2021年10月19日(日本時間)、AppleがイベントにてApple M1をベースに新たに開発したSoC「M1 Pro」「M1 Max」を発表しました。14インチと16インチの二種類のMacBook Proにて搭載されることになっています。この新SoCの性能についてざっくり触れていこうと思います。
本記事の内容は記事執筆時点のものであり、ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。
また、実機レビューを参考にした訳でなく、Appleの発表内容に基づいたものであるため、正確性は保証できない点も注意してください。
追記:公開当初、M1 Max搭載モデルの価格に一部誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
簡易比較表
まずは性能の簡易比較表を置いておきます。
M1 | M1 Pro | M1 Max | |
---|---|---|---|
トランジスタ数 | 約160億 | 約377億 | 約570億 |
CPU | 8コア 高性能コア:4 高効率コア:4 | 最大 10コア 高性能コア:8 高効率コア:2 | 10コア 高性能コア:8 高効率コア:2 |
GPU | 最大 8コア (7 / 8) | 最大 16コア (14 / 16) | 最大 32コア (24 / 32) |
統合メモリ | 最大 16GB | 最大 32GB | 最大 64GB |
M1 | M1 Pro | M1 Max | |
---|---|---|---|
CPU | – | M1より+70% | M1より+70% |
GPU | – | M1の約2倍 | RTX 3080クラス (ノートPC版) |
M1 Pro
- トランジスタ数:約377億、製造プロセス:5nm
- CPU:最大10コア GPU:最大16コア
- CPUは8つの高性能コアと2つの高効率コアの合計10コア
- CPU性能はM1より最大70%高い
- GPU性能はM1より最大2倍高速で、RTX 3050 Tiと同等?
- 最大32GBのユニファイドメモリで、最大200GB/sのメモリ帯域幅
Apple「M1 Pro」は「Macbook Pro 14インチと16インチ」に搭載されるSoCです。M1をベースにした5nmプロセスで製造されています。M1の頃から同じですが、CPUとGPUを同一チップ上に実装し、同じユニファイドメモリを利用することで電力効率を高められている点が特徴のSoCです。今後は別デバイスにも採用される可能性もあると思います。
トランジスタ数は約377億となっており、M1の160億よりも2倍以上になっています。SoC全体のサイズもM1と比べて2倍以上に大きくなっています。コストも増大していることが予想されます。
CPUは合計10コアで、8つの高性能コアと2つの高効率コアで構成されています。M1よりも最大70%高いパフォーマンスになるそうです。
GPUは最大16コアで、M1よりも最大2倍高いパフォーマンスになるそうです。
CPUとGPU共にM1よりもコア数が増えて性能が大幅に向上していますが、グラフを見ると消費電力も大きく増加していることがわかります。単なるコア数の増加だけでなく、使う消費電力が増えたことも性能向上に貢献していることがわかります。M1ベースということもあり、M1の進化版というよりは、高消費電力ながら高効率で高性能なバージョンと捉えるのが正しいのかなという印象です。
メモリには最大32GBのユニファイドメモリ(統合メモリ)が搭載され、最大200GB/sのメモリ帯域幅です。
また、性能は他メーカーのプロセッサとの比較も示されていました(後述)。
M1 Max
- トランジスタ数:約570億、製造プロセス:5nm
- CPU:10コア GPU:最大32コア
- CPUは8つの高性能コアと2つの高効率コアの合計10コア
- CPU性能はM1より最大70%高い
- GPU性能はRTX 3080搭載ノートを上回りつつ、40%少ない電力で動作
- 最大64GBのユニファイドメモリで、最大400GB/sのメモリ帯域幅
Apple「M1 Max」は「Macbook 14インチと16インチの上位モデル」に搭載されるSoCです。M1の頃から同じですが、CPUとGPUを同一チップ上に実装し、同じユニファイドメモリを利用することで電力効率を高められている点が特徴のSoCです。今後は別のデバイスにも採用される可能性もあると思います。
トランジスタ数は570億となっており、M1の160億の4倍近くになっています。SoCサイズも非常に大型化しており、コストは「M1 Pro」よりも更に増大していることが予想されます。
CPUは、8つの高性能コアと2つの高効率コアで構成される合計10コアです。カタログスペックは「M1 Pro」と同じに見えます。M1よりも最大70%高いパフォーマンスと併せて紹介されていることからも、恐らく同一のCPUだと思われます。
GPUは最大32コアで、「M1 Pro」よりも2倍になっています。その性能はRTX 3080を搭載したノートPCを上回りつつも、約40%少ない電力で動作するとされています。
CPUとGPU共にM1よりもコア数が増えて性能が大幅に向上していますが、グラフを見ると消費電力も大きく増加していることがわかります。こちらも、単なるコア数の増加だけでなく、使う消費電力が増えたことも性能向上に貢献していることがわかります。M1ベースということもあり、M1の進化版というよりは、高消費電力ながら高効率で高性能なバージョンと捉えるのが正しいのかなという印象です。
