は、今のところNPU以外でAIエンジンを搭載していないため、合計AI性能では他社を大きく突き放す要素となっています。
NPU:最大48TOPSで、Copilot+のローカル動作要件をクリア
「Lunar Lake」のNPUは40~48TOPSとなっており、Copilot+ PCのローカル動作の要件(40TOPS)をクリアしました。これは「Meteor Lake(推定12TOPS)」の約4倍という驚異的な向上率です。更に、。

あとがき

開発コードネーム「Lunar Lake」の「Core Ultra 200V シリーズ(Core Ultra シリーズ2)」が遂に正式発表となりました。GPU、AI性能、電力効率の大きな向上が目玉です。

アーキテクチャや設計の概要、大まかな性能については少し前に明らかにされていたので、その点では目新しいことはありませんでしたが、ラインナップと発売時期が明らかになりました。

今回の発表で朗報に見えたのは、Core Ultra 5でも7以降と性能差がさほど大きくなさそうな点です。特にGPUのコア数が8→7にしかならないのは非常に嬉しいです。

8コアモデルの性能を見る限り、7コアモデルでも非常に高い性能があり、重めのゲームや動画編集等にも対応できるレベルを維持していると思います。

電力やAI面でも大幅な改善が見込まれていますし、もし10万円以内で利用可能となれば、非常に大きな競争力を持つと思います。

総評としては、「Snapdragon X」や「Ryzen AI 300」から遅れての登場となったIntelのAIプロセッサですが、ぱっと見の感触は競合よりも確かに少し上だと思います。

ただし、まだ実機によるレビューはまだですし、やはり価格が非常に重要となるとは思いますので、最終的な評価はそこの情報を待ってからにしようかなと思います。

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