第12世代Coreの追加投入のハイエンドモデル「Core i9-12900KS」の性能を見ていきます。最大クロック5.5GHzの16コアという超ハイエンド仕様の実力を見ていきたいと思います。
本記事の内容は記事執筆時点(2022年4月5日)のものとなります。ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。
掲載の価格は、主にAmazonや価格.comを参考にしたおおよその市場価格です。
簡易比較表
簡易比較表です。Core i9-12900KSは12900Kとコア構成は同じで、性能向上は主にクロックによるものとなっています。ただし、クロック上昇版といってもPコアの最大クロックは0.3GHzと大きめの上昇となっており、大きめの性能向上が期待できます。
また、TDPのPL1が125Wから150Wへと上昇している点も異なりますが、第12世代Coreの仕様的に、TDP PL1は十分な冷却性さえ確保されていれば無視されるはずの部分なので、あまり大きな上昇とはなっていないと思います。
Core i9 | ||||
---|---|---|---|---|
12900KS | 12900K | 12900KF | ||
コア数 | 16(8P + 8E) | |||
スレッド数 | 24(16P + 8E?) | |||
動作 クロック | Pコア | 3.4GHz | 3.2GHz | |
Eコア | 2.5GHz | 2.4GHz | ||
TB時最大 | Pコア | 5.2GHz | 5.1GHz | |
Eコア | 4.0GHz | 3.9GHz | ||
TB Max3.0時 | 5.5GHz | 5.2GHz | ||
キャッシュ メモリ | L2 | 14MB | ||
L3 | 30MB | |||
対応メモリ(最大) | DDR5-4800 / DDR4-3200 最大 128GB | |||
GPU | Intel UHD Graphics 770 | ー | ||
TDP | PL1 | 150W | 125W | |
PL2 | 241W | |||
対応ソケット | LGA1700 | |||
対応チップセット | Intel 600シリーズチップセット(Z690 等) |
※価格は2022年4月5日時点でのおおよその市場価格です。
CPU名 | 製造 プロセス | コア スレッド | クロック 定格 / 最大 | TDP | iGPU | L3 キャッシュ | 参考価格 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Core i9-12900KS | 10nm | 16(8+8) /24 | 3.4 / 5.5GHz 2.5 / 4.0GHz | 150W | UHD 770 | 30MB | 約105,800円 |
Core i9-12900K | 10nm | 16(8+8) /24 | 3.2 / 5.2GHz 2.4 / 3.9GHz | 125W | UHD 770 | 30MB | 約74,000円 |
Core i9-12900KF | 10nm | 16(8+8) /24 | 3.2 / 5.2GHz 2.4 / 3.9GHz | 125W | 無し | 30MB | 約 70,000円 |
Ryzen 9 5950X | 7nm | 16/32 | 3.4 / 4.9GHz | 105W | 無し | 64MB | 約 85,800円 |
Core i7-12700K | 10nm | 12(8+4) /20 | 3.6 / 4.9GHz 2.7 / 3.8GHz | 125W | UHD 770 | 25MB | 約 52,000円 |
Core i7-12700KF | 10nm | 12(8+4) /20 | 3.6 / 4.9GHz 2.7 / 3.8GHz | 125W | 無し | 25MB | 約 50,000円 |
Ryzen 9 5900X | 7nm | 12/24 | 3.7 / 4.8GHz | 105W | 無し | 64MB | 約 63,300円 |
Core i5-12600K | 10nm | 10(6+4) /16 | 3.7 / 4.9GHz 2.8 / 3.6GHz | 125W | UHD 770 | 20MB | 約 37,000円 |
Core i5-12600KF | 10nm | 10(6+4) /16 | 3.7 / 4.9GHz 2.8 / 3.6GHz | 125W | 無し | 20MB | 約 35,500円 |
Ryzen 7 5800X | 7nm | 8/16 | 3.8 / 4.7GHz | 105W | 無し | 32MB | 約 47,800円 |
Ryzen 5 5600X | 7nm | 6/12 | 3.7 / 4.6GHz | 65W | 無し | 32MB | 約 32,500円 |
- Pコアのクロックが定格で0.2GHz、最大で0.3GHz上昇
- Eコアのクロックが定格・最大共に0.2GHz上昇
- TDP PL1(PBP)が125W→150Wにベース電力設定が125Wから150Wに上昇しています。しかし、第12世代Coreの仕様的に冷却性が十分に確保されていれば、Core i9-12900Kと同様にTDP PL1=PL2=241Wで無制限に稼働するはずなので、重い処理でこの値はほとんど意味を成さないはずなので、大きな変更にはなっていないという印象です。