メモリには最大64GBのユニファイドメモリ(統合メモリ)が搭載され、最大400GB/sのメモリ帯域幅です。帯域幅は「M1 Pro」の2倍となっていますが、これは最大メモリ容量が増えてことによるものなので、メモリの速度が向上している訳ではない点は一応注意です。
また、性能は他メーカーのプロセッサとの比較も示されていました(後述)。
性能比較
発表では既存の他のプロセッサとの差もいくつか示されたので、それらからベンチマークスコア等を予測して比較していきたいと思います。
CPU性能
まずはCPU性能についてです。
「M1 Pro」と「M1 Max」のCPU性能はM1より最大約70%高速ということでした。シングルスレッド性能については言及がありませんでしたが、マルチスレッド性能はある程度予測できそうです。Cinebench R23での、他の主要CPUとの比較が下記です。
CPU名称 | スコア |
---|---|
Core i9-11980HK | 13977 |
Apple M1 Pro / Max (推定) | 13260(推定) |
Ryzen 9 5900HX | 13042 |
Core i9-11900H | 12720 |
Ryzen 7 5800H | 12195 |
Core i7-11800H | 12180 |
Ryzen 7 5800U | 11203 |
Ryzen 7 5700U | 9555 |
Apple M1 | 7800 |
Ryzen 5 5600U | 7582 |
Ryzen 7 4700U | 7378 |
Ryzen 5 5500U | 7092 |
Core i7-1185G7 | 6264 |
Ryzen 5 4500U | 5920 |
Core i7-1165G7 | 5074 |
Core i5-1135G7 | 4700 |
Core i7-1065G7 | 4281 |
Core i5-1035G4 | 3800 |
Core i3-1115G4 | 2725 |
推定性能は現在ハイエンドゲーミングノートに採用されるIntelやAMDのCPUに近いです。非常に高いパフォーマンスです。
また、M1シリーズは性能だけでなく、電力効率が非常に優れていることをアピールしています。
比較したグラフを見ると、「Core i7-11800H(MSI GP66 11UG 018)」の最大消費電力が65W程度であるのに対し、「M1 Pro / Max」は30W程度であることが見て取れます。Appleの主張を信じるなら単純な処理性能も上回っているので、電力効率は圧倒的に優れていることが伺えます。
また、「Core i7-1185G7(MSI Prestige 14 Evo A11M-220)」が20W程度ということもわかります。
これらの電力と上述の表のマルチスレッド性能から電力効率を計算して、下記の表にまとめてみました。同一機体で測定されたものではないですし、Appleのテストの信用性も定かではないと思うので、大雑把な比較として参考までにご覧ください。
CPU名称 | スコア |
---|---|
Apple M1 | 520 |
Apple M1 Pro / Max (推定) | 442 |
Core i7-11800H | 187 |
Core i7-1185G7 | 157 |
最新(第11世代)のIntelプロセッサよりは圧倒的に良いことがわかります。この差が正確かはわかりませんが、ベースとなっているM1でも電力効率は非常に優れている事実があるので、「圧倒的に優れている」という事は間違いないと思います。
ただし、電力効率自体は元となっているM1無印の方が少し良いことが伺えます。M1無印は8コア中4コアが高効率コアなのに対し、ProとMaxは10コア中2コアが高効率コアで、高効率コアの割合が減っていることが要因でしょうか。
この事から、ProとMaxほどのCPUパワーが要らず、GPU性能もそこまで高性能でなくて良い場合には、大幅に安くて電力効率の優れたM1無印の方が適しているといえます。ProとMaxはM1の進化版というよりは、性能重視版という感じです。
GPU性能
次にGPU性能です。GPU性能は下記のような感じで性能が示されています。
16コアのM1 ProのGPUはM1無印の2倍で、RTX 3050 Ti(Legion 5 15 82JW0012US)に近いGPU性能となっています(数%上?)。
そして、32コアのM1 MaxのGPUはRTX 3080(Razer Blade 15 Advanced RZ09-0409CE)を上回る(1割くらい?)性能となっています。
他GPUの性能がほとんどWindowsでテストされているためにこれも正確な比較とは言えないですが、一応マルチプラットフォームに対応したGeekbench 5のOpen CL ベンチマークで比較していきたいと思います。M1 MaxはRTX 3080から+1割、M1 ProはRTX 3050 Tiから+3%した数値を載せています。全てモバイル端末向けのGPUで、デスクトップ版とは異なるため注意です。
GPU | スコア |
---|---|
Apple M1 Max GPU (推定) | 141739 |
RTX 3080 | 128854 |
Apple M1 Pro GPU (推定) | 57087 |
RTX 3050 Ti | 55425 |
Apple M1 GPU | 18260 |
UHD Xe Graphics 32EU | 7974 |
SoC自体が大きいとはいえ、統合GPUとは思えない驚異的な性能です。重い動画編集などにも十分使える性能です。
一見ゲーミング用途でも十分使えそうに見える性能ですが、MacOSではDirectXにネイティブ対応しておらず、多くの人気のPCゲーム(特に競技性の強い対人ゲーム)をプレイできないのが残念です。
