【性能比較】モバイル版の第10世代Core i シリーズを評価

主にノートPC等のモバイル端末向けのIntel 第10世代 Core i シリーズについてざっくりと見ていきたいと思います。先に一言だけいうと、色々と複雑化してしまっています。

注意

本記事の内容は、記事執筆時点(2019年10月3日)のものになります。ご覧になっている際には異なる可能性があるため注意してください。


モバイル端末向け第10世代の概要

10nmプロセスが「追加」

ノートPC向けの第10世代では、従来通りの14nmプロセルルール採用の「Comet Lake」に加え、10nmプロセスルール採用の「Ice Lake」が追加されました。

プロセスルール
簡単にいうと、CPUの配線の幅のこと。小さい方がスペースに余裕が出来たり複雑な配線が可能になったりなど、基本的に良い事尽くめ。

といっても、実は10nmの「Ice Lake」が先に登場し、14nmの「Comet Lake」が後から追加されたという形になっています。プロセスルールの微細化は、しっかりと実装できれば基本的に良い事しかないはずなので、後から14nmプロセスルールを追加するというのはやや不自然です。あくまで推測ですが、要するにIntelは10nmプロセスルールに苦戦しており、従来の14nmの完全な上位互換と呼べる完成度にならなかったという事だと思われます。

性能については後述していきますが、実際に10nmプロセスルールが完全な上位互換とまではいかない仕上がりとなっています。


名前がややこしい

性能と直接は関係ないですが、第10世代は名前がややこしくて分かりにくいし見にくいです。まず、14nmプロセスルールの「Comet Lake」を見てみます。

出展:Intel

IntelのCore i シリーズは、「Core i9-9900K」ののように、世代数をCPU名の一部とします。10世代だと上記画像のように「Core i7-10710U」といった具合ですね。10世代となると桁が一つ増えるため、長くて見にくいです。とはいえ、名付けのルールはそのままなので、これだけなら「その内慣れるだろう」と許せるレベルです。問題は10nm「Ice Lake」です。


出展:Intel

「Ice Lake」では、従来とは少し違う表記ルールとなっています。まず、世代数以下の製品ナンバーが3桁から2桁へと減っています。世代数の10で桁数が増える分を減らしておこうという感じなのかな?これはわかります。「Ice Lake」の10nmというプロセスの微細化は、軽く上で触れたように、14nmと比較すれば本来良いこと尽くめです。そのため、恐らく今後は10nmを主流としたいから、その布石としてCPU名だけ先に軽く整備しておこう的なものだと思われます。

問題はその後で、末尾が内蔵GPUを表したものとなっており、「G1」や「G7」という「アルファベット+数字」の二文字となっています。「Iris Plus Graphics G7」などの末尾の部分ですね。折角製品ナンバーを一字減らしたのに、ここで増やしたので結局文字数が減らないです。

具体的なCPU名としては「Core i7-1065G7」のような形となっており、これが従来の14nmの「Core i7-10710U」などと一緒に出てくる訳ですから、ややこしいです。ある程度PC情報を追っている人ならまだしも、頻繁にチェックする訳でない人たちは何が何やら状態になるのではと思います。海外の有名な某レビューサイトでは、「面白いでしょ?」なんて皮肉気味に言われていたりもしました。


Ice Lake は内蔵GPUが異なる

従来通りの14nmプロセスの「Comet Lake」では、前世代と同じ「Intel UHD Graphics 620」が採用されているらしいですが、10nmプロセスの「Ice Lake」ではGPUが異なります。下記を見てください。

  内蔵GPU 搭載CPU(例)
末尾G7 Iris Plus Graphics G7 Core i7-1065G7
末尾G4 Iris Plus Graphics G4 Core i5-1035G4
末尾G1 UHD Graphics G1 Core i3-1005G1

上記のように、末尾の2文字が内蔵GPUを表しています。G7とG4は「Iris Plus Graphics」で、G1だけ「UHD Graphics」となっています。名前からも分かる通り、G1のみ少し性能の低いGPUが搭載されているため、注意が必要です。


性能比較

簡易比較

まずは、簡易比較表を見ていきます。第10世代ラインナップ登場以前の主要CPUを一緒に載せています。
この記事を書いている時点でPassMarkでのスコアの記載があるもののみ載せているので、やや物足りなさも感じるかもしれませんがご容赦ください。

CPU名 ベンチマーク
(PassMark)
コア/
スレッド
TDP 動作クロック
定格 – TB時最大
プロセス
ルール
iGPU
Core i7-1065G7 10610 4/8 15W 1.3GHz 3.9GHz 10nm Iris Plus G7
Core i7-10510U 9755 1.8GHz 4.9GHz 14nm UHD (620)
Core i5-10210U 9232 1.6GHz 4.2GHz 14nm UHD (620)
Core i5-1035G1 9135 1.0GHz 3.6GHz 10nm UHD G1
Core i7-8550U 8250 1.8GHz 4.0GHz 14nm UHD 620
Ryzen 7 3700U 8050 2.3GHz 4.0GHz 12nm RX Vega 10
Ryzen 5 3500U 8000 2.1GHz 3.7GHz 12nm Vega 8
Core i5-8250U 7650 1.6GHz 3.4GHz 14nm UHD 620
Ryzen 3 3300U 6150 4/4 2.1GHz 3.5GHz 12nm Vega 6
Core i3-10110U 5930 2/4 2.1GHz 4.1GHz 14nm UHD 620
Core i3-1005G1 5905 1.2GHz 3.4GHz 10nm UHD G1
Ryzen 3 3200U 5100 2.6GHz 3.5GHz 12nm Vega 3

前世代より処理性能は向上

現在主要なIntelの第8世代Uシリーズと比べると、性能は全体的にやや向上しています。ただし、最大クロックが上がっている分だけにも正直見えるので、効率的な処理を行えるようになったとは言えないかもしれません。とはいえ、Ryzen 3000Uシリーズよりは高い性能となったため、競争面ではやや優位にはなるでしょう。

10nmプロセスに苦労が見える?

