【Tiger Lake】リファレンスデザイン機「Core i7-1185G7」の性能を見る【性能比較&評価】

Intelのモバイル版CPUの第11世代の「Tiger Lake」の初投入の中の最上位モデル「Core i7-1185G7」のリファレンスデザイン機のベンチマークスコアが出ていたので、ざっくり見ていきます。CPU自体は製品版のものと同じもののはずですが、PC本体は実際の製品とは異なるので一応注意してください。

注意

本記事の内容は記事執筆時点(2020年9月30日)のものであり、ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。

はじめに

まずはじめに触れておいた置いた方が良いと思う事をざっと載せています。

掲載のスコアは実際販売される製品のものではありません

掲載のベンチマークスコアは、Intelがレビュー用に提供しているリファレンスデザイン機体のものです。実際に販売される製品のものではないため注意してください。とはいえ、CPU自体は実際に搭載されるものと同じもののはずなので、TigerLakeが初めて発表された際のプレサンプル機よりは信憑性が高いはずです。

メモリーは超高速な「DDR4X-4267」使用

今回のベンチマークのリファレンスデザインに使用されているメモリーは、Tiger Lakeから使用可能となった「LPDDR4X-4267」です。前世代の「Ice Lake」では最速でも「LPDDR4-3733」だったので、約14%ほど高速化しています。

また、後で載せるベンチマークスコアは他の主要CPUのスコアも併記していますが、他のスコアはそのCPUで計測されたスコアの平均値なので、使用されたメモリーの多くはLPDDR4のような高速なものだけではなく、DDR4-3200なども多く含まれています。その点でも今回の「Core i7-1185G7」の方がやや有利という点は一応留意しておく必要があります。

搭載機は14インチディスプレイの薄型軽量機

リファレンスデザインの機体は、「MSI Prestige 14」を基にした14インチの薄型軽量機です。そのため、多くの他の製品よりも排熱性で劣る可能性も考えられますが、「MSI Prestige 14」は蓋を開けると底面が少し浮いて、そこから吸気できる仕様となっており、薄型の割には排熱性は悪くないです。元記事でも高負荷時には暖かくはなるものの悪いというほどではない、との記述もあるので大きな影響は無いかとは思いますが、一応触れておきます。

また、元製品ではdGPU(ビデオカード)が搭載されていますが、今回のレビュー品では無効にし、iGPU(内蔵GPU)での稼働となっています。

TDPは12W~28Wで設定可能

Tiger Lakeの通常のTDPが15Wのモデルは、12W~28WでTDPを設定できます(ダイナミックチューニング設定時には35Wまで許容)。TDPに幅があるというのは別にTiger Lakeからの機能ではありませんが、前世代では12W~25Wだったのでやや最大値が上がっています。

クロックが大きく上がった影響もあるのか、28Wで設定時には従来よりも大きい性能の向上が見られます。後述のベンチマークでは、15W時のものと28W時のものを両方載せるので、その違いも含めて見ていきたいと思います。

仕様

まずは主要な仕様です。

簡易比較表

Core i7-1185G7の簡易比較表です。競合となりそうな他主要CPUと併せて載せています。


CPUコア/
スレッド
定格
クロック
最大
クロック
L3
キャッシュ
TDPGPU
Core i7-1185G74/83.0GHz4.8GHz12MB12W – 28WIris Xe Graphics(96EU)
Core i7-1165G74/82.8GHz4.7GHz12MB12W – 28WIris Xe Graphics(96EU)
Core i7-1065G74/81.3GHz3.9GHz8MB12W – 25WIris Plus Graphics G7
Ryzen 7 4800U8/161.8GHz4.2GHz8MB12W – 25WRadeon Vega 8
Ryzen 7 4700U8/82.0GHz4.1GHz8MB12W – 25WRadeon Vega 7
Ryzen 5 4500U6/62.3GHz4.0GHz8MB12W – 25WRadeon Vega 6