また、GPUも電力効率が非常に優れていることをアピールしているため、こちらも大雑把ながらグラフから読み取った情報からざっくりとした比較を載せておきます。参考までにご覧ください。
GPU | スコア |
---|---|
Apple M1 Max GPU (推定) | 2444 |
Apple M1 Pro GPU (推定) | 1842 |
Apple M1 GPU | 1522 |
RTX 3080 | 1263 |
RTX 3050 Ti | 693 |
UHD Xe Graphics 32EU | 399 |
GPUも他社製のGPUを大きく突き放した優れた電力効率となっています。今まではM1無印のGPUよりはGeForceやRadeonの上位モデルの方が大幅に性能が高かったため、電力効率が優れていても一択にはならなかったですが、今回のM1 Pro / Maxは性能でも十分戦えるスペックとなっている上に電力効率が圧倒的に上回っています。ゲーム面ではやはりWindowsの方が多様性が高いと思うため向かないと思いますが、クリエイティブ用途に限るならめちゃくちゃ強いと思います。消費電力が減る事でバッテリー持ちや静音化にも良い影響があると思いますし、この性能が本当なら一択レベルのものだと思います。
価格:かなり高価(約24万円~)
最後に価格です。Apple Storeにて既に注文可能となっており、各構成の価格を確認することができますが、かなり高価です。
- MacBook Pro 14インチモデル
- M1 Pro(8コアCPU / 14コアGPU)/16GBメモリ/512GB SSD – 239,800円~
- M1 Pro(10コアCPU / 16コアGPU)/16GBメモリ/1TB SSD – 299,800円~
- M1 Max(10コアCPU / 24コアGPU)/16GBメモリ/512GB SSD – 299,800円~
- M1 Max(10コアCPU / 32コアGPU)/16GBメモリ/512GB SSD – 321,800円~
- M1 Max(10コアCPU / 32コアGPU)/16GBメモリ/1TB SSD – 343,800円~
- M1 Max(10コアCPU / 32コアGPU)/32GBメモリ/1TB SSD – 387,800円~
- MacBook Pro 16インチモデル
- M1 Pro(10コアCPU / 16コアGPU)/16GBメモリ/512GB SSD – 299,800円~
- M1 Pro(10コアCPU / 16コアGPU)/16GBメモリ/1TB SSD – 321,800円~
- M1 Max(10コアCPU / 24コアGPU)/16GBメモリ/512GB SSD – 321,800円~
- M1 Max(10コアCPU / 32コアGPU)/16GBメモリ/512GB SSD – 353,800円~
- M1 Max(10コアCPU / 32コアGPU)/32GBメモリ/512GB SSD – 397,800円~
- M1 Max(10コアCPU / 32コアGPU)/32GBメモリ/1TB SSD – 419,800円~
一部の構成では最大コア数よりも有効コア数が少ないため注意してください。「M1 Pro」搭載のMacBook Pro 14インチモデルは239,800円から、「M1 Pro」搭載のMacBook Pro 16インチモデルは299,800円から、「M1 Max」搭載のMacBook Pro 16インチモデルは312,800円からとなっています。
SoCのトランジスタ数が大幅に増えてサイズも大きくなっているので、M1無印搭載機よりは高くなるだろうなとは思っていましたが、予想よりも少し高い印象です。ただ、MacBook ProはSoCだけでなく他の部分もかなり高級仕様なので仕方ないとも思います。そのため、コスパが凄く悪いとは思いませんが、Windowsの安価なクリエイター向けやゲーミングPCで大幅に安いものがありますし、M1無印搭載機の方が安いため、初期費用面では不利という感じです。
元々Macを利用しているクリエイターの人には非常に魅力的な内容に見えたと思いますが、価格面を考えると、少なくともWindows利用者が乗り換える要因となるほどのコスパ面での魅力は感じない気がしました。電力効率を考えると長期的にはかなり優れているのは間違いないとは思いますが、やはり一般的には本体価格とコスパを重視してしまうと思います。また、最近ではDirectX対応の対人ゲームが人気ということも結構大きいと思います。
あとがき
といった感じで本記事の内容は以上になります。M1 Pro / Maxの電力効率と最大性能は凄まじいもので、特にクリエイターにとってはめちゃくちゃ魅力的な仕上がりだと思いました。特に、統合GPUで性能がRTX 3080クラスまで到達したというのは驚きました。電力効率もめちゃくちゃ良いですし、ディスクリートGPUの存在意義が危ぶまれる発表になったと思います。とはいえ、その分コストも大幅に増大しているようで、価格は普通にハイエンドのゲーミングノートクラスでした。仕方のない部分とも言えますが、今回のようなチップの開発にはCPUとGPUの両方を高いレベルで同時に開発しなければならないことに加え、両方を同一チップ上に実装するというかなり高いハードルになります。企業の体力もかなり必要となると思いますし、これがスタンダードになるかは難しいところかなと思いました。
今回はMacなのでゲーマーにとっては蚊帳の外感もあるものだったと思いますが、最近ではIntelやAMDも統合GPU性能に力を入れていますし、近い内に重いPCゲームも統合GPUで当たり前のようにプレイできる日が本当にすぐそこまで来ているのかもしれないと改めて思いました。今後の他メーカーの新CPUにも目が離せないです。