- Adaptive Boost Technology(ABT)対応12900Kでは実は対応されていなかった、高負荷時に自動で動作するオーバークロック機能のようなものの「Adaptive Boost Technology(ABT)」に12900KSでは対応しています。ただし、元々のクロックが非常に高いですし、おまけのようなものだと思います。
- 価格が約3万円上昇(希望小売価格では150ドル)仕様面での違いではありませんが、価格も大きく上昇しています。日本での発売時の実売価格だと12900Kから約30,000円もの価格上昇となっており、希望小売価格で見ても600ドル→750ドルの25%の上昇となっています。コア構成が変わらないですし、クロックも最大で0.3GHz(+6%程度)なので、正直コスパは間違いなく微妙です。12900Kの方が良いです。新たな最上位モデルのスペシャルエディションという位置付けということもあり、効率を良くしたモデルというよりは最大性能に特化したモデルです。
処理性能
各処理性能をベンチマークスコアで見ていきます。使用された使用されたGPUは「GeForce RTX 3080」となっています。使用されたメモリは、第12世代Core「Alder Lake」のCPUは「DDR5-6000」で、その他は「DDR4-3600」となっています。
その他の細かい環境や設定等については、お手数ですが冒頭の参考リンク先の記事を参照してください。
シングルスレッド性能
シングルスレッド性能は、1コアでの処理性能を表します。シングルスレッド性能が高いと、軽い処理に掛かる時間が短くなる(サクサク動く)他、全コア稼働時にも当然影響がありますので、ほぼ全ての処理に対して有利に働きます。
今回は、Cinebench R23というベンチマークソフトで測定された数値で見ていきます。レンダリングのベンチマークテストです。
CPU名称 | スコア |
---|---|
Core i9-12900KS | 2151 |
Core i9-12900KS ABT | 2149 |
Core i9-12900K | 2030 |
Core i7-12700K | 1939 |
Core i5-12600K | 1921 |
Core i9-11900K | 1675 |
Ryzen 9 5950X | 1638 |
Ryzen 9 5900X | 1623 |
Ryzen 7 5800X | 1606 |
Core i7-11700KF | 1600 |
Core i5-11600K | 1562 |
Ryzen 5 5600X | 1540 |
Core i5-11400F | 1414 |
Core i9-10900K | 1378 |
Core i7-10700K | 1358 |
Core i5-10600K | 1316 |
Core i5-10400F | 1173 |
シングルスレッドは12900Kから約6%の向上で堂々のトップ
シングスレッド性能は12900Kから約6%の向上となっています。5.2GHz→5.5GHzの最大クロック上昇分とほぼ一致しています。物理的にはほぼ同じものだと思われるので、シングルスレッド性能差はクロック差の分です。
12900Kが他CPUを少し突き放していたのに、そこから更に少し差をつけたトップです。シングル性能は頭一つ…とまではいきませんが、少し抜けた性能となっているので、そこを重視する人には魅力的になると思います。
また、シングルスレッド処理では発熱も消費電力も多くないため、ABT使用時にも性能差はほぼありません。
マルチスレッド性能
マルチスレッド性能は、CPUの全コア稼働時の処理性能を表します。マルチスレッド性能が高いと、動画のソフトウェアエンコード(CPUエンコード)やレンダリングなど、膨大な量の処理に掛かる時間が短くなる他、複数タスクでのパフォーマンスが向上するなどのメリットがあります。
今回は、Cinebench R23というベンチマークソフトで測定された数値で見ていきます。
CPU名称 | スコア |
---|---|
Core i9-12900KS ABT | 29444 |
Core i9-12900KS | 28688 |
Core i9-12900K | 27780 |
Ryzen 9 5950X | 25813 |
Core i7-12700K | 22232 |
Ryzen 9 5900X | 21789 |
Core i5-12600K | 17699 |
Ryzen 7 5800X | 15758 |
Core i9-10900K | 14285 |
Core i9-11900K | 13338 |
Core i7-11700KF | 12911 |
Core i7-10700K | 12138 |
Ryzen 5 5600X | 11225 |
Core i5-11600K | 10468 |
Core i5-10600K | 9384 |
Core i5-10400F | 8100 |
Core i5-11400F | 7552 |
マルチスレッド性能は12900Kから約3.3%の向上
マルチスレッド性能は12900Kから約3.3%のわずかな向上でした。現状の消費者向けの最高性能CPUを更新したことにはなりますが、その差はわずかですし、価格は25%も上昇しているため本体価格から見たコスパは明らかに悪化しています。
