Intelの第10世代Coreシリーズ(開発コードネーム:Comet Lake-S)の「Core i7-10700K」と「Core i7-10700」のざっくり比較記事です。ちなみに「Core i7-10700KF」と「Core i7-10700F」も、CPUとしての性能はベースモデルと同じなので、そちらの参考にもお使い頂けます。
本記事の内容は記事執筆時点(2020年8月7日)のものとなります。ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。
簡易比較表
主要な仕様をまとめた簡易比較表です。現在主要な他のCPUも一部参考に並べています。
CPU名 | PassMark | コア スレッド | クロック (定格/最大) | TDP | 参考価格 |
---|---|---|---|---|---|
Ryzen 9 3900X | 32851 | 12/24 | 3.8GHz / 4.6GHz | 105W | ¥60,000 |
Core i9-10900K | 24040 | 10/20 | 3.7GHz / 5.3GHz | 125W | ¥72,000 |
Ryzen 7 3700X | 22751 | 8/16 | 3.7GHz / 5.3GHz | 65W | ¥40,000 |
Core i7-10700K | 19738 | 8/16 | 3.8GHz / 5.1GHz | 125W | ¥50,000 |
Core i9-9900K | 18892 | 8/16 | 3.6GHz / 5.0GHz | 95W | ¥55,000 |
Core i7-10700 | 17617 | 8/16 | 2.9GHz / 4.8GHz | 65W | ¥45,000 |
Ryzen 5 3600 | 17828 | 6/12 | 3.6GHz / 4.2GHz | 65W | ¥25,000 |
Core i7-9700K | 14648 | 8/8 | 3.6GHz / 4.9GHz | 95W | ¥42,000 |
Core i7-8700K | 13862 | 6/12 | 3.7GHz / 4.7GHz | 95W | – |
Core i5-10400F | 13073 | 6/12 | 2.9GHz / 4.3GHz | 65W | ¥21,000 |
10700Kは少し高くて消費電力が多いが、性能は高い
Core i7-10700KはCore i7-10700より約5,000円高くて消費電力が多い(TDP125W)代わりに性能が高いモデルです。パフォーマンスは前世代のCore i9-9900Kとよく似たCPUです。
10700は少し安くて性能も少し低いが、消費電力が少ない
Core i7-10700はCore i7-10700Kより約5,000円安くて少し性能が低い代わりに、消費電力が少ない(TDP65W)モデルです。パフォーマンスは前世代のCore i7-9700Kよりも少し高めくらいのCPUになっています。
価格は10700Kの方が約5,000円程度高い
価格は10700Kの方が約5,000円程度高いです。
処理性能
各処理性能をベンチマークスコアで見ていきます。通常設定での使用に加えて、10700Kはオーバークロック(5.1GHz)した場合のスコアを、10700はオーバークロックは出来ないので、電力制限を緩和しクロックを仕様上のブースト時の最大クロックに固定した場合のスコアも併せて載せています。
シングルスレッド性能
シングルスレッド性能は、1コアでの処理性能を表します。シングルスレッド性能が高いと、軽い処理に掛かる時間が短くなる(サクサク動く)他、全コア稼働時にも当然影響がありますので、ほぼ全ての処理に対して有利に働きます。
今回は、Cinebench R20というベンチマークソフトで測定された数値で見ていきます。
CPU名称 | スコア |
---|---|
Core i7-10700K OC | 535 |
Core i9-10900K | 529 |
Core i7-10700K | 514 |
Core i9-9900KS | 514 |
Ryzen 9 3900X | 507 |
Ryzen 5 3600X | 507 |
Ryzen 7 3700X | 506 |
Core i5 10600K | 505 |
Core i7-10700 | 495 |
Core i7-10700 ターボ | 493 |
