モバイル版のRyzen 5000シリーズが発表されたので、ざっと見ていきたい思います。
本記事の内容は記事執筆時点(2021年1月15日)のものであり、ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。
参考ページ等
ざっくり要点まとめ
CPUのベンチマークやコア数などの指標は示されましたが、詳細な設計や内蔵GPUについては触れられないというちょっと中途半端な発表でした。
- Uシリーズ(通常のTDP15W)では、2桁目が奇数番台のモデルはZen2(例:Ryzen 5 5500U)
- プロセスルールは7nm
- 全モデルSMTが有効(スレッド数がコア数の2倍)
- Zen3モデルは性能が大幅に向上、Zen2モデルも改良が加わり少し性能向上
簡易比較表
スペックの簡易比較表です。先代モデルも一緒に載せています。
簡易比較表
GPU | アーキ テクチャ | コア /スレッド | クロック 定格 | クロック 最大 | キャッシュ | TDP |
---|---|---|---|---|---|---|
Ryzen 7 5800U | Zen3 | 8/16 | 1.9GHz | 4.4GHz | 20MB | 15W |
Ryzen 7 5700U | Zen2 | 8/16 | 1.8GHz | 4.3GHz | 12MB | 15W |
Ryzen 5 5600U | Zen3 | 6/12 | 2.3GHz | 4.2GHz | 19MB | 15W |
Ryzen 5 5500U | Zen2 | 6/12 | 2.1GHz | 4.0GHz | 11MB | 15W |
Ryzen 3 5300U | Zen2 | 4/8 | 2.6GHz | 3.8GHz | 6MB | 15W |
GPU | アーキ テクチャ | コア /スレッド | クロック 定格 | クロック 最大 | キャッシュ | TDP |
---|---|---|---|---|---|---|
Ryzen 9 5980HX | Zen3 | 8/16 | 3.3GHz | 4.8GHz | 20MB | 45W+ |
Ryzen 9 5980HS | Zen3 | 8/16 | 3.0GHz | 4.8GHz | 20MB | 35W |
Ryzen 9 5900HX | Zen3 | 8/16 | 3.3GHz | 4.6GHz | 20MB | 45W+ |
Ryzen 9 5900HS | Zen3 | 8/16 | 3.0GHz | 4.6GHz | 20MB | 35W |
Ryzen 7 5800H | Zen3 | 8/16 | 3.2GHz | 4.4GHz | 20MB | 45W |
Ryzen 7 5800HS | Zen3 | 8/16 | 2.8GHz | 4.4GHz | 20MB | 35W |
Ryzen 5 5600H | Zen3 | 6/12 | 3.3GHz | 4.2GHz | 19MB | 45W |
Ryzen 5 5600HS | Zen3 | 6/12 | 3.0GHz | 4.2GHz | 19MB | 35W |
Zen2モデルもあるので注意
Ryzen 5000シリーズモバイルでは、通常のTDPが15WのUシリーズではZen3ではなくZen2のモデルもあるため注意です。二桁目が奇数のモデルに関してはZen2搭載となるので注意が必要です(例:Ryzen 5 5500UはZen2)。
5000になって全モデルがSMTが有効になった上に改良が加えられたため、Zen2搭載モデルでも先代モデルよりはマルチスレッド性能は強化されたことになりますが、新しいZen3搭載CPUが目当てなら事前に知っておく必要があります。
CPU性能
発表ではCinebench R20のベンチマークテストのスコアの詳細が示されました。Intelの現在の主要CPUも一部加えて表にまとめてみました。あくまでAMDの発表内容ではあるので実際の性能が同じという保証はないですが、詳細な数値を出している訳ですし、発売も近いので恐らく実物も同等の性能になると思います。
Ryzen以外のスコアについては別のベンチマークサイトを参照しています(記事上部にリンクあります)。
シングルスレッド性能
シングルスレッド性能は、1コアでの処理性能を表します。シングルスレッド性能が高いと、軽い処理に掛かる時間が短くなる(サクサク動く)他、全コア稼働時にも当然影響がありますので、ほぼ全ての処理に対して有利に働きます。
今回は、Cinebench R20というベンチマークソフトで測定された数値で見ていきます。
CPU名称 | スコア |
---|---|
Core i7-1165G7 | 558 |
Ryzen 7 5800U | 551 |
Ryzen 5 5600U | 536 |
Core i5-1135G7 | 519 |
Core i3-1115G4 | 504 |
Ryzen 7 5700U | 494 |
Ryzen 7 4700U | 477 |
Ryzen 7 4800U | 474 |
Ryzen 5 5500U | 458 |
Ryzen 5 4600U | 453 |
Core i7-1065G7 | 449 |
Ryzen 5 4500U | 449 |
Ryzen 3 5300U | 441 |
Core i7-10510U | 440 |
Ryzen 3 4300U | 425 |
