2022年8月30日、待望の「Zen 4」アーキテクチャ「Ryzen 7000シリーズ」デスクトップCPUが遂にAMDから正式発表されました。その内容についてざっくりと見ていきたいと思います。
記事掲載当初にRyzen 9 7950XをRyzen 9 5950Xと同じ価格設定と記載していましたが、実際には100ドル安い設定でした。お詫びして訂正いたします。
仕様とラインナップ
仕様(Zen 3との比較)
まずは各仕様をZen 3と比較しながら見ていきたいと思います。下記の表にまとめています。
Zen 3 | Zen 4 | |
---|---|---|
プロセス | 7nm | 5nm |
コア | 6~16コア | 6~16コア |
スレッド | 12~32スレッド | 12~32スレッド |
I/Oダイ | 12nm | 6nm |
TDP | 65W~105W | 105W~170W ※初発モデルのみ |
クロック(ベース) | 3.7GHz | 4.7GHz |
クロック(最大) | 4.9GHz | 5.7GHz |
キャッシュ | 35MB~72MB L2:コアあたり0.5MB L3:CCDあたり32MB | 38MB~80MB L2:コアあたり1MB L3:CCDあたり32MB |
ソケット | AM4 | AM5 |
PCIe | PCIe 4.0 | PCIe 5.0 |
メモリ | DDR4 | DDR5 |
PPT | 76W~142W | 142W~230W?※噂 |
約2年ぶりの待ちに待った2年ぶりの新しいRyzen「Zen 4」です。発売は9月27日が予定されています。「Zen 4」のCPUのコアダイ(CCD)はTSMCの5nmノードで構築されており、前世代の7nmから微細化されています。また、I/Oダイについても前世代の12nmから6nmへと大幅に微細化しています。このプロセスの大幅な刷新により、性能や電力効率面にて大幅な向上が期待できます(性能等については後述)。
しかし、少し残念なのはコア数で、前世代と同じです。Ryzen 5は6コア、Ryzen 7は8コア、Ryzen 9は12/16コアと、内訳も全く同じです。プロセス面のコスト増大が予測される点などを考慮すると仕方ないのかもしれませんが、IntelのCoreシリーズと比べるとコア数では不利な状況が続くことになりました。ただし、全てのコアがいわゆるPコア(高性能)なので、Eコアの追加で性能を稼ぐCoreシリーズよりも大きな更新であることは間違いないです。とはいえ、純粋なマルチスレッド性能勝負では有利とは言えない状態が続くかもしれません。
また、「Zen 4」ではTDPが前世代よりも上昇しています。前世代では最大105Wであったのに対し、最大170Wにまで上昇しています。最大クロックが前世代と比べて0.8GHzと大幅に上昇しているため、ここは仕方ない部分だと思います。前世代ではRyzen 9はCore i9より消費電力が大幅に少なかったのですが、ライト層にはそのような事情がわからない人も多いと思われるため、消費電力を増やしてでも性能を向上させた方が良いという判断かもしれません。
ただし、誤解してはいけないのが、これによってCore i9よりも電力面で不利になった訳では無い点です。Core i9-12900KのTDPは125Wなので、Ryzen 9の170Wの方が圧倒的に消費電力が大きいという印象も受けるかもしれませんが、一応噂レベルながらPPTという実質的な消費電力の最大値は170Wモデルでも230W程度と言われており、これは第12世代Core i9-12900Kの実質的な最大消費電力値のMTPの241Wよりも若干少ないです。そのため、実はほぼ同程度の消費電力になるのではないかと予測されています。従来よりも大幅に高消費電力なのは間違いないですが、Core i9を上回るほどではないと思われる点は留意です。個人的には、Core i9の125Wという誤解を招きかねない表記よりもユーザーライクで好印象です。
最後にインターフェース面ですが、「Zen 4」はDDR5メモリやPCIe 5.0などの新世代のI/Oを備えています。ソケットがAM5へと久しぶりに変更されるのと同時の更新です。対応マザーボードもCPUの発売と同時に発売予定となっていますが、上位モデルにあたるX670/X670Eが先に発売され、コスパ重視のB670/B670Eについてはやや遅れて発売されるようなので、その点は注意です。
ラインナップ
次に、初発モデルのラインナップを見ていきます。
価格(USD) | コア | スレッド | TDP | キャッシュ | 価格 /1コア | |
---|---|---|---|---|---|---|