表を見ると、10nmプロセスの「Ice Lake」と末尾Uの14nm「Comet Lake」の性能差がほとんどありません。Core i7以外は「Comet Lake」とほぼ同等の性能となっています。「Core i7-1065G7」だけはやや高いスコアを記録していますが、これは「Comet Lake」側の最上位モデルが表に無いためです(Passmarkにまだスコアがなかった)。コア・スレッド数が同じで、本来全面的に有利になるはずの10nmプロセスを採用している事を考えると、全体的な結果としては少し物足りないです。正直をいうと少し期待外れでした。

また、プロセスの微細化の利点には消費電力・発熱の軽減もあるはずなのですが、「Comet Lake」より動作クロックは低くなっているのにTDPは同じ15Wです。同じ周波数であれば、「Ice Lake」の方が消費電力・発熱が多いという事になります。動作クロックあたりの処理性能は大幅に向上しているので、10nmの効果は確認できますが、TDPを見る限りは本来の利点を発揮できておらず、10nmに苦労している風に見えます。


グラフィック性能

次に内蔵GPUのグラフィック性能を見ていきます。どちらかというとIntel側はこちら側を強く推していたようですし、対抗のRyzenの強みでもあるので、注目です。

【3DMark Fire Strike(1920×1080) Graphics】
GPU 3DMark 搭載CPU(例)
Iris Plus Graphics G7 2864 Core i7-1065G7
Iris Plus Graphics G4 2210 Core i5-1035G4
Radeon RX Vega 10 2147 Ryzen 7-3700U
Radeon RX Vega 8 2079 Ryzen 5-3500U
Radeon RX Vega 6 2064 Ryzen 3-3300U
UHD Graphics G1 1521 Core i3 1005G1
Radeon Vega 3 1259 Ryzen 3-3200U
UHD Graphics 620 1121 Core i5-10210U

14nmの「Comet Lake(採用例:Core i5-10210U)」の内蔵GPUは、公称では「UHD Grapdhics」となっていますが、仕様的には今まで主流だったUHD 620と同じものが引き続き採用されているっぽいです。14nm「Comet Lake」よりは、Ryzenの方がグラフィック性能が高く汎用性の点で魅力的、という点は今までと変わらないですね。

そして、注目の10nm「Ice Lake」 に搭載されている内蔵GPUですが、全てUHD 620の性能を大きく上回っています。大きな進歩です。ただし、RyzenのVega Mobileシリーズには大きな差をつける事はできず、やっと追い付いたという感じです。CPUの性能はIntelの10世代の方が少し上回っているので、価格差が無い前提であればIntel側がやや優位ですが、最近のRyzenのめざましい成長を見ると、もう少し引き離しておきたかったというのが恐らく本音だと思います。

また、G1に関しては唯一Iris PlusではなくUHDのままで、性能も一段落ちています。Core i3やCore i5の下位モデルを検討する場合には注意が必要です。


総評・まとめ

最後に総評としてIntelの10世代Core iシリーズについてまとめています。

現状では「Ice lake」が最良の選択にはなりそう、だが…

正直に言うと総合的にはやや期待外れではあった10nmプロセスの「Ice Lake」ではありますが、CPU性能はRyzenを上回り、内蔵グラフィックの性能も追い付きました。2019年10月現在でいえば、省電力のノートPC用のCPUとしては最良の選択となると思います。実際の消費電力や発熱についてはやや不透明な部分もあり、あくまでカタログスペック上での話ですが、現行のRyzen 3000Uシリーズよりは少し優位になったと言って良いと思います。

ただし、Ryzen側はデスクトップ用CPUでは7nmプロセスの実装に成功しており、現行のRyzen 3000Uシリーズは12nmですから、遠くない未来で性能を大幅に向上させる可能性が十分にあります。そうなると、恐らく今回の「Ice Lake」の性能では追い抜かれてしまうので、今後の動向に注目です。


それでは、記事はここまでになります。残りは参考ページだけ載せて終わりにしたいと思います。ご覧いただきありがとうございました。

5 COMMENTS

とねりん:管理人

公表のスペックではそうなっていますが、基本仕様と性能を見る限り「UHD 620」と同じものでほぼ間違いないです。邪推すると、世代が変わったのに同じGPUだと進歩が無いと見られてしまうのを気にして、番号を伏せて表記しているものと思われます。記事内では、違うものと思われないようにあえて620と表記しています。

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匿名

適当なことを言いますが、14nmのシリーズは10世代目として、10nmのものは1世代目から番号を振りなおす予定なのでは?

返信する
とねりん:管理人

記事内にも貼った、Intelが出した画像にてIce Lakeの「10」は世代番号と示されています。公式発表になります。画像が粗いし小さいしで見えにくくて申し訳ないです。
ただ、恥ずかしながら誤記がありまして、記事内で「世代番号の次の製品番号が4桁から3桁へと減っている」と書いていましたが、これは「3桁から2桁」の間違いですね。本当に申し訳ないです。(修正しました)

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