機能面等の違い

機能面でも少し変更がありました。主に拡張性面です。対応メモリー以外は今回の記事にはほとんど関係ないので、ざっくりと下記にまとめています。


第10世代(Ice Lake)第11世代(Tiger Lake)
DDR4-3200,LPDDR4-3733DDR4-3200,LPDDR4X-4267
USB3(Thunderbolt 3.0)USB4(Thunderbolt 4.0)
PCIe 3.0PCIe 4.0
GNA 1.0GNA 2.0

対応メモリーが一番良いものがLPDDR4x-4267となります。LPDDDR4Xはメモリー単価が高く高級機にしか採用されないと思われるので、出来るだけ安い高コスパ機を求める方には正直あまり関係ないかもしれませんが、高級機の購入を検討している方には割と大きい部分だと思います。

USB 4対応となりThunderboltも4.0に対応可能となります。PCIe 4.0にも対応し、主にストレージの高速化がより期待できます。とはいえ、どちらに関しても現状でも不満はほとんど出ていないと思うレベルの速度だったかと思うので、何か専門的な使い方をしている人以外は、現状は恩恵を感じることはほぼ無いかと思います。

GNAはAI用のプロセッサで、GNA 2.0となり性能が5倍になったと言われています。



コア数とスレッド数は前世代から据え置きですが、クロックが大幅に向上しています。TDPがほぼ同じながらこれだけのクロック上昇に成功しているという事は、省電力性やワットパフォーマンスが大幅に向上していることが予想できます。ただ、残念ながら今回の記事では具体的な消費電力やワットパフォーマンスは触れません。処理性能については、この後少し詳しく見ていきます。

CPU性能

CPU性能を測る主要なベンチマークスコアを見ていきたいと思います。CPU以外の細かい仕様は、お手数ですが記事上部の参考リンクを参照お願いします。

シングルスレッド性能

シングルスレッド性能は、1コアでの処理性能を表します。シングルスレッド性能が高いと、軽い処理に掛かる時間が短くなる(サクサク動く)他、全コア稼働時にも当然影響がありますので、ほぼ全ての処理に対して有利に働きます。

今回は、Cinebench R15というベンチマークソフトで測定された数値で見ていきます。

Cinebench R15 Single
CPU名称
スコア
Core i7-1185G7(28W)
224
Core i7-1185G7(15W)
216
Ryzen 7 4700U
181
Core i7-10710U
180
Ryzen 7 4800U
180
Core i7-1065G7
179
Ryzen 5 4500U
174
Core i3-10110U
172
Core i5-1035G1
169
Core i5-10210U
166
Ryzen 3 4300U
165
Core i3-1005G1
157

シングルスレッド性能は非常に大きく向上、デスクトップ版クラスの高性能さ

シングルスレッド性能は非常に大きく向上しています。15W時で「Core i7-1065G7」や「Ryzen 7 4700U」を約20%も上回っています。28W時には約25%上回ります。レビュー機で高速なメモリーが採用されている事を考慮しても素晴らしい向上率です。クロックの大幅上昇の賜物だと思われます。最新のデスクトップ版CPUクラスの性能です。シングルスレッド性能重視なら、Tiger Lakeを待つ価値は十分あります。


マルチスレッド性能

マルチスレッド性能は、CPUの全コア稼働時の処理性能を表します。マルチスレッド性能が高いと、動画のソフトウェアエンコード(CPUエンコード)やレンダリングなど、膨大な量の処理に掛かる時間が短くなる他、複数タスクでのパフォーマンスが向上するなどのメリットがあります。

今回は、Cinebench R15というベンチマークソフトで測定された数値で見ていきます。

Cinebench R15 Single
CPU名称
スコア
Ryzen 7 4800U
1568
Core i7-10710U
1067
Ryzen 7 4700U
1050
Core i7-1185G7(28W)
966
Ryzen 5 4500U
890
Core i7-1185G7(15W)
702
Core i7-1065G7
683
Core i5-10210U
619
Core i5-1035G1
606
Ryzen 3 4300U
580
Core i3-1005G1
405
Core i3-10110U
403