ABT利用時には12900Kより約6%高速とわずかに優位性が大きくなりますが、やはり価格差を考えるとコスパの悪さは変わらないです。予算度外視の場合以外には選択肢に入らないと思います。
現状最高性能となるため、マルチスレッド性能を高くしたい場合には魅力的なCPUにはなると思いますが、効率を少しでも考えるなら12900Kの方が良いと思います。
ゲーミング性能
この項目でのゲーミング性能は、実際にゲームを起動した際のFPS数を見ていきます。
今回は10種類のゲームで測定したFPSの平均を見ていきます。使用されたGPUは「GeForce RTX 3080」です。その他の設定はウルトラ(可能な限り最高の設定)です。測定に使用されたゲームタイトルやその他の環境は、お手数ですが記事冒頭のリンクからご確認お願いします。
CPU名称 | スコア |
---|---|
Core i9-12900KS ABT | 220.4 |
Core i9-12900KS | 219.2 |
Core i9-12900K | 218.0 |
Core i7-12700K | 214.0 |
Core i5-12600K | 209.3 |
Ryzen 9 5900X | 202.6 |
Ryzen 9 5950X | 202.2 |
Ryzen 7 5800X | 202.0 |
Core i9-11900K | 196.5 |
Ryzen 5 5600X | 195.5 |
Core i7-11700KF | 193.4 |
Core i9-10900K | 194.2 |
Core i5-11600K | 188.8 |
Core i7-10700K | 187.2 |
Core i5-10600K | 179.2 |
Core i5-11400F | 169.7 |
Core i5-10400F | 169.1 |
CPU名称 | スコア |
---|---|
Core i9-12900KS ABT | 182.0 |
Core i9-12900KS | 181.5 |
Core i9-12900K | 180.7 |
Core i7-12700K | 178.1 |
Core i5-12600K | 176.0 |
Ryzen 9 5900X | 170.3 |
Ryzen 9 5950X | 170.1 |
Ryzen 7 5800X | 170.4 |
Core i9-11900K | 169.8 |
Core i9-10900K | 168.0 |
Ryzen 5 5600X | 167.4 |
Core i7-11700KF | 166.9 |
Core i5-11600K | 162.8 |
Core i7-10700K | 162.4 |
Core i5-10600K | 156.8 |
Core i5-11400F | 151.0 |
Core i5-10400F | 150.2 |
CPU名称 | スコア |
---|---|
Core i9-12900KS ABT | 115.9 |
Core i9-12900KS | 115.6 |
Core i9-12900K | 115.4 |
Core i7-12700K | 114.9 |
Core i5-12600K | 114.9 |
Ryzen 9 5950X | 113.5 |
Ryzen 9 5900X | 113.4 |
Ryzen 7 5800X | 113.1 |
Core i9-11900K | 113.1 |
Core i9-10900K | 113.1 |
Core i7-10700K | 113.0 |
Ryzen 5 5600X | 112.8 |
Core i7-11700KF | 112.5 |
Core i5-11600K | 112.1 |
Core i5-10600K | 111.2 |
Core i5-11400F | 110.2 |
Core i5-10400F | 109.5 |
ゲーミング性能差はごくわずか
12900KSのゲーミング性能は12900Kとほぼ同等です。一応上回ってはいるものの、その差は基本1%未満となっています。
ABTをオンにするとfpsが向上するものの、これもごくわずかな向上です。0.5%が1%になる程度のものなので、ABT前提としても優位性としては微妙だと思います。
最高のゲーミングCPUではありますが、「12900Kより上!」と言い切れるほどの差はなく、正直誤差レベルとなっています。
その他
消費電力・電力効率
ざっくりとした消費電力と電力効率を見ていきます。「Cinebench」のマルチスレッドテストを実行した際のもので、全コア稼働時のものです。数値はシステム全体のものとなっていますが、CPUのみで行うテストで、その他の使用電力は少ないはずなので、実質CPUのみの数値として見ていきます。電力効率はCinebenchを行った際の総消費電力から見ていきます。総処理量が同じテストなので、使用された総電力が少ないほど電力効率が良いという感じです。
消費電力・電力効率、共に数値が低いほど良い点に注意してご覧ください。
CPU名称 | スコア |
---|---|
Core i5-10400F | 125W |
Ryzen 5 5600X | 126W |
Core i5-11400F | 136W |
Core i5-10600K | 162W |