Core i7-9700K | 491 |
Ryzen 5 3600 | 489 |
Core i7-8700K | 486 |
Core i9-9900K | 484 |
Core i5-10400F | 450 |
10700Kの方が少し上だけど、差は僅か
シングルスレッド性能は10700Kの方が上ですが、差は約3.8%と僅かです。最大ブーストクロックは0.3GHzしか差がなく、シングルスレッドのテストは低負荷なので、低TDPによる影響もほぼないので差はほとんど付きませんでした。
ただし、10700Kをオーバークロックすると差が大きくなります。10900K(OC無)を超える性能を発揮するため、シングルスレッドを特に重視したい場合には10700Kをオーバークロックで使うのは強い選択肢になると思います。
マルチスレッド性能
マルチスレッド性能は、CPUの全コア稼働時の処理性能を表します。マルチスレッド性能が高いと、動画のソフトウェアエンコード(CPUエンコード)やレンダリングなど、膨大な量の処理に掛かる時間が短くなる他、複数タスクでのパフォーマンスが向上するなどのメリットがあります。
今回は、Cinebench R20というベンチマークソフトで測定された数値で見ていきます。
CPU名称 | スコア |
---|---|
Ryzen 9 3900X | 7157 |
Core i9-10900K | 5794 |
Core i7-10700K OC | 5353 |
Core i9-9900KS | 5045 |
Core i7-10700K | 4974 |
Ryzen 7 3700X | 4917 |
Core i7-10700 ターボ | 4877 |
Core i9-9900K | 4463 |
Core i7-10700 | 3776 |
Ryzen 5 3600X | 3747 |
Ryzen 5 3600 | 3734 |
Core i5 10600K | 3631 |
Core i7-9700K | 3449 |
Core i7-8700K | 3436 |
Core i5-10400F | 3181 |
10700Kの方が大幅に上
マルチスレッド性能は10700Kの方が約31.7%と大幅に上でした。クロック差に加え、10700のTDP65Wの電力制限大きく不利に働いた結果と思われます。
10700もターボ設定なら10700Kと遜色ない性能を発揮
通常設定では10700Kより大幅に低いスコアだった10700ですが、電力制限を緩和しMAXターボ設定すると10700Kにも遜色ないほど性能が跳ね上がります。10700の性能の低さは、クロック差よりもTDP65Wによる影響が大きい事がわかります。
ゲーミング性能
この項目でのゲーミング性能は、実際にゲームを起動した際の平均FPS数を見ていきます。
今回は、10種類のゲームで測定した平均FPSの数値を見ていきます。使用されたGPUは「GeForce RTX 2080 Ti」です。記事執筆時点では超高性能なハイエンドゲーミングGPUです。解像度は「1920×1080」でその他の設定については言及がありませんが、数値的に恐らく高設定です。測定に使用されたゲームタイトルやその他の環境は、お手数ですが記事冒頭のリンクからご確認お願いします。
CPU名称 | スコア |
---|---|
Core i7-10700K OC | 184.3 |
Core i9-10900K | 183.5 |
Core i7-10700 | 183.1 |
Core i7-10700 ターボ | 182.6 |
Core i7-10700K | 182.5 |
Core i9-9900KS | 181.1 |
Core i9-9900K | 177.7 |
Core i5 10600K | 177.3 |
Core i7-9700K | 175.8 |
Core i5-10400F | 175.0 |
Core i7-8700K | 174.0 |
Ryzen 9 3900X | 171.2 |
Ryzen 7 3700X | 169.0 |
Ryzen 5 3600X | 166.7 |
Ryzen 5 3600 | 165.4 |
ほぼ差はなく、どちらも非常に高いゲーミング性能
ゲーミング性能に関しては、10700Kと10700は差はほぼありませんでした。オーバークロックやターボ設定もパフォーマンスに大きな影響はありませんでした。ゲーミング用途重視なら、価格が安い10700の方がコスパ的に有利です。