Ryzen 9 7950X | $699 | 16 | 32 | 170W | 80MB | $43.69 |
Ryzen 9 7900X | $549 | 12 | 24 | 170W | 76MB | $45.75 |
Ryzen 7 7700X | $399 | 8 | 16 | 105W | 40MB | $49.88 |
Ryzen 5 7600X | $299 | 6 | 12 | 105W | 38MB | $49.83 |
ラインナップおよび価格は上記の通りです。Ryzen 9 7950Xは699ドル、Ryzen 9 7900Xは549ドル、Ryzen 7 7700Xは399ドル、Ryzen 5 7600Xは299ドルとなっています。上記価格は消費税は考慮されていません。前世代と比較すると、Ryzen 7950Xは5950Xの799ドルから100ドル安くなり、Ryzen 7 7700Xは5800Xと比較すると50ドル安くなっています。
発表内容だけ見れば価格は維持されるかのように思えますが、残念ながら日本においては円安が大幅に進行しているため、Ryzen 5000シリーズの頃よりも大幅に値上げされることが予測されます。しかも、Ryzen 5000シリーズは今在庫処分価格で安価になっていますから、現状の価格と比べるとかなりの差となると思われます。
Ryzen 5000シリーズ発売時の為替レートはおおよそ1ドル=106円程度でしたが、記事執筆時点(2022年8月30日)では1ドル=138円程度です。Ryzen 5000シリーズの日本での実売価格は1ドル=120円程度での換算とやや高価になっていたため、思ったよりはマシになる可能性もありますが、少なくとも2割程度の価格上昇は覚悟しておくべきかなという印象です。
また、1コアあたりの価格を算出してみると、7950Xは約43.69ドル、7900Xは約45.75ドル、7700Xは約49.88ドル、7600Xは約49.83ドルとなっており、Ryzen 9の方がコスパは良いことがわかります。PC総額にするとその差はもっと顕著になるので、マルチスレッド性能コスパを考えるならRyzen 9の方が明らかに良いです(これは前世代と同じ)。
ただし、後述の性能面を見る限りはRyzen 5 7600Xでも現状のハイエンドGPUでボトルネックはほとんど発生しないようなので、ゲーミングコスパのみに限れば下位モデルの方が良いと思います。実際、AMDもゲーマー向けのスイートスポットとしてはRyzen 7 7700Xをしているらしいです。とはいえ、Coreシリーズのコア数の多さを見ると、Ryzen 7 7700Xは第13世代のCore i7にマルチスレッド性能では完敗となりそうな気がするので、そこは気になるところです。単純なマルチスレッド性能コスパおよび性能、競合モデルとの差も意識しつつの選択という点を考慮すると、やはりRyzen 9の方が個人的には魅力を感じます。
下記に雑な価格予測を表にしておくので、参考までにご覧ください。
既存CPUとの性能比較
仕様などを確認したところで、既存CPUとのベンチマーク比較も一部公開されたのでそちらについても見ていきたいと思います。主に前世代のRyzen 5000シリーズと、Core i9-12900Kとの比較となっていました。ざっくりと一つの表にまとめたものが下記になります。
Ryzen 5000 | Core i9-12900K | |
---|---|---|
IPC | +13% | – |
シングルスレッド | 最大 +29% | 最大 +11.5% |
マルチスレッド クリエイター向けテスト | 最大 +44% | 最大 +44% |
ゲーミング性能 RX 6950 XT / 1080p | 最大 +29% | 最大 +11% |
ゲーミング性能 Ryzen 5 7600X | – | 平均 +5% |
電力効率 | 最大 +28% | 最大 +47% |
Ryzen 7000シリーズでは前世代から13%のIPCの向上を実現しているとAMDは主張しています。これによりシングルスレッド性能およびゲーミング性能は前世代から最大で29%向上したようです。また、Core i9-12900Kに対しても最大で約11%程度上回っているとしており、ゲーミングCPUとしてトップということを誇示しています。
特に、ゲーミング性能では299ドルのRyzen 5 7600Xであっても、Core i9-12900Kに対して平均で5%上回っているデータが示されたのは驚きでした。テストに使用されたGPUは「Radeon RX 6950 XT」という現状では間違いなくハイエンドなGPUなので、IPCの大幅な向上やそれによる各種性能向上により、Ryzen 5でもGPUのボトルネックになりにくくなっている事が推測されます。
