AMDはCOMPUTEX TAIPEI 2024のオープニング基調講演にて、新しい「Zen 5」採用のモバイル端末向けプロセッサー「Ryzen AI 300シリーズ」(コードネーム:Strix Point)を発表しました。
本記事ではその概要についてざっくりと触れています。
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ざっくり要点まとめ
- 命名規則の変更「Ryzen AI 300シリーズ」
- 前世代の「Ryzen 8040シリーズ」から「Ryzen AI 300シリーズ」になるとのことで、命名規則が変更となっています。ちなみに、「Ryzen AI 100 / 200シリーズ」があった訳ではなく、インテルの次世代になると思われる「Core Ultra 200シリーズ」に対抗しつつ上回っていることを示すために300からのスタートとなったと言われています。
- CPUコアに「Zen 5」アーキテクチャ採用で、IPCが向上
- CPUコアには「Zen 5」マイクロアーキテクチャが採用されます。デスクトップ向け「Ryzen 9000シリーズ」の発表での説明によると、IPCは前世代(Zen 4)と比較して最大の平均で16%の向上を主張しています。また、FPUの再設計でフロントエンドや各データ帯域幅が2倍になったため、AIパフォーマンスやAVX512スループットも2倍になっているようです。4nmプロセスという点も同じですが、「Ryzen AI 300シリーズ」はモノシリック設計となっている点はデスクトップ版と異なっています。
- コア数は最大12コアで、「Zen 5」4コア+「Zen 5c」8コアのハイブリッド構成
- コア数は最大12コアで、前世代の主流モデルの最大の8コアから1.5倍に増量されます。アーキテクチャ更新と併せて、大きな性能向上となると思われます。ただし、ハイブリッドコア構成となっており、12コアの内8コアは小型の「Zen 5c」で、「Zen 5」は4コアという点に注意です。「Zen 5c」はインテルのCoreシリーズのEコアとは異なりSMTをサポート(1コア:2スレッド)する上、ISAは同一なため、劇的に性能が下がる訳ではありませんが、クロックが大きく低下した設定となっています。
- 内蔵GPUは最大16CUとなり、「Core Ultra 9 185H」を平均で36%上回るゲーム性能
- GPUは最大16CUとなり、前世代の12CUから4CU増えています。そのゲーム性能は「Core Ultra 9 185H」のGPU「Arc(8コア)」と比較して、平均で36%上回ると示されました。本当ならモバイル版の「RTX 3050 4GB」にも迫る性能となり、驚異的です。アーキテクチャには「RDNA 3.5」が採用されるようですが、詳細な説明はありませんでした。追記:後日発表された「Lunar Lake」に搭載されるGPU「Xe2」が、前世代「Meteor Lake(185H含む)」の1.5倍の性能向上を謳っていたので、内蔵グラフィック性能は依然として少し劣る形になるかもしれません。
- NPUは50TOPSに到達し、Copilot+ AI PCの要件をクリア
- XDNA 2 NPUを搭載し、その性能は最大50TOPSとなることにより、Copilot+ AI PCの要件をクリアし、「Snapdragon X(NPU:45TOPS)」などの競合を上回ることになるとAMDは主張しています。また、XDNA 2 NPUは16bitの精度で8bitのパフォーマンスを実現する「Block FP16」をサポートすることも説明されていました。
- TDPは28W(15W~54Wの範囲)
- デフォルトのTDPは28Wに設定され、OEMで15W~54Wの範囲で調整が可能なようです。デフォルトの28Wは前世代のUと同じですが、最低値と最大値が拡張されており、省電力性重視のPCと性能重視のPCのどちらでも対応が可能なようになっています。ただし、これは恐らく「Ryzen AI 9 HX 370 / 365」という上位モデルにものであると思われるため、他の設定のモデルも今後追加される可能性があるかもしれません。
- CPU性能は「Apple M3」「Snapdragon X Elite」「Core Ultra 9 185H」などの競合モデルを大きく上回る
- CPUのベンチマークスコアで競合モデルを大きく上回ることが示されていました。Cinebench R24 nT(マルチタスキング)の部分を抜き出してみると、「Apple M3」には+70%、「Snapdragon X Elite」には+30%、「Core Ultra 9 185H」には+47%の優位性があるとなっており、大きく差を付けて優位に立っています。
- 搭載製品は2024年7月にも出荷開始予定
要点は上でほぼ触れたので、多く語ることはないですが、少し補足事項を下記に載せています。
初登場ラインナップ