Core i5-1035G4 | 417 |
Core i5-10210U | 416 |
Core i3-1005G1 | 403 |
Core i3-10110U | 402 |
Zen3モデルは大幅な性能向上で、Tiger Lakeと同等クラスに
IPCが大きく改善したZen3モデルでは、デスクトップモデルと同じようにシングルスレッド性能が大幅に向上しています。前世代との比較だと約16%~18%程度の向上です。Tiger Lakeで差を付けられたシングルスレッド性能にすぐに追いつきました。
Zen2モデルに関しては当然ながら大差はありませんが、それでも多少改良が加えられたようで、4%前後向上しているようです。
Zen2モデルとZen3モデルで結構大きな差があるので、購入する際にシングルスレッド性能を重視する場合には事前の確認が重要です。
マルチスレッド性能
マルチスレッド性能は、CPUの全コア稼働時の処理性能を表します。マルチスレッド性能が高いと、動画のソフトウェアエンコード(CPUエンコード)やレンダリングなど、膨大な量の処理に掛かる時間が短くなる他、複数タスクでのパフォーマンスが向上するなどのメリットがあります。
今回は、Cinebench R20というベンチマークソフトで測定された数値で見ていきます。
CPU名称 | スコア |
---|---|
Ryzen 7 5800U | 3655 |
Ryzen 7 5700U | 3393 |
Ryzen 7 4800U | 3218 |
Ryzen 5 5600U | 3067 |
Ryzen 7 4700U | 2700 |
Ryzen 5 5500U | 2616 |
Ryzen 5 4600U | 2544 |
Ryzen 5 4500U | 2171 |
Ryzen 3 5300U | 2058 |
Core i7-1165G7 | 1949 |
Core i5-1135G7 | 1780 |
Ryzen 3 4300U | 1571 |
Core i7-1065G7 | 1543 |
Core i7-10510U | 1414 |
Core i5-10210U | 1230 |
Core i5-1035G4 | 1210 |
Core i3-1115G4 | 961 |
Core i3-1005G1 | 902 |
Core i3-10110U | 840 |
Intelとの差を更に広げる
シングルスレッド性能が大幅に向上したZen3モデルは、当然ながらマルチスレッド性能も大きく向上しています。元々大きかったIntelとの差を更に広げました。
Zen2モデルも、全モデルSMTが有効(スレッド数がコア数の倍)となったため、マルチスレッド性能は底上げされています。Zen2モデルでもマルチスレッド性能ならIntelには圧勝です。「Ryzen 3 5300U」が「Core i7-1165G7」に匹敵するマルチスレッド性能という信じ難い差が生まれています。
Intelの第11世代(Tiger Lake)では、未だにCore i3は2コアです、省電力モデルだとCore i7でも4コアです。4コア8スレッド以上を活かすにはややヘビーな処理をさせる前提になると思うので、正直8コアだろうが4コアだろうがライトユーザーにはあまり恩恵はないかもしれませんが、さすがに2コアはライトユーザーでも不満を感じる場面がちょくちょくあるレベルだと思います。Ryzen 3が4コア8スレッドになったのは割と大きいのではないかと思います。
雑感
やっぱり凄いねZen3。デスクトップ版が既に出ているため、正直驚きはしませんでしたが、やはり凄い性能です。ただし、やはり気を付けておくべきはUモデルの二桁目が奇数のモデルはZen2という点です(たとえばRyzen 5 5500UはZen2)。Zen2モデルもSMTが有効になった上に少し改良が加えられたので、性能的には十分高いですし、価格も少し安くなると思われるのでコスパは良いとは思いますが、やっぱり折角なら新しい設計のものが欲しいのが消費者心理です。
統合GPU(iGPU)については詳細が出ませんでしたが、リーク情報等から4000シリーズと同じVegaが搭載とされています。ただし、前世代と同一のアーキテクチャのGPUだとしても、IPCが向上したとされるZen3ではAPUの統合GPUでも結構な恩恵があるのではないかと思います。ユニットやクロックが増える可能性もあると思いますし、そうなければTigerLakeのXe Graphicsと良い勝負になるかもしれません。AMDとしても「統合GPUでは負ける」というモバイル版プロセッサとしては致命的にも思える肩書きからは逃れたいはずだと思うので、期待したいですね。ただ、超えているなら発表内容に含めていたと思うので、良くても追い付く程度になりそうな気も正直します。
また、性能とは関係ない部分ではありますが、割と深刻かつ気になるのは供給が足りるのかという点です。発表から1年が経つRyzen 4000シリーズですら、今でも人気PCの納期は非常に遅いです。1ヶ月以上待たされるのも珍しくないレベルです。デスクトップ版のRyzen 5000シリーズも軒並み供給不足ですし、そんな中で登場するモバイル版のRyzen 5000シリーズはどうなってしまうのか…。実際に出て見ない事にはわかりませんが、実際に手元に届くのはまだしばらく先になるのが現実な気がします。
何はともあれ、Cinebench以外でも気になる点もありますし、実際に搭載PCが出るのを楽しみにしたいと思います。