GPUも次世代で性能が大幅に向上することが予測されているのでそれ次第ではありますが、Core側も第13世代では下位モデルのコア数を増やすことが予測されていますし、ボトルネックをほとんど気にしなくて良い時代が近付いている…もしくはもう来ているのかもしれません。
クリエイター向けベンチマークソフトのマルチスレッド性能テストでも、Ryzen 5000シリーズおよびCore i9-12900Kに最大で約44%上回っているとしています。コア数が変わらないのにこの向上率は非常に高く、シングルスレッド性能の向上率よりも大幅に向上していますから、マルチスレッド効率は非常に優れていることが伺えます。ただし、この比較は基本的にコア数が同じ16のRyzen 9 7950X、Ryzen 9 5950X、Core i9-12900Kで比較されている点に注意です。Ryzen 7以下では基本的に競合のCoreシリーズの方がコア数が多い(たとえば、Core i7は第12世代でも12コアで、次世代では16コアが予測されていますが、Ryzen 7はZen 4でも8コア)ため、一般ユーザーが購入を検討するモデルで優位性がここまで出るかは別問題という点は注意が必要です。
最後に電力面です。「Zen 4」は「Zen 3」と比べて、同じ性能なら62%の電力を削減し、同じ電力なら49%高い性能を発揮するとAMDは主張しています。驚異的な進歩です。元々Coreシリーズに対しては有利であった部分でありながら、更にこれだけの向上率を実現ということで、電力効率に関してはCoreシリーズとの差は非常に大きいです。電力効率重視なら、間違いなくRyzen 7000シリーズ一択になると思います。
その他
その他の点についても軽く触れていきます。
対応マザーボードについて
Ryzen 7000シリーズのソケットAM5に対応したマザーボードについては、まずは4つのチップセットのものが用意されるようです。X670E、X670、B650E、B650の4つです。EはExtreamの略で、無印よりも上位という意味合いのようです。
X670の2つについては9月利用可能としており、恐らくRyzen 7000シリーズCPUと同時期に発売され、B650の2つについては10月利用可能としており、少し後れて登場する点に注意です。
E付きとE無しの違いや各チップセットの細かな違いについては語られませんでしたが、B650EとB650との違いでは、B650ではGPUのPCIeが5.0ではなく4.0になるとされています。次世代のGPUがいくら高性能とはいえ、さすがにPCIe 4.0の帯域幅がネックになるほどではないと思うので、基本的には現状は気にする必要がはないのかなという印象を受けました。将来性を見据えた人向けのチップセットという位置付けなのかもしれません。
また、地味に嬉しい情報の一つが、AM5が2025年以降までサポート予定と発表されたことです。既存のAM4も2016年から2022年まで現役を続けたことからも、期待できます。敷居的にも費用的にも、マザーボードの互換性は新世代への移行を恐らく最も妨げる要素なので、2~3世代先までのサポートが期待できるのは、実はかなり大きい部分だと思います。
AMD EXPO Technology(メモリのオーバークロック機能)
AMDはRyzen向けにDDR5メモリのオーバークロックを容易に行えるとする「EXPO」というメモリプロファイル機能を導入したことが発表しました。詳細は発売を待つことになりそうですが、ワンクリックで簡単にオーバークロックが行えるとしています。
恐らくは「Presicion Boost 2(PB2)」や「Precision Boost OverDrive(PBO)」のように、従来は上級者でないと難しいオーバークロックを簡単に行える機能だと思います。
既存のメモリのオーバークロックとしてはIntelのXMPが有名ですが、そことの違いはどうなのかが注目です。
クーラーはAM4と互換性があります
これは以前から判明していたことですが、CPUクーラーについてはAM5でもAM4と互換性があります。マザーボードについては変える必要がありますが、クーラーはそのまま使い回すことが可能となっており、移行の障害を少しでも取り除こうという考えが見えます。
今回の発表には特にありませんでしたが、FSRや前から導入されているオーバークロック機能なども含め、AMDのユーザーライクの姿勢はビジネス面を考慮してのものだとわかっていても、好感が持てる部分です。
GPUのコア数は全モデル2?