レンダリング時間
レンダリングに掛かる時間を見ていきます。基本的に、レンダリングはコア数(スレッド数)とクロックが重要になる事が多いです。動画のエンコード処理なども似た傾向があります。
今回はBlenderというベンチマークソフトでの処理に掛かった時間を見ていきます。数値が低いほど良いです。
CPU名称 | 処理時間(秒) |
---|---|
Ryzen 9 3900X | 159.2 |
Core i9-10900K | 192.9 |
Core i7-10700K OC | 201.2 |
Core i7-10700 ターボ | 219.9 |
Core i9-9900KS | 221.5 |
Core i7-10700K | 230.4 |
Ryzen 7 3700X | 230 |
Core i9-9900K | 250.2 |
Core i7-10700 | 291.3 |
Core i5 10600K | 298.8 |
Ryzen 5 3600X | 300.1 |
Ryzen 5 3600 | 301.3 |
Core i7-8700K | 321 |
Core i7-9700K | 334.2 |
Core i5-10400F | 343.4 |
初期設定ではやはり10700Kの方が大幅に上
マルチスレッド同様、設定をいじらない状態では10700Kの方が大幅に上です。
10700もターボ設定なら10700Kと遜色ない性能
こちらもマルチスレッド同様、10700の電力制限を緩和しクロックをターボ時のMAX状態で固定すると、10700Kに遜色ない性能に跳ね上がります。
その他
消費電力
ざっくりとしたシステム消費電力を見ていきます。今回は、Cinebenchにてマルチスレッドレンダリングを実行した際の総消費電力を見ていきます。全コア稼働時の消費電力といった具合です。数値が低いほど良いです。
CPU名称 | スコア |
---|---|
Core i5-10400F | 125W |
Core i7-8700K | 133W |
Ryzen 5 3600X | 133W |
Ryzen 5 3600 | 135W |
Core i7-10700 | 137W |
Core i7-9700K | 140W |
Ryzen 7 3700X | 146W |
Core i5 10600K | 162W |
Core i9-9900KS | 193W |
Ryzen 9 3900X | 201W |
Core i7-10700K | 207W |
Core i7-10700 ターボ | 218W |
Core i9-10900K | 246W |
Core i7-10700K OC | 289W |
10700の消費電力が大幅に少ない
TDPが65Wと125Wなので当たり前ではありますが、10700の方が消費電力は大幅に少ないです。高負荷で常に回す訳じゃなければ定番の虎徹でも多分大丈夫なレベルです。10700Kは通常稼働時でも207Wと非常に多いため、安心して使うには水冷が欲しいレベルです。
10700Kのオーバークロックは消費電力が爆発的に上昇
表を見ると一目瞭然ですが、10700Kのオーバークロック時の消費電力がめちゃくちゃ高いです。通常設定時よりも約39.6%も消費電力が増加してしまっています。それに対し、マルチスレッド時の性能の向上率は約1割程度だったので、割に合いません。電力効率は大幅に悪化してしまっています。
クロックの設定値は5.1GHzで、オーバークロック無し状態の最大クロックと同値なので、オーバークロックレベルとしては低いはずなのですが、それでもこれです。
まとめ
10700Kは優れたCPUだけど、10700に対しての優位性は実はほとんど無いかも
「Core i7-10700K」と「Core i7-10700」のベンチマーク結果を見てきた結果、10700Kは素晴らしい性能のCPUではあるけど、10700と比較してしまうと優位性はほとんど無いように見えました。
そう考える最大の要因は、10700でも電力制限して使えれば、10700Kとほぼ同等の性能になるためです。また、特に設定をいじらなかった場合でも、ゲーミング性能ではほとんど差がつかなかった点も大きいです。購入検討中の人は、特にゲーミング性能を気にしている人も多いかと思いますが、その面では初期設定でも10700Kと10700の差はほとんどありません。