Ryzen 7 5800X | 175W |
Ryzen 9 5950X | 179W |
Ryzen 9 5900X | 183W |
Core i5-12600K | 189W |
Core i7-10700K | 207W |
Core i7-12700K | 221W |
Core i5-11600K | 235W |
Core i9-10900K | 246W |
Core i7-11700KF | 260W |
Core i9-11900K | 260W |
Core i9-12900K | 297W |
Core i9-12900KS | 298W |
Core i9-12900KS ABT | 315W |
CPU名称 | スコア |
---|---|
Ryzen 9 5950X | 6.4kJ |
Ryzen 9 5900X | 7.8kJ |
Ryzen 5 5600X | 9.6kJ |
Core i7-12700K | 9.7kJ |
Core i5-12600K | 10.0kJ |
Ryzen 7 5800X | 10.0kJ |
Core i9-12900K | 10.2kJ |
Core i9-12900KS | 11.0kJ |
Core i9-12900KS ABT | 11.0kJ |
Core i5-10400F | 12.7kJ |
Core i9-10900K | 13.9kJ |
Core i7-10700K | 14.2kJ |
Core i5-10600K | 14.5kJ |
Core i5-11400F | 15.3kJ |
Core i7-11700KF | 16.5kJ |
Core i9-11900K | 17.0kJ |
Core i5-11600K | 18.9kJ |
高負荷時の消費電力は12900Kとほぼ同じ
12900KSの高負荷時の消費電力は12900Kとの差は1Wとなっておりほぼ同じです。PBP(TDP PL1)が125Wから150Wへと25W上昇していますが、仕様的にこれは高負荷時にはあまり意味のない数値となっていることがわかります。
ただし、ABT使用時には未使用時から消費電力が約5.7%増加しているため、利用の際には注意です。
電力効率は少し悪化
電力効率は12900Kより若干悪化しています。約7.8%の増加で大きな差ではありませんが、他の面の優位性が小さいため割と致命的だと思います。
電力効率さえ同じか良ければ最大性能の高さのメリットで選ぶ価値が生まれたと思いますが、最大性能差もマルチスレッドで約3%程度しかないのに電力効率は7.8%悪化し、本体費用も増加するとなると微妙です。
まとめ
ざっくりと見てきましたが、評価をまとめています。
Core i9-12900KS
第12世代のCore i9のスペシャルエディションである「Core i9-12900KS」は、12900Kよりもわずかに良い性能を発揮しますが、価格は大幅に上昇し、電力効率もわずかに悪化してしまっています。効率面を考えるなら12900Kの方がおすすめです。
- 16コアによる驚異的なマルチスレッド性能
- 12900Kにも約6%差をつける優れたシングルスレッド性能
- 非常に優れたゲーミング性能
- Adaptive Boost Technology 対応
- 高すぎる価格でコスパが悪い(発売時:105,800円)
- 非常に多い消費電力
- 電力効率が12900Kからわずかに悪化
- 効率を考えるなら12900Kで良い
性能は最高を更新したけど、12900Kで良い
「Core i9-12900KS」は12900Kを上回る性能で、各種性能で消費者向け最高を更新しました。しかし、その性能差はシングルスレッド性能で約6%、マルチスレッド性能で約3.3%、ゲーミング性能では1%未満とわずかでした。ABT利用時にはマルチスレッド性能は約6%まで差を広げますが、当然消費電力は上昇しますし、実用性が変わる程の差ではないです。
現状あらゆる面で最高性能のCPUにはなるため、そこを最重視する場合には選択肢には入るかもしれませんが、約6%の性能向上で実売価格で約40%という大幅な価格上昇に見合わない向上率なので、基本的に12900Kの方が良いです。
また、最大性能を重視する場合でも、電力効率は12900Kよりわずかに悪化している点は留意です。
電力効率がわずかながら悪化したのが致命的に感じる
最大性能の高さを魅力的に感じる人は多いので、価格は多少高くても我慢できる人も居ると思いますが、電力効率が少し悪化したのが地味に致命的だと思います。
実用性重視でこのクラスのCPUを導入したい人は、当然ながら処理量が膨大であることが基本だと思うので、電力効率も費用面に大きく影響がある場合が多いと思います。そこがわずかながら悪化してしまっているのが12900KSの一番致命的な部分だと個人的には感じます。
下記の記事などで軽く考察していますが、Eコアが恐らく高負荷時のマルチスレッド処理には電力効率があまり良くないので、Eコアのクロックも0.2GHz向上させたことが電力効率悪化の要因なのかなと思っています。
「Core i9-12900K」最大消費電力ごとの性能【電力関連】
スペシャルエディションという位置付けで、そもそも実用性需要を考えたCPUではないと思うので仕方ないですが、正直名前だけの最高性能CPUという印象です。
といった感じで、記事は以上になります。ご覧いただきありがとうございました。