Ryzen 7000シリーズは全モデルでRDNA 2アーキテクチャのグラフィックスを統合すると以前に発表されていましたが、今回の発表では特に触れられませんでした。しかし、公式HPの仕様表を見ると、今回発表されたモデルは全て「GPUコアカウント」の仕様が「2」となっていることが確認できます。
まだ発表直後かつ発売前ですし、本発表では触れられなかった部分なので今後変更となる可能性もありますが、予測でもCUは2~4と言われていたので、恐らくは正しいのかなと思っています。
仕様とコスト的には仕方ないと思いますが、性能は期待できず、とりあえず使えるよ程度のものなようです。
恐らくはZen 4でも高性能な内蔵GPU搭載のAPUモデルが後に登場することになると思うので、内蔵GPUが目的の人はまだ待つ必要がありそうです。
雑感
ざっくりとですが、発表内容について見てきました。
色々と思うことはありますが、やはり一番気になるのは価格です。Ryzen 5000シリーズ登場時よりも円安がかなり進んでいるので、2割~3割ほどの価格上昇が大方の予測なようです。Ryzen 5 7600Xですら4万円台後半から5万円程度、Ryzen 7 7700Xも6万円台になるかもしれないというのは中々厳しそうです。
第13世代Coreも値上がりの可能性が示唆されているため、競争としてどうなるかは両方の発売を待つしかありませんが、いずれにせよ新世代CPUの導入にはDDR5メモリなども含めて従来よりも大幅な費用の増加は避けられなさそうです。
先でも触れましたが、やはりコスパ的にお得そうなのはRyzen 9です。予想価格的にもRyzen 5とRyzen 7はコア数の割に高すぎますので、多少高くてもRyzen 9の方がマルチスレッド性能コスパは良いです。また、Ryzen 5000シリーズとコア構成が同じなので、電力効率傾向も引き継ぐと予測するなら、電力効率もRyzen 9の方が一段良い可能性があります。PC総額から見たコスパを考慮しても高性能な方がお得なので、予算が潤沢ならRyzen 9一択だと思います。
ただし、発表ではRyzen 5 7600XがCore i9-12900Kをゲーミング性能で平均5%上回るようなので、ゲーミングコスパのみに絞るなら下位モデルの方がお得です。なのですが、その場合に気になるのはIntelで、第13世代CoreではCore i5の下位モデルでもEコア追加モデルがあるというリークがあるので、それを信じるならRyzen 7000シリーズの下位モデルを買うくらいならCore i5のEコア追加モデルを買う方がお得な可能性が高いと思います。第13世代の情報無しでもRyzen 5やRyzen 7は価格的にお得か微妙なラインですから、発売前ながらちょっと微妙感が強めな気が正直します。ですが、思ったより安い価格で発売されれば全部杞憂だったとなる可能性も一応あるので、あくまで参考程度に聞き流して貰えると助かります。
また、3D V-Cache搭載モデルの登場が予想されていることも特にゲーマーにとっては注目です。Ryzen 7 5800X3Dでは大きなゲーミング性能向上が見受けられたので、Zen 4でも期待できるところです。現状ではCoreシリーズ相手にゲーミング性能が大幅というほどの差が見込みにくい点がネックでもあるので、そこで差を付けて一段優位になれば、Ryzen 7以下の評価も変わってくると思います。マルチスレッド性能が多少低くても、現状多くのユーザーはゲーミング目的でしょうから、Ryzen 9以下の価格でRyzen 7の3D V-Cacheモデルが購入できるのであれば十分な魅力を得られる可能性はあると思います。
性能以外の面では、Ryzen 7000シリーズの消費電力(TDP)の上昇については少し残念ですが、IntelのCoreシリーズが非常に高い消費電力で性能で対抗しようとしているのに、少ない電力を維持し続けるのも損な気がしていたのは事実なので、仕方ないかなと思います。電力効率自体が悪い訳でなければ個人的には特に問題ではないと思っています。
むしろ、IntelのCore i9(K付き)のように、TDP125Wとしておきながら最大では240Wとかいうライトユーザーは誤解を招きかねない仕様よりも、最大230W(一応噂)だけど表向きのTDPでも170Wという高い数字を出しているのがむしろ個人的には好感が持てました。
といった感じで内容は以上です。新世代CPUのレビュー解禁や発売が待ちきれないです。Ryzen 7000シリーズか、第13世代Coreか、どちらが先かはわかりませんが続報を楽しみに待ちたいと思います。