それに、初期設定の10700でもマルチスレッド性能が低いという訳ではありません。前世代と比較すると「Core i7-9700K」よりも1割程度高い性能となっているので、毎日大量のマルチスレッド性能が重要な処理(レンダリングや動画エンコード)をするとかでない限りは、10700Kとの差が凄く気になるような人は多くないと思います。更に、初期設定で使う前提の10700は消費電力は10700Kよりも大きく少なく、電力効率も上です。正直なところ、第10世代のCore iシリーズはRyzenに対抗するために無理やりクロックを上げて最大性能を引き上げている感があるため、末尾Kクラスのクロックや電力で稼働すると、逆に効率が悪くなっている気がします。
10700Kは記事執筆時点で10700よりも約5,000円ほど高価です。同額であれば、10700Kを電力制限して使うという方法があるので10700Kの方が優位だったと思いますが、5,000円という安くはない価格差がある以上、10700を選ぶ方が賢く見えます。
ただし、クーラーとか電力制限とかよくわからないとかいう人も多いと思います。そういう人で、マルチスレッド性能が重要な処理を頻繁に行う人には10700Kの方を選ぶのも悪くないと思います。5,000円という価格自体は小さくないですが、短期間でぽんぽん買い替えるものでもないと思うので、5,000円で不安を取り除けるなら安いと思います。
10700Kの利点はオーバークロックだけど、実用性は怪しい
ベンチマークの結果から、10700Kを選ぶ優位性はほとんど無いんじゃないかという話をしました。ただし、10700には出来なくて10700Kには出来ることがあります。「オーバークロック(OC)」です。ただし先に言ってしまうと、正直リスクが大きい割に見返りが少なすぎると思うので、微妙かなという印象です。
Cinebench R20 マルチスレッドのベンチマークにて、5.1GHzのオーバークロックの10700Kは通常の10700Kよりも約7,6%高い性能を示しました。向上率としては高くはないです。それに対し、オーバークロック時の消費電力は約39,6%とかなり大きく上昇してしまいます。とてもじゃないですが割に合わないと思います。かなり規格外の数値となっており、冷却への不安はもちろん大きくなりますし、頻繁に稼働させるとなると単純な電力料金にも多少影響がありそうです。
約7,6%の性能向上のメリットを受けるために、約39,6%の消費電力の上昇と発熱の増加のデメリットを受けるのを良しとする人はほとんど居ないのではないかと思います。Ryzenへの対抗心で、初期設定の時点でかなり無理をさせているという点もあるとは思いますが、実用性は怪しいです。そもそも、オーバークロック自体が元々実用性の向上ためにあるようなものではないのかもしれませんが…。
そんな感じで、記事は以上になります。やや主観の部分も強くなってしまったかもしれませんが、個人的にはCore i7-10700を選ぶ方がコスパも良いし賢いのではないかと感じました。それでは、ご覧いただきありがとうございました。
所詮は同じコアだから出荷時の設定の差でしかないんでしょうね。
10700kが欲しければ10700を5000円安く手に入れてターボONにし、なんちゃって10700kにする方が賢いのかもしれないですね。
消費電力も10700k並に跳ね上がるみたいですがw
恐らくはそういう事なのかもしれないですね。
ほんの少し質の良い半導体が採用されていたりとかはもしかしたらあるのかもしれませんが、性能を見る限りは気にする程の差ないですし…。
ターボクロックが既にオーバークロック並みに無理をさせているレベルなのでは…とか邪推してしまいますね。
レビューとても参考になりました。
10700と10700kで迷っていた者です。
OCって調べてみると怖くて自分でやってみようと思いませんし…なんだかんだ多くの方が10700kの方を選ぶんですよね。
このレビューを拝見して自分は10700にすることに決めました。
話が逸れてしまい申し訳ないのですが…
10700に3060tiの組み合わせではオーバースペックでしょうか?
ありがとうございます。
別にオーバースペックではないと思いますよ。BTOショップ等では一つ上位の3070との組み合わせもよく見ましたし、記事中のテストでは3060tiよりも高性能な2080tiが使用されていますが、大きなボトルネックが発生している様子は見受けられません。
ただ、10700も2段階目のTDP(PL2)は高く設定されており、最大限性能を発揮させるにはそれなりの性能のクーラーが必要となる点は注意しておいた方が良いかもしれません。