ターボ時の性能向上が大きい「Ice Lake」という印象。Ryzen 4000シリーズにはまだ不利

マルチスレッド性能は大きく向上はしているものの、15W時には前世代の平均スコアとほぼ同じです。他のスコアはTDP25W時のものも多く含まれているはずなので、15W時にこれを上回っているということは性能自体は向上していると考えられますが、別記事などでは15Wだと前世代をやや下回るものも見受けられますし、現状の他CPUより確実に高速なメモリーを採用しながらこの結果です。少なくとも省電力モード時の性能差は大きくないんじゃないかと思います。

28W時には大きく性能が向上するものの、「Ryzen 5 4500U」をやっと上回るくらいで「Ryzen 7 4700U」には負けます。最上位モデルの「Core i7-1185G7」でこの結果です。立ち位置的に競合相手となるRyzen側の最上位モデル「Ryzen 7 4800U」と比較すると約38%も負けており惨敗です。

Tiger Lakeのマルチスレッド性能は依然として第3世代のRyzen(Zen 2)に対して後れを取っています。TDP上昇による性能向上率自体は素晴らしいので、省電力性やワットパフォーマンス的には大きく向上している可能性もありますが、純粋な性能は正直前世代から大幅に向上したとは言えないのでは、というのが個人的な印象です。

とはいえ、TDP15W時でも、前世代のスコア(25W測定も多く含まれると思われる)を僅かながら上回っているため、純粋なパフォーマンスも向上しているのは間違いなさそうなので、そこは評価出来るところです。でもやっぱりシングルスレッド性能の大幅な向上の割にはマルチスレッドは微妙な結果と言わざるを得ないかなと思います。シングルスレッド性能は15W時でも前世代を2割も上回っていたのに、マルチスレッドだとほぼ差は無しですからね。

総評としては、「Tiger Lakeのマルチスレッド性能は、少しだけ性能が向上して、ターボ時に大きめに性能が向上するIce lake」という感じになるかなと思います。

内蔵GPU性能

内蔵GPUの性能を見ていきます。Tiger Lakeで最もIntelが強調する部分がこの内蔵GPUです。前世代から刷新され「Xe」Graphicsになりました。その他の細かい仕様は、お手数ですが記事上部の参考リンクを参照お願いします。

その性能はIntelが自信を持って宣伝しているように、前世代から爆発的に向上しています。28W時にはRyzen 4000シリーズのRadeon Vegaを大きく上回る性能となっており、内蔵GPUにおいては現状トップに躍り出ました。前世代から飛躍的に増えたユニット数による発熱の影響は気になるところですが、少なくとも性能の向上は間違いないようです。

その性能は現状のノートPC向けのエントリーdGPU(ビデオカード)として採用例の多い「GeForce MX350」を追い抜いてしまったので、「GeForce MX350」以下のエントリークラスのグラボが不要になってしまいました。次世代の「GeForce MX450」は性能が大幅に向上しているようなので、そこでまた抜かれてしまうようですが、今までのエントリークラスのグラボレベルの性能を内蔵GPUが持っていると思うと凄いです。

ゲーミング性能(3DMark)

ゲーミング性能は、文字通りゲームをプレイする際のパフォーマンスです。まずはベンチマークテスト3D Mark Night raid(1920×1080)のスコアを見ていきます。DirectX 12という主流なゲーム用のAPIの一つによるパフォーマンスです。

3DMark Night Raid 1920×1080
CPU名称
スコア
Iris Xe graphics 96EU
(Core i7-1185G7-28W)
17797
Radeon RX Vega 8
(Ryzen 7 4800U-25W)
14053
Iris Xe graphics 96EU
(Core i7-1185G7-15W)
13801
Iris Plus Graphics G7
(Core i7-1065G7-25W)
7466

爆発的な性能向上。前世代の2倍以上の向上

爆発的な性能向上となっています。28W時には前世代の「Iris Plus G7」の約2.38倍もの性能となっています。発表時に前世代の2倍の性能と謳っていたのは間違っていませんでした。驚異的な向上率です。Ryzen 7 4800Uの「Radeon Vega 8」と比較しても約26.6%と大幅に上回っています。