7月の出荷が予定されている初登場ラインナップは以下の2モデルとなっています。
コア/スレッド | 最大クロック | キャッシュ | NPU | GPU | |
---|---|---|---|---|---|
Ryzen AI 9 HX 370 | 12コア/24スレッド | 5.1GHz | 36MB | 最大 50TOPS | Radeon 890M(16CU) |
Ryzen AI 9 365 | 10コア/20スレッド | 5.0GHz | 34MB | 最大 50TOPS | Radeon 880M(12CU) |
CPUは10コアと12コアとなっており、競合となる「Snapdragon X(100)」の「10コア or 12コア」と合計コア数も同じです。「Snapdragon X Elite」に対してはAMDによる性能比較では優位に立っているので、搭載製品の価格次第ですが、より魅力的な選択肢となるかもしれません。
NPUは2モデルとも共通なので、NPU性能重視なら特に上位モデルにこだわる必要はありません。CPUもモバイル端末なら10コアあれば十分な場面が多いと思うので、主な決め手は内蔵GPUとなりそうです。
競合モデルとの性能比較(NPU以外)
発表時のスライドで、「Apple M3」「Snapdragon Elite」「Core Ultra 9 185H」との性能比較が示されていたので、そちらをそれぞれ表にまとめています。まずはNPU以外を見ていきます。
Ryzen AI 9 HX 370の優位性 | |
---|---|
3Dレンダリング Blender | |
マルチタスク Cinebench 24 nT | |
動画編集 Adobe Premiere Pro | |
生産性 Procyon Office |
Ryzen AI 9 HX 370の優位性 | |
---|---|
グラフィック性能 3DMark Night Raid | |
マルチタスク Cinebench 24 nT | |
生産性 Procyon Office | |
レスポンス GeekBench 6.3 1T |
Ryzen AI 9 HX 370の優位性 | |
---|---|
3Dレンダリング Blender | |
マルチタスク Cinebench 24 nT | |
動画編集 Adobe Premiere Pro | |
生産性 Procyon Office |
シングルスレッド性能に関しては小さな差ではあるものの、現状の競合モデルに対してはどの方面からも見ても優位に立っていることが示されています。
特に、マルチスレッド性能が重要な処理に関しては大きく差を付けていることがわかります。小型コアをSMTサポートありで運用できるメリットかなと思います。
競合モデルとの性能比較(NPU)
次にNPUのAI推論の性能比較です。
TOPS | |
---|---|
3rd Gen Ryzen AI | |
Snapdragon X Elite | |
Intel Lunar lake(予想) | 40- |
Apple M4 | |
Ryzen 8040シリーズ | |
Core Ultra 100シリーズ(推定) |
先に概要が発表された、Intelの次世代モバイル版プロセッサー「Nunar Lake」の予想性能も併せて比較した上で、NPU性能はトップに立っていることが示されていました。
しかし、上記の表はNPU単体での性能です。「Nunar Lake」ではGPU側にもAIエンジンが搭載される見込みであり、GPU側でも60TOPSのAI推論性能があると言われています。NPUの最大45TOPSと合わせると100TOPSを超えることになるため、合計AI性能ではダントツになります。
GPU側のAIエンジンの使われ方にもよりますが、NPU単体での差も「45 vs 50 TOPS」とわずかですから、AI面だけで見れば正直「Lunar Lake」の方が大分魅力的に見えます。
一応、AMDでもデスクトップ向けのディスクリートGPU「Radeon RX 7000シリーズ」ではAI用の「AI Accelerator」が搭載されていたので、技術的には不可能ではないと思うのですが、今回の発表では特に触れられていなかったように思うので、恐らく搭載されていないものと思われます。コストとの兼ね合いで見送った可能性もありますが、今後の対応が気になるところです。
何にせよ、これで「Copilot +」のローカル動作の要件である40TOPSを、主要メーカー全ての次世代SoCのNPUがクリアすることになりました。正直、急ごしらえだった感は否めないと思いますし、そこまでして対応する必要があるものだったのかも少し疑問を感じますが、PCのAI対応は急速に進んでいることは間違いないですね。
最近のモバイル版SoCは色んな方面で性能向上がめざましいので、見ていて楽しいですね。AI分野の影響も気になるところですし、発売を楽しみに待ちたいと思います。