15W時には性能が大きく下がり、Ryzen 7 4800Uの「Radeon Vega 8」を僅かに下回りますが、15W駆動にしては十分すぎる性能だと思います。

ゲーミング性能(平均FPS)

次にゲームプレイ時の平均FPSです。今回は5種類のゲームでの平均FPSを見ていきます。解像度は全て「1920×1080」で、低~中設定です。詳しい設定やゲームタイトルは、お手数ですが記事上部の参考リンクを参照ください。

ゲームの平均FPS 1920×1080(Low – Mid)
CPU名称
スコア
Iris Xe graphics 96EU
(Core i7-1185G7-28W)
43.2
Radeon RX Vega 8
(Ryzen 7 4800U-25W)
35.6
Iris Xe graphics 96EU
(Core i7-1185G7-15W)
32.3
Iris Plus Graphics G7
(Core i7-1065G7-25W)
19.0

1080pなら重いゲームもプレイ自体は十分可能に

計測タイトルがどれも結構重めのゲームな中、28W時には低~中設定で平均40FPSを超えています。Iris Plus G7の約2.27倍の性能です。Ryzen 7 4800Uの「Radeon Vega 8」と比較しても約21.3%と上回っています。ほぼ前述のベンチマーク通りの差です。解像度1080pで設定も低めで良いなら、重い3Dゲームもほとんどがプレイ自体は可能なレベルです。とはいえ重いゲームだと快適とは言い難いレベルではあるので競技性の高いゲームでは厳しいですが、「雰囲気を知るためにプレイする」という事が普通のノートパソコンでも出来るようになるというのは凄く大きいと思います。対人対戦でないゲーム等ではちょっとしたカクつきや画質の悪ささえ我慢できればほとんどのものが対応できると思いますし、一般の人とPCゲームとの距離が一気に近くなると思います。

15W時にはやはり大きくFPSが低下しますが、それでもRyzen 7 4800Uの「Radeon Vega 8」を1割ほど下回る程度です。ハイエンドグラボ同士の比較なら1割差は大きいですが、このレベルのGPUなら誤差レベルなので十分な性能です。

まとめ

Tiger Lakeの「Core i7-1185G7」のリファレンスデザイン機での性能まとめです。

まとめ
  • シングルスレッド性能が大幅に向上
    IceLakeからコア数とスレッド数は基本的に据え置きで、最大コア数は4です。
  • マルチスレッド性能はRyzen 4000にはまだ劣る
    シングルスレッド性能が大幅に向上した割には、マルチスレッド性能の伸びは正直イマイチでした。15W時には前世代の平均スコアとほぼ同じくらいの性能です。平均スコアはTDP25Wのものも多く含まれていることを考慮しても、メモリーが非常に高速という強みもある中での性能としては正直微妙です。また、28W時には性能が大きく向上はするものの、それでもRyzen 4000シリーズには届きません。通常のTDP15Wモデルの中では最上位であるはずの「Core i7-1185G7」ですら、「Ryzen 7 4700U」に普通に負けてしまっています。
  • 内蔵GPUが前世代の2倍以上の性能に(Xeグラフィック)
    内蔵GPUの性能が前世代の2倍以上になっています。自信満々で誇示していただけあって驚異的な性能です。Ryzen 4000シリーズの最上位モデル(Ryzen 4800UのVega 8)相手でも2割以上も上回っており、現状内蔵GPUではトップの性能です。モバイル端末向けのエントリークラスのdGPU(ビデオカード)の存在意義が一気に薄くなるレベルに達しました。1080pの低設定で良いなら、重い3Dゲームもほとんどのものがプレイ自体は普通に可能なレベルです。競技性の高いゲームではまだ厳しい性能ですが、とりあえず雰囲気を知るためにプレイできるというのは非常に大きいと思います。



という感じで記事は以上になります。

マルチスレッド性能に関しては、正直まだRyzenには届かないだろうなと思っていたので予想の範囲内で、それがある意味残念ではありました。ただ、内蔵GPU「Xe グラフィックス」については本当に素晴らしい出来でした。PS5のこともありますし、よりゲームが一般の人の身近になっていくことは間違いないと思います。これからのCPU市場も本当に楽しみです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です